君は本当に野球を知っているか?「優雅で感傷的な日本野球」
訳の分からない話が好きだ。とても巧妙に作られた話と全く訳が分からない話があったとしたら、多分後者を取ると思う。
高橋源一郎作品は「さようなら、ギャングたち」、「優雅で感傷的な日本野球」を読んだが、やっぱりよくわからない。なので、大好き。
この作品は、1985年阪神タイガースが優勝せず、そして野球が存在しなくなった世界の話である。野球が存在しなくなったので、野球の話をしてもどこか明後日の方向を向いている。野球を知っている人に話を聞きに行ったら、野球場でのジョークについて語られたり、神様が日本野球を作り出したり。野球について話してるんだけど、そうじゃないだろと。
例えばあなたがある人物を紹介するとする。
「金髪で、麒麟の川島さんに似てる。銀行に勤めてて、結婚してる」
多分、こんな感じだろう。簡潔で分かりやすい。でもこの小説は
「目が二つある。左目は一重で右目が二重である。その下に鼻と口がある。そしてとても胸毛が濃い」
こんな感じだろう。こう、間違っちゃいないけど、説明の仕方が遠回りすぎるような感じ。そしてその後、胸毛の生え方について語った後に、その人物が胸毛の先にお守りを結んで、全裸で街を徘徊するというような展開になる。
多分、この説明で、あってると思う。
ただ、そういう突拍子もない話になっても面白いのが、この小説のすごいところ。
読み進めると、1955年の阪神タイガースの話になる。一番読者の考える野球に近づく。そしてここで気づく。
この本は野球について書いたり、書かなかったりしているけれど、一貫して野球の魂(スピリッツ)について書かれている。
つまりこれは野球小説ではなく、野球魂小説なのだった。
そう考えれば、これまでずっと変な話だったけど、まったく趣旨がずれていない事に気づく。
しかし、よくもここまですごい話になったものである。その訳の分からなさに僕は圧倒され、魅了されるのだった。
野球が好きな人、野球にとても入れ込んでいる人、突拍子もない話が好きな人におすすめ。