クォックグー本来の綴りによるベトナム語外来語単語【ホーン付きO】

令和6年度のアドベントカレンダー15日目です。
12月15日は、近年英語そのままの綴りで表記される単語が目立ってきているベトナム語に取り入れられた外来語・借用語表記におけるクォックグー本来の綴りの【Ơ】部を取り上げます。


ヲー【Ơ・ơ】

オーO》にホーン記号が付加された《Ơ・ơ》は、後舌非円唇母音[ɤ ヲ]あるいは中舌母音[ə アまたはウ]を表します。
フランス語〈EU, ŒU〉[ø ウまたはエ/œ ウ]や英語〈ER, IR, UR, YR〉[ɝ アー/ɜː アー/-ɚ ア/-ə ア]に由来する借用語に多用されます。

  1. Ơ-ca-lýp-tút ⬅ Eucaryptus】ユーカリ - 漢越語ではビャクダンを表す〈Bạch đàn / 白檀〉がユーカリを意味する。

  2. Ơ-rê-ca ⬅ 🇬🇷Εὕρηκα, Εύρηκα / 🇬🇧Eureka / 🇫🇷Euro】エウレカ……わかった。

  3. Ơ-rô ⬅ 🇫🇷Euro】ユーロ《💶》……EU欧州連合《🇪🇺》の通貨。音楽ジャンルなど英語経由の借用語のものは〈Iu-rô〉と表記。

  4. Ơn-chang ⬅ 🇰🇷얼짱=Eoljjang / 🇬🇧Ulzzang】オルチャン……美女, イケメン。

タイン・フイェン付きヲー【Ờ・ờ】

ヲーƠ・ơ》[ɤː ヲー/əː アーまたはウー]に第2声調記号であるグレーブアクセントˋ》が付いた《Ờ・ờ》は“陽平”すなわち低平調を表し、各種言語のラテン文字正書法の原綴で2重子音となる箇所での第1子音と第2子音との間に挿入されます。
また、日本語の《》や韓国語の《으・ㅡ》のように、借用語における末子音に付加される母音であることを示していますが、地名や人名など固有名詞の場合は声調記号が付加されない状態、すなわち第1声調である陰平に変化します。

  • C・c【C, K ➡ CỜ】カー/コー[cəː˨]。

  • CH・Ch・ch【CH ➡ CHỜ】チャー/チョー[cəː˨]。

  • D・d【Z ➡ DỜ】ザー/ゾー[zəː˨]またはヤー/ヨー[jəː˨]。

  • Đ・đ【D ➡ ĐỜ】ダー/ドー[ɗəː˨]。

  • G・g【G ➡ GỜ】ガー/ゴー[ɣəː˨]。

  • GI・Gi・gi【J ➡ GIỜ】ザー/ゾー[zəː˨]またはヤー/ヨー[jəː˨]。

  • KH・Kh・kh【KH ➡ KHỜ】ハー/ホー[xəː˨]またはカー/コー[kʰəː˨]。

  • NH・Nh・nh【GN ➡ NHỜ】ニャー/ニョー[ɲəː˨]。

  • PH・Ph・ph【F ➡ PHỜ】ファー/フォー[fəː˨]。

  • R・r【R ➡ RỜ】ザー/ゾー[ʐəː˨~zəː˨]またはラー/ロー[ɹəː˨~ɺəː˨]。

  • S・s【SH ➡ SỜ】シャー/ショー[ʂəː˨]またはサー/ソー[səː˨]。

  • TH・Th・th【TH ➡ THỜ】ター/トー[tʰəː˨]。

  • TR・Tr・tr【TR ➡ TRỜ】チャー/チョー[ʈʂəː˨]またはチャー/チョー[cəː˨]。

  • X・x【S ➡ XỜ】サー/ソー[səː˨]。

子音の音韻としてのクォック・グーの字母名は、末尾に〈-Ờ・-ờ〉[-əː˨ アー]が付くのがルールで、セーC》はCOW2CỜ〉[kəː˨ カー], ジェーG》はGOW2GỜ〉[ɣəː˨ ガー]という風に子音字本来の発音を示します。

タイン・サック付きヲー【Ớ・ớ】

ヲーÔ》[ɤː ヲー/əː アーまたはウー]に第3声調記号であるアキュートアクセントˊ》が付いた《Ớ・ớ》は音節末の破裂音〈C, CH, P, T〉の前に付加して“陰入”を表し、これも原則的にアキュートが付加された綴りとなります。

ヲー【Ơ】に対応する英語由来の外来語接尾語に含まれる【R】の表記

ヨーロッパの言語における固有名詞の〈-ER〉に対応するベトナム語の表記は、英語のアー[🇬🇧ɜː, -ə /🇺🇸 ɝː, ɚ]の場合は語中・語末共に〈-Ơ・-ơ〉[əː˦ アー/ɤː˦ ヲー]となり、英語ラテン文字〈IR・UR・YR〉などの場合も同様です。
フランス語のエル[ɛʁ]の場合は語中では〈-ÉC-・-éc-〉[ɛk˧˥ エック]、語末では〈-E・-e〉[ɛː˦ エー]と表記されます。
例えば…

