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『片付けパパの最強メソッド ドラッカーから読み解く片付けの本質』第1章まで無料全文公開!
2020年7月30日に発売された書籍『片付けパパの最強メソッド ドラッカーから読み解く片付けの本質』(著:大村信夫)の第1章までを無料公開いたします!
内容紹介
参加者延べ2000人以上、満足度96%超の大人気ワークショップがパワーアップして待望の書籍化!
「片付け」といえば「部屋(モノ)の整理」を思い浮かべる方が多いでしょう。しかし本書でお伝えするのは、“マネジメントの父”と称されるドラッカーから導き出した「人生(コト)を整える」ためのメソッドです。
本書は延べ2000人以上の方が受講、96%超の満足度を誇る大人気のワークショップをベースにしています。さらに、そこでは語りきれなかったさまざまな内容も加筆しました。
本書を読むことで、片付けが得意な人もそうでない人も「片付けの基本の基」を学ぶことができ、そしてそれを人生にまで応用することができるようになります。
片付けにお悩みの方はもちろん、本気で自分を変えたい、さらに一歩飛躍したいという方には必読の1冊です!
【目次】
まえがき
第1章 多くの人は「片付け」を勘違いしている
なぜ日本では片付け本が大ヒットするのか?
片付けはセンスではなく「理論」である
片付けの成功・ゴールとは?
片付けにはどんな「メリット」があるか?
探し物をしてしまう理由
「片付け」とは何か?
第2章 片付けの「3つのフロー」を学ぼう!
フロー①:整理
フロー②:収納
フロー③:維持
第3章 片付けの本質とは何か?
片付けの本質とは?
片付けとは「選択と集中」である
「2×2マトリクス」で選択基準を作る
人間関係も片付け(整理)できる
第4章 人生とは片付けである。3つのフローで人生を整える
フロー①:ミッションを明確にする(整理)
フロー②:ミッションを達成するための準備をする(収納)
フロー③:ミッションを習慣化する(維持)
あとがき
なぜ私は片付けパパになったのか
お世話になった方々への謝辞
番外編:コミュニティ紹介
※本書は各電子書籍ストアにて好評発売中です。
***
まえがき
はじめまして。「片付けパパ」こと大村信夫と申します。青森県生まれの静岡県育ち、東京都在住です。普段はサラリーマンとして週5日8時間フルタイムで働いています。プライベートでは妻と思春期・反抗期のやんちゃな3人の子どもを持つ子育てパパです。
そんな私ですが、男性では珍しい片付けのプロ資格「整理収納アドバイザー1級」を持っています。そして、会社から兼業の許可を得て、会社員をしながらパラレルキャリアで「片付け」の効果を広める「片付けパパ」として活動中です。
一般的に「片付け」というと「お部屋(モノ)の整理」を思い浮かべる方が多いと思います。しかし、私の活動の中心は「人生(コト)を整える」ということにあります。
なぜ私がモノの片付けではなく人生を整えることを重視しているのかについては、後ほど詳しくお話させていただきます。
とはいえ、普通にサラリーマンをしながらのパラレルキャリアで結果なんて残せるの? と疑問に思う方もいるかもしれません。手前味噌ではありますが、パラレルキャリアを始めた2017年からの約3年に残した実績をご紹介します。
私はこれまでに参加者延べ2000人以上のワークショップを開催し、その満足度は96%を超えています。また、大手メディアからの取材も多数お受けしており、インターネットラジオやAM・FMラジオにも度々出演させていただいています。
本業のほうでもその成果が認められ、今では社員向けの講演会もするようになりました。当初は個人の趣味のように細々と始めた活動ですが、私自身もここまで多くの方に喜んでいただけるとは思いもよりませんでした。
ちなみに、「片付けパパ」というのは有名な料理マンガ『クッキングパパ』をインスパイアしたものです。クッキングパパは単なる料理を作っているパパではなくて、料理を通じて、家庭や地域、社会、世の中を良くしていくというパパなんですよね。
