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「体得」は、非効率に見えることの積み重ね

何かができるようになる、それもきちんと「仕事」として評価される、一流のレベルに達するためには、効率化したい欲を一度捨てて、一見非効率に見える修行期間が必要なのではないか──。

社会人になって、自分が生み出す価値に値段がつけられるようになってから、私は常々「習得」「学習」のプロセスに興味関心を抱いてきました。

さらにこのnoteが多くの方に読んでもらえるようになり、「読まれやすいnoteを書くには」をテーマに話したり書いたりする機会が増えたことで、何かを身につけたり能力を伸ばすためのプロセスに、近道などないのではないか?という思いも強まりました。

現代において「修行」や「師弟関係」は古い慣習とされ、一般的な企業における新人教育は、まるで学校の延長のように言葉を尽くして丁寧に教えることが是とされています。

もちろん、言語化できることは言語化して伝えた方が双方にとって有益であることは疑いようもない事実です。一方で、「わかる」と「できる」のあいだにある大きな隔たりは、システマチックな教育だけで埋められるものではないのではないかとも思うのです。

特にかたちあるモノに関与しないジャンルの仕事は、知識と情報さえ身につければ「できる」ものだと思い込んでしまいがちです。けれど、どんな仕事であれ知識があることと実際のパフォーマンスの間には乖離があるもの。

だからこそ、体系立てた知識を懇切丁寧に「与えられた」だけで、「できる」と思い込んでしまうことに危機感を抱かずにはいられません。

私は小売の世界で仕事をしてきた期間が長いので、リアルな「モノ」をつくる技術と届ける仕組みは一朝一夕に出来上がるものではないと痛感する機会が多々ありました。

これだけあらゆる情報が共有され、高度な分析とそのデータをもとにした予測や再現が可能になっても、私たちが身体をもっているかぎり、最後の最後に微妙な違いを作るのは、私たち自身の体が何を「習得」してきたかに依存する。

これはリアルなモノだけではなく、オンライン上にアップするコンテンツにも同じことが言えると思います。文章のリズムや写真の構図や動画の構成、それらもまた何を習得してきたかによってアウトプットのクオリティが変わる。イベントの企画や体験の設計も同様だと思います。

だとしたら、「習得」のプロセスについて考えるうえで、今改めて昔ながらの職人の考え方、育て方から学ぶべきなのではないか。それらは廃すべき過去の遺物ではなく、本質的には現代にも続く「土台」のようなものなのではないか。

職人の考え方を紐解くような企画ができないだろうかと考えていたところ、OTEMOTO(オ・テモト)という新しいメディアで「職人の手もと」という連載企画を担当させてもらうことになりました。

初回は、土屋鞄製造所の職人さんに「教え方・学び方」をテーマにお話を伺いました。

お二人にお話を聞いたことで、職人の世界でよく言われる「見て盗む」「すぐには言葉で教えない」といった慣習は、技術の体得という意味ではむしろ合理的なのだということも学びました。

もちろん「職人」と一口にいっても、扱うものが変わればよりよい学び方も変わるし、一人で完結する独立型か、チームワークが必要不可欠な工場型かによっても最適な方法は変わります。

そういう意味では、職人のコアな部分は継承しつつも「クラフトマン2.0」を宣言し、新たな職人像を作り上げようとしているSHIBUYA CHEESE STANDのチーズ職人・藤川さんの記事もあわせて読むと、「職人」の世界がもつ奥行きをより感じられるのではないかと思います。

私はジョッシュ・ウェイツキンの「習得への情熱」が好きでよく読みかえすのですが、その中にこんな言葉が出てきます。

「自分を楽しませてくれる新たな既成の何かを常に追い求める姿勢は、自分の真下にゴージャスな深淵があることに気づくことなくただ平面的な世界に浮遊しているようなもの」

現代は情報が多すぎるがゆえに目移りする機会も多く、ひとつのことを極め続けることが難しい時代でもあります。

だからこそ、「職人」としてひとつの世界を探究しつづけてきた人の視点から学ぶことはたくさんあるはずだし、何かを学び習得していくプロセスのヒントになりえるのではないか。

そんな想いをもって、取材のたびに身の引き締まる思いをしながら、私も「届ける」を日々探究しつづけています。

まだ企画としてはじまったばかりではありますが、職人の哲学を職人以外の人たちにも意味のあるかたちで届けていきたいと思っていますので、どうぞよろしくお願いします。

あと、取材させていただけそうな職人さん情報もお待ちしておりますので、ぜひ自薦でも他薦でも、職人さん情報をお寄せください〜!


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