切望
一つ歳下の元恋人と、ふたり乗りで田舎道を走った。夢の中で。最後には彼ひとりが転落事故に遭い、私が救急車を呼んだ。彼と普遍的な人間関係について話した気がするが、うまく思い出せない。
目が覚めても、今の恋人からラインの返信はきていなかった。(便宜的に“今の恋人”と言ってしまうことで、それが永遠でないことを思い知らされる。)
「行きたいところはないけど、ハグしたいってだけじゃだめかな」
14時、「いいと思う」と彼は返した。
コンビニで買ったマーマレードを焼きたての食パンにのせると、つやつやときらめいていた。
ローズピンクのアイシャドウとリップをぬって、白のアイラインをひき、眼鏡と恋人に買ってもらったカラフルな帽子を身につけて外へ出た。
祇園四条にあるカフェ・オパールに行った。
チーズケーキが売り切れだったので、黒糖焼酎バターケーキなるものと、アールグレイのミルクを頼んだ。ケーキのうえにはデーツがあり、存在を知ってから4ヶ月越しにそれを食した。
ゆっくり、丁寧にマグカップのアールグレイを口に運びながら、持参した江國香織さんの『ウエハースの椅子』を読み切った。柔らかく、くるしかった。
好きなひととこういうふうにあれたらといつも思うのに、絶対にそれはかなわないとも思う。
ところで、私は小説のなかで江國香織さんのものがいちばん好きだ。ことば遣いを寄せようと試みてしまうほどに。
タイムリーにも、今日noteでフォローしている方が好きな小説家について書いていて、ひとりに江國さんを挙げていた。それにあやかって、あの小説家が好きだと私も言いたかったけれど、良さをこまかく主張できるほど何冊も作品を追ってきた方はいない。
ただ、江國さんや、吉本ばななさん、島本理生さん、川上弘美さんが書くような、日常の機微をすくいとる切ない恋のお話には心を動かされることがある。
江國さんに関する思い出を言うと、恋人と付き合い始めの頃にお互いの好きな小説を交換して黙々と読む会をしたことがあって、私は『泳ぐのに、安全でも適切でもありません』という短編集を彼に貸した。
読後、この本で私のお気に入りはどの短編だと思うかと問うと、「うんとお腹をすかせてきてね」かな?と彼が言い当てたので、おどろいた。この作品は一緒にたくさん食事をするカップルの日々を魅惑的・官能的に描いたもので、幸福かつ、ほんの少しのかなしさに満ちている。
私はこのような、“ふたりだけの世界”みたいなものに憧れてやまない。ほんとうは会ったらできるだけセックスをしたいとか、「そう思うだろうと思ってたよ」って言われたいとか。所詮は別々の人間で、だから断絶がリアルなのだとしても、ひとえに融合を信じていたいと思っている。
この切望を体現してくれるのが江國さんの小説なのか、江國さんの小説に影響されてそう願うようになったのかはわからないのだけれど。
今日は(今日も)日記の範疇を超えてしまった!