なので私の場合は、「片付け」を通して世の中を良くしていきたいという思いから「片付けパパ」と名乗り、商標登録もしています。
ありがたいことに今ではこうしてイキイキと活動している私ですが、実のところ以前は「人生にモヤモヤを抱えたダメリーマン」でした。毎日酔っぱらって遅くに帰宅し、漠然とした将来への不安ばかりを抱えている状態です。ですが、その現状を変えるために何も行動を起こせずにいたのです。
そんな私が変わるきっかけになったのは1通の手紙です。ふとしたきっかけで、私が幼い頃に早くして亡くなった父の手紙を偶然発見して読むことになったのです。
もっと生きたいと切望していた父の手紙を読んで、私はこう考えるようになりました。
「そんな父に比べて、私の人生はどうだろうか……。人生にモヤモヤを抱えたダメリーマンのままではいけない。自分を変えよう!」
こうして本気で自分を変えることを決意し、行動していく過程で私の人生を劇的に変化させたもの。それが、「片付け」でした。私と片付けとの出会いは、2016年頃に遡ります。
たまたま私の高校時代のクラスメートで整理収納アドバイザーの内藤理恵子さんと同窓会で再会し、「とにかく片付けが苦手で、家の中がぐちゃぐちゃで困っている」という話をしました。大村家は家族全員片付けが苦手だったのです。
すると、内藤さんは「それならまかせて!」と快く相談に乗ってくださり、後日本当に我が家に来てくれました。
以前の私は「片付けができないのはセンスがないからだ」と諦めていたのですが、この出来事がきっかけで「片付けには片付けの理論がある」ということを学びました。たとえば「行動動線(人が自然に動くときに通る経路)」や「アクション数」といった理屈があるのだということをそのときに教えてもらったのです。
そして、片付けをすることによる効果、具体的には家族がニコニコと喜ぶこと、それにより心まで整理されるという面白さを実感しました。そこから片付けの勉強を始め、整理収納アドバイザー1級に合格するまでに至りました。
これは私が片付けパパとなったきっかけでもあります。
もうひとつ、数多くの整理収納アドバイザーの方とお会いして気づいたことがあります。それは、整理収納アドバイザーの方々は輝いているということ。皆さんワクワク・イキイキしている素敵な人ばかりだったのです。
私はその理由を自分なりに分析してみました。部屋の片付けをする人というのは、いろんな物事に対しても「選択基準」がちゃんとあるわけです。先延ばしにしない、すぐに行動する人たちで、その習慣が普段の思考や行動にも活かされているのです。
この「部屋が片付いている人は人生もスッキリ整っている人が多い」という気づきから、私は「片付けは人生にも応用できる」のだということを見つけました。つまりそれは、「表面的で一次的な片付けではなく“本質”を捉えた片付けができれば、プライベートや仕事の進め方など人生全体に好循環が生まれる」という発見です。
実際に私自身も、人生に片付けの本質を応用したことで、下記のように生き方を整えることができました。
・禁酒5年以上(現在も継続中)
・1年で15kgのダイエット
・運動習慣ゼロから約半年の練習でフルマラソン完走
・残業時間が約10分の1
などなど。お酒も片付けましたし、贅肉も片付けました(笑)。「できない」という思い込みも、残業も片付けました。おかげさまで多くの仲間と一緒に毎日が本当に充実して、ワクワクしっぱなしです。特にお金持ちになったわけではありませんが、ここまで充実していろいろなことが現役サラリーマンの私にもできています。
でもそれは、私に特別な才能があったというわけでは決してなく、試行錯誤して得たことです。だからこそ、もし以前の私のようにモヤモヤした人生を送っている方がいるとすれば、この経験や知見をお伝えすることで人生をスッキリ整えることができると思っています。
また、今回私が本を出そうと思った理由はもうひとつあります。それは「サラリーマンをやりながら家事と育児、そしてパラレルキャリアを実践する」という本があまりないので、自分で作ってしまおうと考えたからです(笑)。
