宮崎県美郷町のふるさと納税炎上から考える、140字の呪いと自治体の危機管理広報
岡山での大切な友人の結婚式を終え、宮崎に戻る日曜の新幹線の車内でTwitterを眺めていると、このニュースの元ツイートが目に飛び込んできた。
内容としては、宮崎県美郷町にふるさと納税をしたツイ主が送られてきた返礼品を確認したところ、届くはずだった「宮崎県産黒毛和牛薄切り800g」はほとんどが脂身。家族でのすき焼きが台無しになったという旨のもので、「宮崎県美郷町のふるさと納税には気をつけた方がいい」という記述もあった。現在元ツイートは削除されているが、ツイートは投稿後あっという間に拡散。私が確認した時には既に数万人がRTしていたと記憶している。
■初めて知った町の印象は、たったの140文字で決まる
あまり見ていて気持ちのいいものではなかったが、なんせ故郷の宮崎のことだし、過去の口蹄疫のことを思うと宮崎の畜産関連の話題は無視できない。元ツイートに投げられるリプを追った。
内容としては約9割が「信じられない」「最悪」「ドン引き」といったネガティブなもので、「宮崎の畜産農家は真摯に働いている人がほとんどなはず…」「まずは町と業者に連絡をして」といったリプもあったが、ほんの一握りだった。さらに、中には「業者、逃げんなよ」「自治体の対応が楽しみw」など、これからの“祭り”を煽るようなものも散見された。
この流れに乗っかったおそらくほとんどの人は、美郷町がどこにあるかも知らないのだろう。
そんな人生で一度も美郷町のことを認知したことのなかった人が、たった140文字のツイートで、こぞって町を批判する。美郷町は自然豊かなとても美しい町なのだが、一度起こった嵐を鎮めることは難しく、今「宮崎県美郷町」でGoogle画像検索をすると例の返礼品の画像が最上段に上がってくる始末だ(2019年10月8日現在)。
■炎上は秒。広報の危機管理部門が重要視されるワケ
一連の流れを見て私がすぐに投稿したのは「とにかく企業の広報レベルのスピード感が鍵」という下記のツイートだ。
今回のような事例に一般企業(特にBtoC)が巻き込まれることは珍しくない。「コンビニの弁当に髪の毛が入っていた」「買ったスナック菓子に虫が付いていた」など、たった一人の投稿が瞬く間に炎上し、商品が製造停止に追い込まれるケースを見たことがある人は多いはずだ。
ほとんどの人がSNSアカウントを持つ時代、こうしたことは往往にしてあり得る。そこで年々重要視されているのが、企業の広報担当の危機管理部門の仕事である。
広報業務経験者にとっては当たり前すぎることだが、企業の広報・PR担当の仕事は、メディア対応やプレスリリース、社内報づくりだけではない。危機管理とはこうした炎上案件を逐一チェックし、問題があった時にすぐに消費者とコミュニケーションを取り、問題に対処する業務のことを言う。
私は過去に雑誌『広報会議』や『アドタイ』などでPRや広報関係の取材を何度も担当してきたが、中でも危機管理関連の取材は「バカッター」などの登場以来急増した感覚がある。
■直後の初手と日頃の“防災訓練”のポイント
こうしたSNSでの炎上は、広報がどう対応したかで、その企業の今後が決まるといっても過言ではない。そしてもちろん、今回のように聴衆の的が自治体である場合もそれは変わらないはずだ。ここで、私がかつて取材で学んできた危機管理を徹底している広報の共通点をまとめておきたいと思う。
1)可能な限り、まずはすぐに謝る
2)発見後、素早くトップまで情報を共有し、対策を立てる
3)鎮火までのフローを透明化する
簡単に一つずつ整理しながら、自治体広報にも当てはめて考えてみたい。
1)可能な限り、まずはすぐに謝る
兎にも角にも炎上の鎮火はスピード勝負だ。対応が遅かったり、コミュニケーションに少しでも相手を不快な思いにさせる言動があれば、「クソ企業(自治体)だ」と再燃し、“聴衆”はどこまでも追及してくることは目に見える。そこで大事なのが、まずは何をおいても「申し訳ございませんでした」と謝ること。
今回、美郷町は炎上が週末であったにも関わらず日曜の時点ではすぐにウェブ上に謝罪文を掲載していた。
もちろんそう簡単に鎮火とはいかなかったが、これには「対応が早い」と反応するユーザーも少なくなかったように見受けられる。
2)発見後、素早くトップまで情報を共有し、対策を立てる
自社や自分たちの自治体が炎上すれば、少なからず内部に動揺が走る。その時にいかにテンパらずに対応できるか。これはつまり、日頃の防災訓練をどれだけちゃんとしているかという話だ。
炎上後は全社一斉に「炎上中!」とサイレンを流すのではなく、まずは「デマではないのか?信ぴょう性はどの程度あるのか?」という可能性も考えつつ情報を整理。そして事前に整備しておいた連絡系統に従って、ちゃんとトップまで状況をシェアする。
炎上は全く関係のない場所に飛び火することもあるので、情報が錯綜すると自治体内の足並みが揃わず、共有に時間を取られて以降の対応が遅れることがある。いつでも「炎上したら」を想定しておくことがとても大事だ。
3)鎮火までのフローを透明化する
そして実際にどのような対応をしたのか、時系列に沿って、鎮火するまでの流れを記録しておき、公開することで、次は聴衆の足並みを揃えさせる。これにより少しは再燃を抑止できるはずで、「ちゃんと対応してるよ」と動きを可視化することもできる。
また、「ご報告」的なものはメディアのみにリリースしがちだが、絶対に”対社会”に出した方がいい。炎上中はとにかく注目度が高いので、聴衆はメディアを通した情報よりも本体がどう動くかをずっと見ているからだ。
■対応一つで、町の印象は更に180度変わる
今回美郷町が内部でどのような形で対策を取っていたのかは分からないが、一連の対応を見る限りスピード感に関しては十分だったと思う。現に件のツイ主は以下のツイートをしている(Twitterより原文ママ引用、2019年10月8日)。
【ご報告】さきほど、美郷町と新垣ミートさんから丁重なお詫びの電話を頂きました。同様の牛肉の発送の可能性があるようなので、全ての方々に事実関係の確認、代替品の送付等の対応するとともに再発防止対策をなさるとのことでした。
日曜日だったのに、地方の役場の素早い対応は意外で驚きました。
美郷町のHPにも掲載されました。日曜日にこれだけの早い対応ができるのは驚きました。ダメコンとしては最速の対応ではないでしょうか。凄いです。http://www.town.miyazaki-misato.lg.jp/item/4528.htm#ContentPane
もちろんこのツイートにも厳しい意見や「オワコンだな」系のリプライは散見されるが、「よかったですね」といった声も多かったようだ。
今回の問題は委託業者の品質管理など議論が必要な点は他にも多いのだが、炎上時の自治体対応という視点からも改めて考えねばならなかったことは少なくなかったと感じる。
広報はいつでも消費者・住民からの入り口であり、企業・自治体の出口でもあるので、SNS時代の情報管理においては大きな役割を担う。特に「役所は週末は動かない」「自治体は対応が遅い」という固定概念があるからこそ、自治体の危機管理はこれからもとても大切になってくるはずだ。美郷町の問題はまだ鎮火に時間がかかると思うが、私自身も大好きな町だからこそ、今後も的確な対応を期待したい。