エースに求められる「試合を作る」力
プロ野球には「試合を作る」という言葉がある。先発投手が前半で大きく点をとられることなく回を重ね、試合の流れをチームに引き寄せることができれば「あの投手は試合を作った」という。逆に序盤で大量失点すると「試合を壊した」と言われる。
試合を作れる投手かどうかはQS率で見られることが多いが、何点取られたかという数字だけでは表現できないものがそこにはあるような気がしている。
先週の金曜日に大野がやっとはじめての白星をあげた試合が、まさに数字には表れない「試合を作る」力を感じた登板だった。
この日登板した大野は、6試合を投げていまだ勝ち星のない状態だった。開幕から2試合ほどは序盤に炎上していたこともあったが、直近はいい投球をしており、あとは打線の援護と噛み合うだけなのに…と思いながら毎試合結果を見てはため息をついていた。
そんな大野の7回目の登板を、私は祈るように中継で見ていた。ストレートの力もあり、バンバン三振をとっていく大野の姿に、今日こそ勝ちがつくかもしれないとわくわくしながら。
結果的に9回まで完投して勝利をおさめたものの、試合内容を見るとお世辞にも「理想的な勝ち方」とはいえない試合であった。
インタビューで「いつもホームランを打たれるので…」と自虐するくらい飛翔グセのある大野だが、この日もしっかり2本ホームランを打たれている。さらにここぞの場面でバントをミスしてゲッツーになったり、ピッチャーゴロの処理が甘くて内野安打になってしまったりと投球以外のつっこみどころも多かった。8回裏に2アウト満塁の大チャンスで回ってきた打席も、大野はもちろん三振した。
それでも大野に勝ちがついたのは、たとえ不格好でも懸命に勝とうとする姿がチームに伝播したからなのだろうと思う。
ホームランを打たれた球以外は甘く入ることもなく効率よくアウトをとっていたし(なので球数が少なく完投できたともいえる)、バント失敗したとはいえ初回の打席では珍しく粘って塁に出る執念を見せたりもしていた(ちなみに大野は打撃の方はからっきしなので普段はわりとすぐ三振でアウトになる)。
斉藤和巳は「気合だけでどうにかなるほど甘い世界ではない」と言っていたけれど、投手の勝ちにこだわる姿勢が野手のモチベーションにつながり、試合の流れが変わることもあるんじゃないか、と私は思う。逆もしかりで、野手の一打や好守が投手の調子をあげることもあるはずだ。
もちろんどの選手も勝ちにこだわって戦っているとはいえ、人間なので調子の波もある。どんなに気持ちがあっても、結果が伴ってこないこともある。
それでも諦めることなく、たとえ不格好でも必死に結果をだそうともがく姿こそが、「試合を作る」につながるのではないかと思うのだ。
「試合を作る」とは、全員が勝利を信じてそれぞれのパワーを最大限に発揮できる状態である。誰一人今日は負けるかもと諦めたりせず、たとえ負けていても次の回には逆転できると全員が信じきれている状態だ。
大野の今季初勝利は、まさに彼の「試合を作る力」で手にしたものだったような気がする。
エースの仕事は、たとえ調子が悪くて試合が壊れそうになっても、自分自身が諦めないことで空気をひっぱっていくことにある。
どんな人も常に勝ち続けられるわけではないからこそ、調子が悪く不安に苛まれたときでも自分たちの勝利を疑うことなくマウンドに立ち続ける姿勢がエースをエースたらしめているのではないかと思うのだ。
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ちなみに大野は一昨日金曜日も完投勝利をおさめ、なんと2試合連続の完投で白星。ホームランを打たれるところは相変わらずだけど、今年もノーノーが期待できるんじゃないかと思うほどいい投球を続けているので、今後の大野に期待したい。
なにはともあれ…
\大野、2連続完投勝利おめでとう/
(これは3年前の「1勝目!」のしゃしん。)
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