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連作十首「春雨」 / サ藤凪
春雨のくたびれた鍋菜箸でつかみそこねた幸せのこと
総武線つつましやかに膝をつけ座る老婦の巾着袋
請求書在住ぼくが生きているだけでうまれる二酸化炭素
空き教室掲示係になれなかったあの子がひとりで続ける新聞
雨遥か遠い故郷にいまおなじ雲がかかって軈てふるとき
雨漏りが染みる壁紙花柄に黴たちの国は深夜に育つ
梟はきみを見ている肉を買うときもトイレで着替えるときも
四重奏聴きつつ眠る義理
第61回短歌研究新人賞応募作 「youth」
velleityたとえばきみの告白は雨がやんでも聞こえない声
患者にもわざと描きあげない絵にも同じシーツをかける屋上
人間を食べた国には朝靄のオブジェクトだけそこに残った
真っ白な立て看板のあるホーム雲が広告を出したのだろう
六月にアイスクリーム掬うときスプーンに張った膜こそが嘘
更衣室の床がいちばんやさしいとなぜわかるのかは聞けずじまいに
冱つこころ死者が両手を拱いているような波