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かもしれない弁天【ショートショート#47】【450字】

 ジャーン。高架下で路上ライブをしていた若葉は、アコギから手を離した。パチパチパチ、と珍しく拍手の音がする。
「お姉さん、なんて曲?」
「maybe 弁財天」
 へぇ~、とおそらく昼休憩中だろう警官が興味なさそうに言った。若葉は、シンガーソングライターの卵だ。
「少し聞いていいかな? この高架下にホームレスが一人いたんだけど、どこ行ったか知ってる?」
 どうやら、警官は私の曲を聴きに来たわけじゃないらしい。
「私も、一週間前から見てないよ。当たりの宝くじを拾ったとか言ってた」
「へぇ。いくら?」
「三等、100万円だって」
 ひゅ〜、と口笛の音がする。
「もしかして君、金運の神様?」
 若葉は冷や汗をかいた。
 絶対に知られてはいけないのだが、実は七福神の一人、弁財天の生まれ変わりなのだ。例のホームレスは時々、投げ銭をしてくれたので、財運が上がったのだろう。
「俺も欲しいな~当たりくじ」
 警官は財布の中を覗いて、しぶしぶ500円玉を投げた。若葉は去っていく背中にべーっと舌を出す。
 幸運の女神は、見返りを求めない人にだけ、微笑むのだ。






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