連作十首「春雨」 / サ藤凪
春雨のくたびれた鍋菜箸でつかみそこねた幸せのこと
総武線つつましやかに膝をつけ座る老婦の巾着袋
請求書在住ぼくが生きているだけでうまれる二酸化炭素
空き教室掲示係になれなかったあの子がひとりで続ける新聞
雨遥か遠い故郷にいまおなじ雲がかかって軈てふるとき
雨漏りが染みる壁紙花柄に黴たちの国は深夜に育つ
梟はきみを見ている肉を買うときもトイレで着替えるときも
四重奏聴きつつ眠る義理の母市民ホールの高い天井
パイプ椅子うち棄てられた体育館予行練習で終わる人生
書写セットねむる春休みの校舎なにかの予感だけがある春
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