  • ER=アー/エル【🇬🇧〈-ơ-〉―🇫🇷〈-éc-; 🈝-e〉】🇬🇧オーまたはアー、🇫🇷エック; エー。

  • BER=バー/ベル【🇬🇧〈-bơ-〉―🇫🇷〈-béc-; 🈝-be〉】🇬🇧ボーまたはバー、🇫🇷ベック; ベー。

  • 🇬🇧CHER・🇫🇷TCHER=チャー/チェル【🇬🇧〈-chơ-〉―🇫🇷〈-chéc-; 🈝-che〉】🇬🇧チョーまたはチャー、🇫🇷チェック; 🈝チェー。

  • DER=ダー/デル【🇬🇧〈-đơ-〉―🇫🇷〈-đéc-; 🈝-đe〉】🇬🇧ドーまたはダー、🇫🇷デック; 🈝デー。

  • FER・PHER=ファー/フェル【🇬🇧〈-phơ-〉―🇫🇷〈-phéc-; 🈝-phe〉】🇬🇧フォーまたはファー、🇫🇷フェック; 🈝フェー。

  • GER=ガー/ゲル【🇬🇧〈-gơ-〉―🇫🇷〈-ghéc-; 🈝-ghe〉】🇬🇧ゴーまたはガー、🇫🇷ゲック; 🈝ゲー。

  • HER=ハー/ヘル【🇬🇧〈-hơ-〉―🇫🇷〈-héc-; 🈝-he〉】🇬🇧ホーまたはハー、🇫🇷へック; 🈝ヘー - フランス語などロマンス諸語のほとんどでは《H》はア行音となるが、ベトナム語ではハ行音が含まれる。

  • JER・GER=ジャー/ジェル【🇬🇧〈-giơ-〉―🇫🇷〈-giéc-; 🈝-ge〉】🇬🇧ゾーまたはザー、🇫🇷ゼック; 🈝ゼー。

  • KER=カー/ケル【🇬🇧〈-cơ-〉―🇫🇷〈-kéc-; 🈝-ke〉】🇬🇧コーまたはカー、🇫🇷ケック; 🈝ケー。

  • LER=ラー/レル【🇬🇧〈-lơ-〉―🇫🇷〈-léc-; 🈝-le〉】🇬🇧ローまたはラー、🇫🇷レック; 🈝レー。

  • MER=マー/メル【🇬🇧〈-mơ-〉―🇫🇷〈-méc-; 🈝-me〉】🇬🇧モーまたはラー、🇫🇷レック; 🈝レー。

  • NER=ナー/ネル【🇬🇧〈-nơ-〉―🇫🇷〈-néc-; 🈝-ne〉】🇬🇧ノーまたはナー、🇫🇷ネック; 🈝ネー。

  • PER=パー/ペル【🇬🇧〈-pơ-〉―🇫🇷〈-péc-; 🈝-pe〉】🇬🇧ポーまたはパー、🇫🇷ぺック; 🈝ペー。

  • RER=ラー/レル【🇬🇧〈-rơ-〉―🇫🇷〈-réc-; 🈝-re〉】🇬🇧ゾーまたはラー、🇫🇷ゼック; 🈝ゼー - 南部ベトナム語では接近音ラ行[ɹ]で発音される。

  • SER・CER=サー/セル【🇬🇧〈-xơ-〉―🇫🇷〈-xéc-; 🈝-xe〉】🇬🇧ソーまたはサー、🇫🇷セック; 🈝セー。

  • 🇬🇧SHER・🇫🇷CHER=シャー/シェル【🇬🇧〈-sơ-〉―🇫🇷〈-séc-; 🈝-se〉】🇬🇧ソーまたはサー、🇫🇷セック; 🈝セー - 南部ベトナム語ではシャ行で発音される。

  • TER・🇫🇷THER=ター/テル【🇬🇧〈-tơ-〉―🇫🇷〈-téc-; 🈝-te〉】🇬🇧トーまたはター、🇫🇷テック; 🈝テー。

  • TSER・🇩🇪ZER・🇩🇪TZER=ツァー/ツェル【🇬🇧〈-ˊt-xơ-〉―🇫🇷〈-ˊt-xéc-; 🈝-ˊt-xe〉】🇬🇧ッソーまたはッサー、🇫🇷ッセック; 🈝ッセー。

  • VER・🇩🇪WER=ヴァー・バー/ヴェル・ベル【🇬🇧〈-vơ-〉―🇫🇷〈-véc-; 🈝-ve〉】🇬🇧ヴォーまたはヴァー、🇫🇷ヴェック; 🈝ヴェー。

  • ZER・SER=ザー/ゼル【🇬🇧〈-dơ-〉―🇫🇷〈-déc-; 🈝-de〉】🇬🇧ゾーまたはザー、🇫🇷ゼック; 🈝ゼー - 南部ベトナム語ではヤ行[j]で発音される。

英語由来の固有名詞であってもフランス語と綴りが近い場合は、フランス語の発音に近いクォック・グー綴りとなります。

英語で曖昧母音〈ER・IR・UR・YR〉系となる固有名詞のクォック・グー表記の例

  1. 🇻🇮【Quần đảo Vơ-gin thuộc Mỹ / 群島噅𢷹屬美 ⬅ United States Virgin Islands】アメリカ領バージン諸島, 米領バージン諸島。

  2. Oét-min-tơ ⬅ Westminster】ウェストミンスター

  3. Oa-tơ-lu ⬅ Waterloo】ウォータールー - アメリカ。英語で同一綴りとなるベルギーのワーテルローは〈Oa-téc-lô〉となる。

  4. Can-bơ-rơ ⬅ Canberra】キャンベラ。

  5. Đen-vơ ⬅ Denver】デンバー。

  6. Niu Giơ-xi ⬅ New Jersey】ニュージャージー。

  7. Vơ-gi-ni-a ⬅ Virginia】バージニア。

  8. Vơ-môn ⬅ Vermont】バーモント。

  9. Man-chét-xtơ ⬅ Manchester】マンチェスター。