春雨のくたびれた鍋菜箸でつかみそこねた幸せのこと 総武線つつましやかに膝をつけ座る老婦の巾着袋 請求書在住ぼくが生きているだけでうまれる二酸化炭素 空き教室掲示係になれなかったあの子がひとりで続ける新聞 雨遥か遠い故郷にいまおなじ雲がかかって軈てふるとき 雨漏りが染みる壁紙花柄に黴たちの国は深夜に育つ 梟はきみを見ている肉を買うときもトイレで着替えるときも 四重奏聴きつつ眠る義理の母市民ホールの高い天井 パイプ椅子うち棄てられた体育館予行練習で終わる人生
velleityたとえばきみの告白は雨がやんでも聞こえない声 患者にもわざと描きあげない絵にも同じシーツをかける屋上 人間を食べた国には朝靄のオブジェクトだけそこに残った 真っ白な立て看板のあるホーム雲が広告を出したのだろう 六月にアイスクリーム掬うときスプーンに張った膜こそが嘘 更衣室の床がいちばんやさしいとなぜわかるのかは聞けずじまいに 冱つこころ死者が両手を拱いているような波うち際に立つ すがるべきよすがもなくて眼を閉じる海はつめたいつかればもっと