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各言語における難解な国字の読み方

11月5日は日本語の記念日であるにほんごの日です。

今回は日本語表記のために生まれた漢字である“国字”=和製漢字における、各言語の読み方について取り上げます。
(※R5-01-24 : 台湾華語の読みを追加)

ユニコードのユニハンデータベースで設定された音読や各言語版ウィクショナリーを参考にしています。
台湾華語はピンインルビが表示できるToneOZ Pinyin Wenkaiフォント( 配布サイト : https://github.com/jeffreyxuan/toneoz-font-pinyin-wenkai )などのピンインあるいは注音符号のルビを見てみると中国語では複数の音節となる字も1音節に変化していることが確認できます。

ToneOZ Pinyin WenKai Mediumフォント(ライセンスはSIL-OFL)に見られる和製漢字のピンインルビ。“ます”と読む《枡》と《桝》は同一字種の国字として扱われているのですが、両字形は発音が著しく異なっています。

複数の発音を持つ台湾華語のルビ切り替えは、ToneOZフォントではU+E01E0番台のIVS合成を使用する方針となっています。

基本的な各言語における和製漢字の読み方の原則

日本の国字のほとんどは会意文字として生まれたことから、訓読みのみが存在するものがほとんどです。

各言語で読む場合は部首の隣りにある発音を示す字と同じ発音で読むのがルールとなっていて、音読みを持つドウ/はたらく】の場合は《》の音で読み、中国語・台湾華語では〈Dòng〉[ドン], 広東語では〈Dung⁶〉[ドゥン], 韓国語では〈〉[トン/ドン], ベトナム語では推測読みで〈Động〉[ドン]となります。

本題である訓読みのみの国字の場合、ささ【】の場合は《》の音で読み、中国語では〈Shì〉[シー], 台湾華語では〈˙ㄊㄧ=Ti〉[ティ], 広東語では推測読みで〈Sai³〉[サイ], 韓国語では訓読み→音読みの順番で〈조릿대 세〉[チョリッデ・セ], ベトナム語では推測読みで〈Thế〉[テー]となります。

但し、部首が複数含まれている字は、日本語で音読みが設定されていても、発音が著しく異なるものもあります。

和製漢字

中国語/台湾華語(※中国語と発音が異なる場合に限りピンイン併記)/広東語/韓国語/ベトナム語の順です。
推測の読みは《*》で示しています。

  1. おろし】Guā/ㄍㄨㄚ/Haa⁶/*하/*Hạ - 中国語音[グア]は恐らく《颳=刮》[カツ]に由来。広東語では《》[カ]の音で読まれる。

  2. かみしも】Kǎ/ㄎㄚˇ/Lung⁶/가미시모 농/*Lộng - 旁から形状が似ている《》の音で読まれ、中国語ではカードの意の[カ]の音で読まれる。広・韓両言語では共通の旁を持つ《》の正字《》[ロウ]に由来する音で読まれる。

  3. カン/しめ乄=〆】Wǔ/ㄨˇ/Ng⁵/다섯 오/Ngũ - 〆切りなど《》[テイ]の略字として多用され、江戸時代には単位の《》[カン]の略字として音読みが存在していた。各言語での発音は“五”の古字である《》[ゴ]に由来。

  4. 】Xǐ/ㄒㄧˇ/Hei²/기쁠 희, 칠/Hỉ, Hỷ - 草書体由来の《》[キ]の略字であることからその音で読まれるが、韓国語では《》[シチ]に由来する音で読む場合がある。

  5. くめ】Zhāi/ㄓㄞ/Gau²/묵은쌀 구/*Cửu - 広・韓両言語では《》[ク]の音で読まれる。

  6. こがらし】Mù/ㄇㄨˋ/Do²/찬바람 목/*Mộc - 原則的に《》[モク]の音で読まれる。

  7. たお】Kǎ/ㄎㄚˇ/Lung⁶/고개 요/*Lộng - 中国語では旁から形状が似ている《》から“カード”の意の[カ]の音で読まれる。広東語では共通の旁を持つ《》の正字《》[ロウ]に由来する音で読まれる。韓国語では“たわめる”の意の《》[ドウ]に由来する音で読まれる。

  8. 】Hù/ㄏㄨˋ/Wu⁶/저/*Đê - 本来は《》[テイ]の異体字に由来する国字だが、中国語音では《》[ゴ]の異体字に由来する発音となっている。

  9. とうげ】Qiǎ, Kǎ/ㄑㄧㄚˇ=Qiǎ, ㄍㄨˇ=Gǔ/Kaa¹/고개 상/*Tạp - 旁から形状が似ている《》の音で読まれるが、中国語では原則的に“押さえる”の意の[ソウ]の音, 広東語では“カード”の意の[カ]の音と読みが異なる。台湾華語では〈〉[グー]と読まれ、ToneOZフォントではU+E01E1[🆚242]を付加したIVS合成でこの発音のピンインルビが付加される。韓国語では《》[ジョウ]の音で読まれる。

