【エッセイ】恩師の現代文講師

大学受験は理系でしたが、二次試験にも国語がありました。現代文は特に苦手でしたが、当時代ゼミで教えられていた堀木という先生の夏期講習を受講したところ、一気に現代文に開眼しました。

90年代当時、代々木の教室には、学生もまばらでしたが、堀木先生は、パフォーマンスなど一切せず、淡々と本文を解説されていたことを思い出します。クーラーの少し効きすぎた教室で、講師の机にはお茶が一本用意されていました。渋い声の堀木先生の講義を聴講していた時間は、今思い出しても、とても贅沢な時間だったように思います。

文章は書かれた通りに前から読んでいきます。難しい語彙には、その都度解説を加えられていました。問題を解くだけでなく、文章そのものの内容を理解させる講義でした。傍線部の部分になると、文章はつながっているのだから、特に傍線部の前後関係に注意を払って、丁寧に解説をされました。そして、傍線部の意味を論理的に言い換えながら、記述解答を淀みなく導き出されていくのです。極めてオーソドックスな講義なのですが、本文を深く理解することで、読解そのものがとても知的で面白いものだと、わずか5日の講習で教えて頂きました。

先生は講義中に雑談はほとんどされなかったと記憶しますが、一言言われたことが、妙に印象に残っています。

「ちなみに、僕は、日本の国語の教師なので、海外には行かないんです。」

本文の内容に絡んでだったと思いますが、ボソッと呟いた一言は、堀木先生なりのユーモアで、クスッと笑ってしまいました。

それから直接講義を受けることはなかったのですが、堀木先生の書いた「現代文のトレーニング基礎編」という参考書を買いました。これは、堀木先生の講義の再録という感じで、本文の解説がとても詳しい良書でした。問題文も入試問題からではなく、先生が自ら選んだ文章で、読解力と記述力が身につくように精選されていました。この参考書をやり込むことで、現代文が得点源になりました。そして無事に大学に合格しました。

苦手だった文章が好きになり、読書の楽しみや、こうやって文章を書きたいと思うようになったのも、堀木先生のお陰だといえると思います。私にとっては、恩師の先生です。


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