独裁とは大小問わずこんなものなのだ『スターリンの葬送狂騒曲』
スターリン死去後のソ連政府内の権力争いを描くイギリス・フランス製作のブラックコメディ映画。
スターリンを囲んでの内輪の宴会から不穏な空気が流れている。今作の主役である二人、NKVDのベリヤと後の最高指導者であるフルシチョフもスターリンに調子を合わせながら彼の挙動に注目し取り繕っている。スターリンの”一声”で誰もが殺されるからだ。そして宴会終了後の翌朝、スターリンが危篤状態になったことから党幹部たちの権力争いが始まる。この幹部たちが揃いも揃って己の立場を守りつつ他の幹部を出し抜こうと右往左往している様が笑える。当初はべリヤが後任者争いで有利に立つが一瞬先は闇と言わんばかりにフルシチョフが史実通り裏工作を進めていく様がおかしくも恐ろしい。
ぼく自身がブラック会社で働いていたので幹部たちの気持ちが多少なりともわかるのだが、社長なり上司なり自分の上に立つものに生殺与奪を握られている立場では誰もが”従順”な部下を演じなくてはならない。もちろん辞めた今となっては何でそこまで媚びへつらえなくてはならなかったのかと自問自答することもあるが、その時はその世界が当たり前なのである。ましてや今作が描くのは鶴の一声で簡単に命を奪われる本当の地獄なのだ。本作はコメディなので彼らの様子が面白おかしく描かれているが実際はとてもとても恐ろしい暗黒の歴史なのである。監督・脚本のアーマンド・イアヌッチはインタビューで「登場人物は皆、残忍で凶悪なところがある。一部のキャラクターは特にそうだ。観客が共感を覚える人物や、毛嫌いしたくなる人物もいる。しかし常に覚えておいてほしいことは、たとえ登場人物に共感し応援したくなったとしても、外の世界では、彼らの行動が普通の人々にひどく壊滅的な影響をもたらしていたということだ」と述べている。ぼくの場合は会社を辞めることで解決できたが独裁国家ではその国から亡命でもしない限り逃れることはできない。だからぼくたちは絶対に独裁者を産み出してはいけないのだ!!
ところでフルシチョフを演じたスティーヴ・ブシェミだが今作を観て印象がガラッと変わった。もちろん彼の出演作の全てを観たわけではないのだが、いつも独特の癖のある変人役ばかり見ていたので今作の(似ても似つかないが)フルシチョフ役は彼の演技力の凄さの一端を観たようである。
今作を観て笑える世界の住人であることを噛みしめましょう。