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つらい、それでも彼女は…『あんのこと』

 今作は朝日新聞に載った記事にインスパイアされたとのこと。
 子供のころから毒親の母から虐待を受け売春を強要されドラッグ中毒でもある河合優実演じる主人公がオーヴァードーズ事件をきっかけに佐藤二朗演じる人情派の刑事、稲垣メンバー演じる雑誌記者と交流するところから始まる。刑事や記者は毒親から彼女を引き離すために生活保護申請を助け、仕事先を世話したりして彼女の更生を手助けする。すべてがうまく回り始めた矢先、コロナ禍が始まり…
 脚本も兼ねる入江悠監督は決して悲劇を映すだけでなく彼女も楽しく前向きに生きて行こうとしていたことを表現したかったとインタビューで述べている。実際劇中では新しい住処、介護従事者として介護者から頼られる達成感、夜間中学に通い勉学に勤しむ姿は希望に溢れている。しかしコロナの影が我々と同じように彼女に覆いかぶさりせっかく掴んだ一縷の希望が少しずつ蝕まれていく様を観ていくのが何とも…
 あと監督は彼女は特別でなくたまたま我々の”目”に留まらないだけで実際は隣人かもしれない、街中ですれ違う人かもしれない、それぐらい”普通”の人であるともいう。だから観た我々は彼女の生い立ちを含めた”不幸”を一過性のものではなくどこにでも転がっているありふれた出来事であることを鑑みなければならない。

 ブラックライブズマター運動以降、今まで”常識”だったことがドラスティックに変わり、あらゆることを疑い考え直す時期が到来した我々は”家族”という”形態”にも疑問を持つべきではないだろうか。何か問題があれば家族内で解決すべしという”古い”慣習をゆるいコミュニティ的なものに頼ったり、しかるべき行政機関が助けたりみんなで連帯して生きていくような社会が第二第三の別の”彼女”を救い出せるのではないでしょうか!


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