  10. とち》】Lì/ㄌㄧˋ/Lai⁶/상수리나무 회/*Lẹ - 繁体字では既存の漢字である《》で表記され、栃木県は〈櫔木縣〉と表記される。中国語では同一発音の《櫪・枥》で代用される。

  11. なた】Huì/ㄏㄨㄟˋ/Wui⁶/높이솟을 도/*Hội - 中国語では《會=会》[カイ]の異体字とされている。韓国語では《》[トウ]の読みとなる。

  12. におい】Xiōng/ㄒㄩㄥ/*Hung¹/향내 내/Cái - 本来は韻の俗字“”の右半分《匀=勻》[イン]に由来する国字だが、中国語音では形状が似ている《》[キョウ]と同じ読みとなる。

  13. ハク/はたけ】Tián/ㄊㄧㄢˊ/Tin⁴/밭 전/*Điền - 本来は〈田畠〉[デンパク]などで《》の音で音読される国字だが、音読みが記載されない漢字辞典が多い。中・韓両言語共に《》[デン]の音で読まれる。

  14. はた/はたけ】Tián/ㄊㄧㄢˊ/Tin⁴/화전 전/Đèn - ベトナム語では“ランプ”の意のチュノムとして使用される。中・韓両言語共に《》[デン]の音で読まれる。

  15. モク】Jié, Jiang/˙ㄐㄧㄤ=Jiang, ㄍㄨㄥ=Gōng/Gong³/목수 목/*Mộc - 形声文字と思われる国字。台湾華語・広東語では《》[コウ・ク], 韓国語では《》[モク]の音で読まれ、ToneOZフォントではU+E01E1[🆚242]を付加すれば、《》由来発音のピンインルビが表示される。中国語音はウィクショナリー英語版では〈jié〉[ジエ], ユニハンでは軽声あるいは声調不明の〈jiang〉[ジアン]とそれぞれ異なる。

  16. もんめ】Qián/ㄨㄣˊ=Wén/Cin⁴/몸메 문/*Chỉ - 漢字の《》[モン]とカタカナの《》の合字で、韓国語の字母名は字源から“もんめのムン”となっている。中国語では《錢=銭》[セン]あるいは《》[セン]の略字からが発音の由来となっているが、台湾華語では《》[モン]音に由来する。ベトナム語は匁に該当する重量単位メースの意の単語からの推測。

  17. ゆり𠷡】Jú/ㄐㄩˊ/不明/不明/不明 - 発音のルーツは不明。

  18. わく》】Huà/˙ㄗㄨㄟ=Zui/Zyut⁶/테두리 화/*Chốt - 中・韓両言語は《》の異体字とされていることから《》[カ]の音で読まれる。台湾華語では声調不明。広東語では《》の略字からの推測で《》[ソツ]の音として読まれる。

  19. 音義不詳】Gē/ㄍㄜ/Go¹/*가/*Ca - JIS第2水準に登録された幽霊漢字の一種だが、ユニコードのユニハンデータ“U+5F41”では中・広両言語の読みが記載されているため、日本語でも〈〉と推測で読まれることがある。

国訓 : 和製漢字扱いされることが多い字

現代中国語で廃字となった字は本来の発音で読まれる傾向があるのですが、日本語の固有名詞の場合は例外的な読みとなることがあります。

  1. ダ/しずく】Nǎ, Xià/ㄋㄚˇ/*Naa⁵/물방울 놔/*Ná - 中国語では後者は《》[カ]の二簡字としての読みだが、近年は日本人名の読みに転用されている。

中国語音で2音節以上の読みになる字

かつて中国語で2音節以上の読みが認められていた字も含まれています。
台湾華語のルビ付き漢字フォントでは1音節の読みを示しています。

  1. キログラム】Qiānwǎ/ㄑㄧㄢ=Qiān/Cin¹ngaa⁵/킬로그램 천/Ki-lô-gam, Ki-lô-oat - 中国語では〈キロワット〉の意。ベトナム語ではフランス語あるいは英語からの借用語であることから、1音節ごとにスペースを空けない。

  2. キロメートル】Qiānmǐ/ㄑㄧㄢ=Qiān/Cin¹mai⁵/킬로미터 천/Kilômét。

  3. セキ/フィート】Yīngchǐ, Chǐ/ㄔˇ=Chǐ/Cek³/피트 척/Xích。

  4. センチメートル】Límǐ/ㄌㄧˊ=Lí/Lei⁴mai⁵/센티미터 리/Xăng-ti-mét。

  5. としょかん】Túshūguǎn/ㄊㄨˊ=Tú, ㄕㄨ=Shū/Tou⁴syu¹gun²/도서관 서/Đồ thư quán - 図書館を漢字1文字で表記した表語文字。台湾華語では《》[ト]あるいは《》[ショ]に由来する1音節にそれぞれ変化している。