よく「忙しくて複業なんてできない」とも言われるのですが、私もちゃんと平日9時から18時までフルタイムで働きつつ、家事も育児も片付けパパの活動もできています。だからこそ、その知見やノウハウを社会に還元することで、より多くの方のお役に立てればとも思っています。
片付けの本の割に、まえがきが長くなってしまいましたね(笑)。
さて、本書の内容はビジネスパーソンの方も多く受講されているワークショップ「人生を整え 夢を叶える 片付け習慣術」をベースに構成されています。このワークショップは累計1500人以上の方に受講していただいており、前述のように満足度96%(5段階評価4以上)という高い評価をいただいているものです。これに加えて、ワークショップではなかなかお伝えできなかった内容も追加しています。ワークや考えるきっかけとなる問題もたくさん出てきますので、ぜひ紙とペンを用意してチャレンジしてみてください。もちろんスマホのメモアプリでもOKです。
本書の読者の方には、部屋をスッキリして毎日を快適に過ごすことはもちろん、「人生という大きな器を整えて充実した日々を過ごすための一歩を踏み出していただく」ことをゴールにしてほしいと願っています。
前述のようにダメリーマンだった私ですが、「片付け」の理論を学んでからは、家では「片付けパパ」そしてビジネスパーソン向けに「片付け部長」としてお伝えする立場となり、人生の軸を見つけてスッキリでワクワクな毎日になりました。
この本を読んでいる「あなた」にも自分の人生を精一杯エンジョイしてほしい。ワクワクな毎日を過ごしてほしい。そんな思いでこの本を書きました。
片付けが得意な人もそうでない人も、一度モノの片付けの基本の基を学びながら、それを人生にどう応用できるか、ぜひ体感してみてください!
第1章 多くの人は「片付け」を勘違いしている
第1章では、まず多くの人が抱いている「片付けの勘違い」についてお話しします。まえがきでもお伝えしましたが、片付けに必要なのは「センス」ではなく「理論」です。ぜひこのことを体感していただきたいと思います。
また、この章の目的はあなたの頭の中の「整理」です。後ほど詳しくお伝えしますが、片付けの工程の中で最も重要なのは「整理」です。まずは自分の頭の中を整理していきましょう!
┗なぜ日本では片付け本が大ヒットするのか?
これは私の持論ですが、片付け本が大ヒットするのは日本くらいだと思っています。もちろん最近はアメリカでもエンタメとして片付けが流行っていますが、実際問題そんなに片付けには困っていないでしょう。そもそも場所に余裕があると比較的大丈夫なんです。
それでは、なぜ我々日本人はこんなにも片付けに苦労してしまうのでしょうか? それには日本特有な3つの社会的な背景があります。
1. 都市部を中心とした狭い居住空間
2. 美徳とも言われるもったいない文化
3. 戦後に欧米から入ってきた大量生産×大量消費文化
これら3つの要因が相まって、「モノは増えるが捨てられず保管場所も足りない」のが現状です。特にファストファッションや100円ショップが流行りだしてから、その傾向が加速しているように思います。
このように日本では片付けの必要性が高いにも関わらず、きちんと片付けのやり方について学ぶ機会はほとんどありません。要するに、「片付けられない人」というのはそもそも片付けのやり方を学んでいないから仕方がないのです。
だからこそ、日本においては他の国と比べても片付け本の需要が非常に高いのです。
ちなみに、今では小学校の家庭科の教科書にきちんと「片付けのやり方」が載っていて、子どもたちは授業で片付けを習っています。
歴史を紐解くと、家庭科が教科として位置づけられたのは昭和22年のことで、この年に家庭科だけでなく、算数科や社会科などの学習指導要領が刊行されました。当時から片付けは家庭科の学習内容に入っていましたので、我々の世代も学校で片付けを習っていたはずです。しかし、片付けを教科書できちんと扱っているケースは稀でした。
そして、平成20年の学習指導要領の改定時に「生活をよりよくしようと工夫する能力と実践的な態度を重視して、表現を改めた」とあり、小学校家庭科の内容も新しく変わりました。現在では「快適な住まい方」という単元で「住まい方への関心、整理・整頓及び清掃の仕方と工夫」の項目が追加されており、教科書でもしっかりと片付けを扱うようになりました。
