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『私の物語』〜心が震えた、異文化からのおくりもの 〜 1986 その肆(#4)

前回までのあらすじ

1986年。バブルに浮かれていた世間を横目に、生きていた『私』。
高校生の『私』は、親に置き去りにされ、ひとりバイトで生計を立てていた。深夜の音楽番組は、そんな『私』にとっての心の拠り所。そして、ある日、『私』は、ボン・ジョヴィの楽曲と出会い、英語を学びたいと思うようになる。
ライブに行ってみたい、という思いは募るばかり、、、

∞ 余韻


音楽雑誌の情報は、遅れて届く、、、

そりゃそうだよね、週刊誌じゃないんだから、、、

カナダのコンサートの模様の記事を読む毎日。

何回読んだかな、おんなじ記事、、、


海外はすごいな。

大きな会場のアリーナ席は、総立ちで、人がひしめき合っている。

彼氏が彼女を肩車して、アリーナにいたりする。

日本じゃ、なかなかできないよね〜、きっと。

写真なのに、会場の一体感が伝わってくる。


そして、星条旗をはためかせながら、パフォーマンスする彼ら。

星条旗が彼らにとって何なのか、日本人にはきっとわからないだろう。

アイデンティティを、骨抜きにされた私たちには。


∞ 憧れのはじまり

アメリカに対するあこがれは、今に始まった事じゃなかった。

沖縄の離島生まれで、10歳の時に終戦を迎えた父から、幾度となくアメリカの威力について、聞かされて育った。

『アメリカに、敵う訳がない』

父の話から、無意識のうちに、そんなイメージがどんどん私の中に植え付けられていったのだ。

”憧れの生活” ”贅沢で楽しい生活” を送っている、アメリカ人(なぜか白人しか出てこないののだが)を主人公にしたドラマも、大好きだった。

基本的にはコメディ。再放送の日本語吹き替えだったけどね。

奥さまは魔女とか、可愛い魔女ジニーとか。



∞ そして、極めつけは、これ!


アメリカ横断ウルトラクイズ。

『ニューヨークへ行きたいか〜』で始まるこの番組。

大人たちが、真剣にクイズに取り組み、最後の二人だけがニューヨークで対決できる、サバイバルなゲーム番組。

そして、その道中、それぞれの人間模様を垣間見たり、アメリカ各地を一緒に旅するように、広大なアメリカの景色を見せてくれた。

海外旅行が、まだまだ庶民の手の届かない時代に放送が始まって、年に1度、1か月にわたって放送された、スペシャル番組だ。

私は、初めてこの番組を見た時から、心を奪われてしまった。

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いつか、行ってみたい! アメリカ!
広大な大地が限りなく続く、地平線を!!
モニュメントバレー!!! ニューヨーク!!!!!(自由の女神)

そういった事情で、高校生ウルトラクイズには、全く興味がなかったのだ(笑)


∞ 星条旗に吸い込まれるように、、


もうそろそろ、夏が終わろうとしていた。

毎年、近所の商店街で、ゼロのつく日に夜店が催されていた。

夏の間だけの催し。

いつもは、バイトがあるから自転車で素通りしていた夜店。


その日は、8月最後のゼロのつく日で、土曜日だった。

バイトが休みで、家で一人で過ごしていたから、すっかり夜店のことなど忘れていたのだが。。。

おなかが空いて、時計を見ると、夜の八時を回っていた。

まだやってるかな、夜店。

9時ごろまでは、やってたと思うけど、、、

せっかくやし、行ってみて、何か食べるもんあったら、買おうかな。

何も売ってなかったら、ほか弁までダッシュしないと、、、

そんなことを考えながら、家を出た。

念のため、いつものように自転車にのって。


もうすぐ9月、涼しい風が吹いてる。

夜は、もう秋のにおいがするな〜。


商店街に着くと、ほとんどの出店は店じまいを始めていた。


あ〜あ、少し来るのが遅かったな、、、

ほか弁までダッシュかぁ〜


と思ながら、いつものわき道に入った。

いつもの星条旗のバーの前で、出店が出ていた。


あれっ、何、売ってるんやろう。。。


興味本位で、自転車を止めた。

簡易式の折り畳みテーブルの上に布が敷いてあって、シルバーのアクセサリーが並べられていた。

アメリカ村で売っているような、素敵なデザイン。

男の人がするような太めの指輪や、

ターコイズのネックレスもあった。


素敵、ターコイズいいなぁ。。


値段をみてみたら、今すぐ買える値段じゃなかった。

じ〜っと、アクセサリーを見ていると、店の人が話しかけてきた。

天然パーマっぽい、年齢不詳の、背の低いおっちゃんだった。


∞ 天使は、見た目でわからない


もうすぐ、しめんで〜。

こっちの店、開ける時間やから。


おじさんは、そう言うと、小さなお店のドアから、大きな星条旗を取り出してきた。

それを店の前に立てて、ライトを付けた。

いつも通り過ぎていたお店が、いつものように、そこにあった。


えっ、もう、終わり?

ここ、バーやろ? アクセサリーも売ってんの?

今日は、持ち合わせがなくて。。。

だから、これ気に入ったけど、今日は買われへんから。


私は、ターコイズのネックレスを名残惜しそうに見ていた、、、と思う。


あ〜、これ?

ここでは、売ってないねん。今日は夜店やから特別。

いつもは、アメ村の店に商品おいてもらってるから。

シルバー好きなん?


(好きっていうか、、、好きなんかな〜、、、) 

えっ、やっぱりそうなん? 

そうかと思った。

値段も、それなりやもんね。

このターコイズ、いいよねぇ。

すっごい気に入ってんけど。

アメリカ村まで行かないと、買えないんや〜。


質問の答えに、なっていなかったけど、なんか一生けんめい喋ってた。


それから、急に、自分自身でもビックリするくらい、寂しい気分になった。

それは、ターコイズのネックレスが手に入らなかったからなのか、

それとも、

これから弁当を買いに行って、ひとりで家で食べるからなのか。


そんな気分を察したのか、おじさんが話をつづけた。

それ、実は、僕がデザインしてるねん。

そんなに気にってくれたら、嬉しいわ〜。


社交辞令でも嬉しかった。

でも、意外だった。デザイナーやて。


良かったら、入ってく?

もうすぐ、商店街の連中も来るから、心配せんでいいで。


どうしよう。

でも、家帰ってもひとりやもんね。

いつも外側からしか、知らないお店。

中もちょっと、見てみたいな。

お腹空いてるから、食べもんあったら入ってみようかな。。。


あの〜、なんか食べもんメニューありますか?

バーやから、無いかなぁ〜

無かったら、今からほか弁買いに行くから、、、いいです。。


おじさんが、淡々と答えた。

特製ハンバーグ、あるで。 

数量限定やから、早いもん勝ちやで。


なんか、ヤッターって感じ。

オッケー、じゃあ、ハンバーグお願いします!


私は、このあと、このバーで様々な出会いを経験することになる。


『私の物語』〜心が震えた、異文化からのおくりもの 〜 1986 その伍(5)に つづく

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∞お知らせ∞

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