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キャズムを超えるために必要な「新しさ」のアンラーン

日頃新しいサービスやプロダクトに接することが多いのですが、ある程度成長すると必ず『キャズムをどう超えるか』という話になります。

イノベーター理論でいうアーリーアダプタまでは普及したけれど、マジョリティに移行するための溝(=キャズム)を超えられず、停滞してしまうサービスやプロダクトは山ほどあります。

私自身百貨店を辞めた後はずっとスタートアップ界隈にいるのでこの問題についてずっと考えてきたのですが、最近気づいたのは、アーリーアダプタとマジョリティの間で『新しさ』への評価が異なることに気づけているかどうかなのかもしれない、ということ。

新しいサービスを作る人たちは、言わずもがな新しいことに抵抗のない人たちであり、ほとんどが普段の生活の中でもイノベーターもしくはアーリーアダプターに属する人たちだと思います。

そして、はじめにそうしたサービスを使う人たちもほぼアーリーアダプタで、ミーハーな人たちが大多数です。

彼らにとって『新しさ』とは大きなアドバンテージであり、新しいものを使ってみたということ自体がステータスになりえるので、立ち上がりからしばらくはどんどんユーザーが増えていきます。

また、コミュニティが小さい分ユーザーと創業者の関係が近いことも多く、応援の意味で使ってもらえたり、評価が甘くなったりもするので、スタートアップ側は『これはいけるぞ!』と思ったりします。

しかし、そもそもアーリーアダプタ自体の市場は大きくない上に、彼らは新しいものに飛びつきやすいからこそ、次の面白いものを見つけたらどんどん次に移っていってしまいます。

そうこうしているうちにアーリーアダプタが使っているのをみたアーリーマジョリティたちが興味を持って使ってみるものの、彼らは創業者と友人関係でもないし、新しさだけで評価してくれるようなタイプではないので、『話題だから使ってみたけど微妙だった』という評価が増え、マジョリティまで到達することなくしぼんでいく、というのがよくあるパターンなのではないでしょうか。

そうならないために理解しておくべきなのは、アーリーアダプタとマジョリティでは『新しさ』に対する評価が正反対といっても過言ではないほど異なるということです。

アーリーアダプタは新しさをアドバンテージとして認識しますが、マジョリティになればあるほど新しさは『怖いもの』『信用ならないもの』として理解されます。

その対象がテクノロジーや科学など理解できないものであればあるほどその傾向は顕著になります。

それでも使ってみようとマジョリティに思ってもらうためには、新しさという足かせを差し引いたとしても使いたいと思わせるだけの価値が必要になります。

このとき、既存ユーザー(=アーリーアダプタ)の評価を鵜呑みにしすぎず、自社サービスやプロダクトを使ったことのない層に使ってみてもらって、使いやすさなどをレビューしてもらう必要があると私は思っています。

既存ユーザーのヒアリングももちろん重要ですが、ターゲット層を広げていく上では前提知識や行動様式の異なるユーザーの見方・考え方をインストールしていかなければならないからです。

ちなみに、同じ『新しい』でも、新しいケーキ屋さんやパン屋さんなど、『既存の知っているものの中で新しいもの』であれば、マジョリティにとっても抵抗はほとんどありません。

つまり、アーリーアダプタからマジョリティへ移行する際のキャズムを超えるには、いかにイノベーションではなく既存の何かのアップデートを演出できるかなのではないかと思うのです。

たとえばiPhoneにしても、はじめはギークな人たちの間で『ものすごいイノベーションだ!』と話題になりましたが、大多数の人たちにとっては単に『携帯のリプレイス』でしかなかったはずです。

『どうせ機種変するなら、ちょっと高いけど電話とメール以外もできるらしいし、これにしてみる?』という動機で使う人が増え、その満足度の高さから一気に広まっていったのです。

スタートアップの人たちは自分たちがアーリーアダプタ気質である分、新しいことはいいことだという思想に囚われ、自分たちがいかに新しいか、イノベーティブな存在かをアピールしようとしていまいますが、実はキャズムを超えるには『新しそうに見せないこと』こそが重要なことなのではないかと私は思っています。

一度身につけてしまった新しさという武器をアンラーンし、プロダクトの中核を成す価値にフォーカスすること。それこそが、キャズムを超えるために私たちがやるべきことなのかもしれない、と考えているここ最近です。

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今日のおまけは、『ひとつのものにフォーカスすることの強さと脆さ』について。

NAADAMというカシミアブランドが、ひとつのセーターを専門に売る店舗を出したのですが、これからは店舗もひとつのプロダクトにフォーカスしたものが増えるかもなあ、と思った話です。

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