黒川錠

怪談などを書いています。竹書房怪談文庫マンスリーコンテストに投稿もしています。 7/28全体ビュー500を超えました。いつも見てくれている皆さん、ありがとうございます。 ノベルアップ+も始めました。

黒川錠

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最近の記事

実話怪談 徒競走

 Kさんが中学生の時の話だ。体育祭の徒競走での出来事だそうである。Kさんはピストルの音と共に走りだした。Kさんは足が速く、順位は一位だった。  レースが中盤に差し掛かったころだった。  カッ、カッ、カッ、カッ。  およそシューズが立てそうにない、乾いた音が、Kさんの背後から聞こえてきた。音は次第に近づいてくる。  こんなに早い生徒がいたのか。Kさんは驚き、そしてその顔は曇った。  Kさんは陸上部だった。そのため本番ではない、こんなレースで負けるわけにはいかないと考えていた。

    • 実話怪談 指輪

       会社員のKさんから聞いた話だ。当時Kさんは仕事が上手く行かず、ストレスが溜まっていた。それを同僚に話すと、森に行くことを勧められた。自然に触れれば、気も晴れるだろう。Kさんは休日に森に行くことにした。  森の中を歩いていると、そばにある木から何かを感じた。葉が赤茶け、至る所に虫食いの穴が開いているという枯れる寸前の木だった。近寄って見てみると、幹に食い込むように何かが挟まっている。Kさんが指でつまんで引っ張ると、ぽろりと取れた。 「これは、指輪か。しかし一体何でこんなところ

      • 実話怪談 先回りする名前

         今年、Iさんは定年を迎えた。そんな彼の最近の日課は散歩だった。  朝起きて朝食を済ませた後、自宅から少し離れた神社まで歩く。お参りを済ませた後に、いつものように記載ノートに自分の名前を書こうとした。 「おや」  するとそこには既に自分の名前が書かれていた。  Iさんは不思議に思いながらも、きっと誰かのイタズラだろうと考えた。  数日後、彼は友人とお昼ごはんを食べにレストランに来ていた。お昼時のため、店員は忙しそうにしている。順番待ちの紙に名前を書き、待つことにする。しかし

        • ホラー短篇 あおいやしろ

           最近テストの点数が落ちてきた。前まではクラスで一位だったのに、今じゃ三位になってしまった。僕の上には英二と健介がいる。  僕にはテストの成績しかなかった。運動も女の子にもモテない。そんな僕が唯一人の上に立てる。それがテストだった。  それなのに。あの英二と健介が一位? 二人はいつも僕の下にいた。英二が二位で、健介が三位。でもこれまで一度だって抜かされたことは無かった。それなのに、なんで。  あいつらには他にいろいろあるじゃないか。英二は運動が出来るし、健介はクラスの人気者で

          実話怪談 赤いマニキュア

           フリーターのKさんが、肉屋で働いていた時の事だ。Kさんはスライサーという、肉を切る機械を使っていた。スイッチを踏むと、刃が動き、肉を切ることが出来るのだ。ずっと立ちながらの作業になるため、仕事が終わるといつも疲労していた。  職場の雰囲気は悪かった。女性の多い職場で、しょっちゅう陰口が聞こえていた。  肉体的、精神的な点からKさんは仕事を辞めようかと思った。しかし、お金に困っていたため我慢してそこで働いていた。  その日は、特売日だった。客足は増え、Kさんが作った商品も並

          実話怪談 赤いマニキュア

          実話怪談 あったのかもしれない

           フリーターのSさんは地元の祭りに来ていた。毎年8月になると行われるものだ。はしゃぐカップルや子供たちが夕日に照らされている。夜に上がる花火が目玉だが、夕方の今でも大勢の人が会場にいた。Sさんもその人混みの中を歩いていた。 「みんな楽しそうだなあ」 Sさんは祭りが大好きというわけではなく、暇をつぶすために来ていた。 浮かれた空気の中一人冷静な自分。Sさんは自分がここにいるのは場違いなのではないかと思い始めた。せめて友達や彼女と一緒に来ていれば……。しかし友達とは疎遠になってい

          実話怪談 あったのかもしれない

          背中との別れ

           むかし、むかしのそのまたむかし。国に名前が無く、人にも名前が無かった時の話。あるところに、太った男がいた。男は立ち上がると、まるで何かが付いているように、自分の背中をまさぐり始めた。あまりにも太っているので、手はあまり背中に届いていなかった。指先が辛うじて、触れているくらいだ。  がり。 鈍い音がした。男の指から血が出ている。 「おいおい、てめえなでんじゃねーよ」  男の背中には顔がついていた。そいつが男の指を噛んだのだ。  男はどこか申し訳なさそうに果実を差し出した。背中

          背中との別れ

          実話怪談 祭りの後に

           高校生のYさんは祭りに来ていた。毎年8月になると神社の境内で行われるものだ。吊り下げられた提灯、様々な屋台、浮かれる人達。Yさんも友達と祭りを満喫した。夜の10時になると、アナウンスが流れる。これで祭りは終わりだった。提灯の明かりも落とされる。  Yさんは家に帰った。しかしそこで気づく。どうやら家の鍵を落としてしまったようだった。その日、両親は仕事で家には帰ってこない。  きっと神社で落としたに違いない。  一人で行くのは怖かったが、拾いに行かないと家に入れないのだ。仕方な