以前に私が体験した興味深いエピソードがあります。「どうしてもうち、片付けができないんだよ」という人のお宅を訪ねたときなんですが、なんとそのお宅のリビングの床には片付け本がぐちゃぐちゃに散乱していたのです。
とはいえ、実はそういった片付けの本は「もともと片付けが得意な人が書いている」ことが多いので、なかなかそれを実践するのは難しいのですよね。私も片付けが苦手でしたので、その気持ちは大変よくわかります。
┗片付けはセンスではなく「理論」である
片付けられない状態には、そもそも「自分にはできない」という思い込みも深く関わっています。片付けとは別のテーマではありますが、これは実験でも検証されています。
心理学者トーマス博士による記憶力のテストでは、若者と年配者に対してある共通の試験を実施して、試験前に「この記憶試験では、通常、高齢者のほうが成績は悪い」と説明したところ、若者の正解率は約50%、年配者は約30%でした。
ところが「これはただの心理学の試験である」として記憶力への言及を避けると、驚いたことに同じ試験にもかかわらず、若者・年配者ともに正解率は約50%で差はなかったのです。
要するにこの実験では、「年配者は記憶力が落ちると信じているので、その信念通り記憶力が低下する」ということが示唆されています。
私自身も片付けを学ぶ前は「自分にはセンスがないからできない」と諦めていましたし、本当に家の中もモノだらけでぐちゃぐちゃでした。ですが現在は、整理収納アドバイザー1級に合格して、片付けもできるようになりましたから、「できないという思い込み」も片付けることはできるのだと言えます。
ただし、一点だけ補足します。中には、どんなに努力しても「どうしても片付けが苦手だ」という方がいらっしゃるかもしれません。その場合はどうかご無理なさらず。現代には私のような「片付けのプロ」がたくさんいますから、どうしても難しければプロにおまかせしてしまいましょう。これは決して逃げなどではなく、「自分で片付けなければ」という思い込みを片付けたとも言えます。
さて、まずはこの衝撃的(!?)な写真をご覧ください。これは私が片付けに目覚めたきっかけでもあるのですが、以前の娘二人の部屋です。
足の踏み場もないというのは、まさにこういうことですよね。このようにぐちゃぐちゃだったので、探し物にも多大な時間を割かれていました。
もちろん、こんな状態では家族関係も最悪です(笑)。朝起きたら子どもたちは「靴下がない」から始まって、「プリントがない」、さらには「ランドセルがない」などなど……。こうなると朝から険悪なムードです。
そんな状況にも関わらず、当時の私は「うちの家族は5人とも片付けのセンスがないからしょうがない」と諦めていました。しかし、前述の通り整理収納アドバイザーの内藤さんに相談したところ、「あ~、なになに、大丈夫よ! まかせて!」と、実際に家まで来てくれました。
そこで片付けをした後の写真がこちらです。
写真を見ていただくとわかるかと思いますが、もともと娘二人の部屋には入り口を入ってすぐのところに二段ベッドがありました。この二段ベッドの場所を変えて、奥に移動させています。
整理収納アドバイザーの内藤さん曰く、「入り口にベッドがあると部屋に入るのも面倒になっちゃって、モノをガーッと置きたくなっちゃう。まずは流れる『行動動線』を作りましょう」ということでした。
意識さえすれば簡単な話ですが、当時の私はそういう片付けの「行動動線」という概念を知らなかったのです。
もうひとつ、写真左側にある娘たちのクローゼットについても、はじめは備え付けの扉がありました。実はこの扉も取ってしまいました。なぜかと言うと、「①扉を一度開けて→②ハンガーに服をかけて→③扉を閉めて」という3ステップになると、やっぱり面倒になってしまうのです。ですが、扉を取ってしまえばたった1回で終わりますよね。
これを「アクション数」と言うのですが、このアクション数が少なければ少ないほど、行動に移しやすいわけです。
私はこういった話を聞いて「片付けにも理屈とかテクニックがあるんだ、これを学べばいいんだ!」と気づき、まさに目からウロコでした。
