おかあさんといっしょの先駆的決意性
4月からNHK『おかあさんといっしょ』の人形劇がリニューアルしている。子供がいるわけでも自分で見るわけでもないが、ニュースにもなるし周りの子供の親の人達が話題にする。
『ファンターネ!』、「可能性と多様性」がテーマで時世に合わせたキャラクターと設定である。カッパの女の子に無性別のヒョウタン、キャラとしては定番のライオンの男の子はバレエダンサーになるのが夢だ。
多様性の話になるとジェンダーがどうだ、ポリコレがどうだで双方向から面倒くさいと感じることが多々あるが、適切な塩梅なんじゃないだろうか。
カッパは動物以外のキャラではマイナーではないし(なんかアマビエっぽいし)、性別が設定されていないキャラなんて幾らでもいる上に植物を無性別とした方が適切だ。バレエダンサーを目指す人は普通にいるし、大人になった今、男でも女でもカッコいいと思える。ダンスが体育の授業に取り入れられたり、ブレイキンが次回パリ五輪の正式種目になっている。ダンスの素養を鍛えるためにバレエとか舞踊の基本って大事だと思う。見様見真似だけでコンテンポラリーダンスとかできないもん。昔からバレエとかピアノとか女子のものってイメージが付き過ぎて大人になってから何かしら表現や創作をやるようになってから「子供の頃、習いたかったなあ…」と感じる男性も(女性も)多いと思う。
前作人形劇の『ガラピコぷ~』の時点で強気なウサギの女の子と内気なオオカミの男の子だったので、その頃から固定観念の打破を意識していると思う。
で、それ以上に注目したいのが着ぐるみではない棒遣い人形でサブキャラクターのマーキーだ。子供達に色々教える大人の立場のカマキリで、幼少時に怪我をして車椅子に乗ってラッパー調で喋り動画配信業をしている。視聴者投稿の動画紹介コーナーとかを受け持って、前作では新聞記者だったポジションの派生でHIKAKINとかからオマージュをしているのだろう。
子供のいる先輩と雑談していた時、「こいつキャラ盛り過ぎじゃねえか? 多様性とか意識するにしたって身体障害者と動画配信者のどっちかでよくね?」と言ってきたので話の流れで「盛ってますねw」とその場は何の気なしに返してしまったが、その帰り道に「盛っているか? 適切なんじゃないか? 必要なんじゃないか?」と考えていた。
キャラクターデザイン的なことを考えると昆虫の中でも擬人化しやすくて人気のあるカマキリをミニカーのような車輪の付いた乗り物に乗せていて、玩具的で子供の好きこのみそうな見た目だ。『ピタゴラスイッチ』のネズミのスーに近い。それにラップによる音楽と言葉遊び、ネット動画と子供が夢中になる要素だらけだ。
内面的やメタ的なことで考える。多様性を意識して身体障害者を出すとして着ぐるみの子供キャラでは色々と制約が多い。棒遣い人形なら操作もしやすい。どうしてもネガティブ要素になる身体障害をラッパー、動画配信者という陽気で若干チャラめなポジティブ要素で相殺させると同時にそれなりに若いが物知りな大人要素を出せる。むしろ車椅子だけだと多様性のために忖度して取って付けただけ、動画配信だけだと流行りに乗っかってチャラくしただけになりかねない。
さらにマーキーのバックグラウンドについて考える。彼はなんで動画配信しているのか? 幼少時の怪我という設定を大真面目に捉えると、これこそマーキーという人物を作り上げている要素に他ならないと思える。自分の足で歩くことができなくなった。でも周りや社会と関わりを持つためにどうすればいいか? どうすれば障害者というイメージを払拭できるか? その答えがラッパー調のセルフプロデュースと動画配信なのではないだろうか。それこそ番組テーマである「可能性と多様性」なのではないだろうか。
たかがちゃんと観てもいない幼児向け番組のカマキリに何を真面目になって勝手に考えているんだと自分でも思うが、この時同じくNHKの『100分de名著』で取り扱っていたのがハイデガーの『存在と時間』で「先駆的決意性」について説いていたので自分の中でそれに繋がってしまった。
いつか死ぬという意識、死と隣り合わせになった意識からどのように生きるべきなのか考えて道を選んで常に進まなければならない。
そんなようなことを何の気なしに考えていたのが数ヶ月前。一ヶ月前、原付でトラックと衝突して7m吹っ飛んだ結果、再び考えている。
もしもあの時、両の足で歩くことはおろか立てなくなっていたら? 手が動かなくなってバイクを運転することも絵を描くことも文章を打つこともできなくなっていたら? 人前に出れないほど顔面が潰れていたら? 目が見えなくなっていたら? 耳が聞こえなくなっていたら? ものを考えることができなくなっていたら? 死んでいたら? …
動画配信はしないにしても、考えて何かを決意しなきゃいけない。
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