          実話怪談 祭りの後に

          実話怪談 急停車

           大学生のTさんが夜道を一人歩いていた。バイト先からの帰りだった。彼のすぐそばを一匹の猫が走っていった。尻尾の先だけが黒い白猫だった。当時Tさんは付き合っていた彼女に振られたばかりでムシャクシャしていた。そのため、足元に落ちていた石を拾い上げると、猫に向かって放り投げた。猫は石が飛んでくるのを感じたのか、すんでの所で避けた。 「シャアア」  猫はTさんに向けて毛を逆立て、うなった。Tさんは、猫がこちらに敵意を向けてくるとは全く思っていなかった。 「この野郎」  Tさんは猫を睨

          実話怪談 急停車

          クイン

           社会人のAさんは以前クインという名の黒猫を飼っていた。  Aさんは部屋を見渡してため息をついた。部屋の中にはクインの使っていた物が置かれている。猫缶にお気に入りの皿に、ねこじゃらし。もう1年が経つが、彼女はクインの亡くなった辛さを忘れることが出来なかった。むしろ日が経つにつれて、悲しみは大きくなっていく。  ある日、仕事から帰って来るとクインの皿が割れていた。陶器ではなく、プラスチック製の皿だ。プラスチックの皿が割れる事なんてある? Aさんはそう思いながら、ボンドを塗り、

          実話怪談 数列のカイ

           会社員のKさんが仕事を終えて、家に帰って来た。時刻は夜の八時。帰り道スーパーで買った弁当を食べた後、風呂に入る。Kさんは風呂が好きだった。会社でどんなに嫌なことがあっても、入浴すればスッキリできた。湯船に浸かっていると、ふと視界の端に動くものがあるのに気づいた。  もしかして、ゴキブリか? 嫌だな。  赤く、細い何かが壁際で動いていた。近づいてよく見ると、それは数字だった。3.141592……。まるで指で書かれているように見えた。  何でこんなものが? しかも円周率?  数

          実話怪談 数列のカイ

          実話怪談 鍵

           会社員のTさんの悩みは、30後半なのに結婚できそうにない事、昇進のめどが無さそうな事など、枚挙にいとまが無かった。毎日が辛く、時折自殺を考えてしまうほどだった。  ある日、Tさんはいつものように会社から自宅のアパートに帰って来た。カバンの中身を整理していると、見覚えのない鍵が出てきた。鍵の先にプラスチックの棒が付いており、そこには402と書かれていた。ホテルのルームキーのようだとTさんは思った。ただ彼は、最近どこにも宿泊してはいなかった。 「誰かの私物かもしれないな。明日会

          実話怪談 鍵

          実話怪談 ちのつく日

           主婦のSさんには、数字にまつわる奇妙な出来事があるらしい。それはSさんの息子に関わるものだそうだ。  当時、Sさんは育児に困っていた。息子がよくケガをしたり、体調を崩しがちだったからだ。ある時は保育園の滑り台から落ちて、頭を何針も縫う事になった。またある時は急に目の周りが大きくはれ上がった。そのような事が何度も起こった。  Sさんは何度も子供を病院に連れて行かなければならなかった。仕事中に、突然保育園から電話が掛かって来る、休日でも突然泣き声が聞こえ、見るとケガをしている

          実話怪談 ちのつく日

          実話怪談 カブトムシを取りに

           Yさんが小学生の時の話だ。当時学校ではカブトムシが流行っていた。クラスではいつもその話題が飛び交っており、Yさんも捕まえてみたくなった。友人に捕まえ方を聞くと、バナナと焼酎で作ったミツを木に塗っておけば良いのだそうだ。 「でも学校の裏の森なんてダメだぜ。みんな狙っているからな。人の仕掛けにかかったのを取るヤツもいるし」  Yさんの頭には、町はずれの森が思い浮かんだ。そこは立ち入り禁止地帯なのだ。あそこならきっと取れるはずだ。Yさんはそう考えた。  張り巡らされている金網を

          実話怪談 カブトムシを取りに

          音のする密室の冒険 問題篇

           黒川錠が高校から帰ろうとしたとき、スマホが振動していることに気づいた。電話だった。相手は母親である。 「仕事遅くなりそうで、帰るの明日になると思う。勝手にご飯作って食べといて」 「わかった」  電話を切ってから気づいた。 「あ、家の鍵が無い」 「じゃ、私んち泊まる? 」  それをそばで聞いていた、針井数(すう)が言った。二人は友人である。 「あ、じゃあ頼むね」  数は茶道部に所属しているため、その活動が終わり次第二人で家に向かうことになった。だが錠は帰宅部だった。そのため手

          音のする密室の冒険 問題篇

          実話怪談 10円玉

           Iさんはよく散歩をする。この話も、そんなふうに散歩をしている際に起きた出来事らしい。  Iさんがいつものように散歩をしていると、ふと足元で金属の音が聞こえた。視線を向けると、10円玉があった。ついさっき落とされたように、音を立てながら回転し、地面に倒れた。その10円玉はひどく錆びており、全体的に緑がかっていた。Iさんは辺りを見回したが、誰もいない。不思議に感じながらもラッキーだと思い、それを拾ってポケットに入れた。その時だった。 「右」  誰もいないのに、声だけが聞こえる

          実話怪談 10円玉