こうして、我が家は片付いていったのですが、実は物理的に片付いただけではなく、思わぬ副産物がありました。部屋がキレイになって、みんなの機嫌が良くなり、家族の仲が良くなって、ニコニコ過ごせるようになったのです。
まえがきでも書いたように、「片付けとはモノだけではなく心まで整理されるんだ」ということに気づき、一気に興味を持つようになりました。
皆さんも、何かやりたいなと思っていても「自分にはセンスがないから無理だ」と考えている人は、結構多いのではないかなと思います。
ですが、片付けに必要なのはセンスではなく理論(スキル)ですので、やればできるようになります。私自身がそうだったように、「本当はやってみたらすごく好きかもしれない」という可能性もありますからね。
私がワークショップでよくお伝えしているのは、「片付けは自転車と同じ」ということです。当然ですが、自転車は生まれたときから誰でも乗れるものではありませんよね? みんな最初は補助輪をつけて、練習を重ねるうちに自然と乗れるようになったと思います。
片付けもこれと同じです。できるようになるのは意外と簡単で、理論を学んで実践すれば良いのです。(それもできないという人は、その場の小さな判断、行動をしない傾向がありますので、ぜひ行動していきましょう!)
【コラム】整理収納アドバイザーとは
センスや才能だと思われがちな片付けを理論として体系化したのが、整理収納アドバイザーのカリキュラムです。
整理収納アドバイザーとは、特定非営利活動法人/一般社団法人 ハウスキーピング協会が認定する資格です。その中で整理収納アドバイザー1級は「整理収納のプロフェッショナル」として、社会で活躍できるような考え方と知識が備わっていることを証明しています。
2020年4月現在は約1万人いるのですが、約92%が女性だと言われています。男性は約800人しかいません。しかも、男性もほとんどが建築士やインテリアコーディネーター、引越し関連といわゆる住生活に密着している職業の方が周辺資格として取っているケースが多く、私のように単なるサラリーマンは少ないのです。
私は普段は家電メーカーで働いているサラリーマンですので、単なる片付けの延長ではなく、男性やビジネスパーソンの視点を加えた片付けを、皆さんにお伝えしていければと思います。
なお、本書の内容は整理収納アドバイザー1級で学んだ内容をベースにしつつも、私が片付けパパとして活動する中で得た様々な気づきを+αの知識として追加しています。
┗片付けの成功・ゴールとは?
これも勘違いされがちなのですが、片付けにおいて最も大事なのはどうやってやるか(=How to)ではありません。それよりも、どういう部屋で過ごしたいか(Being)という点です。
たとえば、極端にモノを少なくすることを目的にした片付けもあります。ここ数年流行りのミニマリストがこれに当てはまるかと思います。もしその状態がご自身と家族の価値観や生活のしやすさに合致していれば全く問題ありませんが、もしそうでなければ本末転倒です。
中には、片付けというとまるでモデルルームのように「スッキリと何もない部屋」を思い描く方もいますが、現実ではそこまでモノがないと日常生活に支障が出ます。単に視覚的な印象だけでなく、生活のしやすさなども含めて考えてみてください。
つまり、片付けにおいてまず認識しておかないといけないのは、「やり方」ではなく「あり方」なのです。それを自分や家族と思い描くことがとても重要です。
私が言うのもなんですが、正直に言ってしまうと片付けという行為自体はそんなに楽しいものではありません。もし片付けを一切しなくても何不自由なく暮らせるのなら、それはそれで幸せなはずです。
それでも片付けのモチベーションを上げるためには、「どういうところで暮らしたいか?」「どういう時間を過ごしたいか?」を明確に思い描いていただくことが重要です。
たとえばパートナーさん同士でプレゼンし合ったり、家族会議を開いてお子さんとも一緒に話し合っていただいたり。実際に写真を見ながら「どういう暮らしをしたい?」「こんな感じがいいよね!」「こういうデザインがいいよね」と言い合って、妄想してほしいのです。
┗片付けにはどんな「メリット」があるか?
具体的な片付けの理論をお話しする前に、まずはどのようなメリット(効果)があるのか考えていきましょう。これを明確にして理解することで、あなたにとっての理想の「Being(あり方)」がより具体的にイメージできるようになるはずです。
それでは早速あなたに質問です。
【問題①】
片付けをすると、どのようなメリット(効果)があると思いますか?
ヒント:しないことのデメリットを考えてみましょう
いろいろな答えが出たかと思いますが、整理収納アドバイザーの教科書では下記が片付けの3大メリットとして挙げられています。
【答え①】
①時間的なメリット
②経済的なメリット
③精神的なメリット
なお、私はこの3つのメリットに加えて、さらに下記の2つのメリットがあることをお伝えしています。
【答え①’】
④衛生面のメリット
⑤安全面のメリット
それでは、この5つのメリットについてそれぞれ細かく解説していきます。
1. 時間的なメリット
【時間的なメリットの例】
・探し物に時間を使わない
・家事や仕事を効率化できる
早速ですがここで問題です。
【問題②】
人が一生のうちに、モノを探す時間はどのくらいでしょうか?
(5歳から85歳までモノを探すと仮定)
(1)200時間(約8.5日)
(2)400時間(約16.5日)
(3)1200時間(約50日)
(4)4800時間(約200日)
【答え②】
(4)4800時間(約200日)
5歳からモノを探しはじめて85歳、人生80年の間になんと約200日も探し物に時間を費やしているのです。
ちなみにこの約200日とは、英国保険会社による調査結果をもとにして算出しています。
探し物をする回数:1日平均9回
探し物をする時間:1日平均10分
↓
80年間で…
探し物をする回数:約260,000回(1日9回×365日×80年)
探し物をする時間:約200日(1日10分×365日×80年)
※2012年に英国保険会社が成人男女3,000人を対象に行った調査より
このように私たちは一生のうちに平均で26万回も探し物をしているわけですが、私からこの本を読んでいただいているあなたに1つ質問があります。
Q. 探し物をしているときに「ウキウキ・ワクワク・ルンルン」していますか?
むしろ逆ですよね。どちらかと言うと、イライラ・ムカムカとか嫌な気持ちになりますよね? それを平均26万回も一生のうちにすることになるのです……。
では次に、約200日(4800時間)という長さを実感していただくために、簡単な計算問題を解いてみていただきたいと思います。
【問題③】
時給1,000円のアルバイトを4800時間行うと、お給料はいくらになりますか?
【正解③】
480万円
もちろん現実ではこんなふうに単純にはいきませんが、シンプルに探し物という全く生産性のないことをする時間を金銭的に置き換えると、こんな結果になってしまうのです。
仮にもっと時給の高い仕事をしていれば、失う金額はさらに増えます。もったいないですよね? 数字的根拠から見ても、「探し物って無駄なんだ」と納得いただけるかと思います。
ではここで、探し物についてもうひとつ問題です。今度は「仕事中に」というシチュエーションで考えてみてください。
【問題④】
ビジネスパーソンは、1年間で仕事中にどのくらいの時間探し物をしているでしょうか?
(1)35時間
(2)65時間
(3)150時間
【正解④】
(3)150時間
ちなみにこれは、アメリカで整理術のカウンセリング会社を主宰する、リズ・ダベンポートが出版した『気がつくと机がぐちゃぐちゃになっているあなたへ』で、冒頭で紹介されている統計によるものです。具体的には下記のように書かれています。
「―平均的なビジネスマンは探し物をするためだけに1年間に150時間を浪費している―は実にショッキングだ。実に1ヵ月弱は何かを探し回っているということになるのだから」
続いて、経営視点でも片付けの効果を考えてみましょう。1人のサラリーマンが「仕事中に150時間も探し物をしている」とはどういうことなのか、コスト(費用)に置き換えるとわかります。
【経営視点で見たときの探し物のコスト(費用)】
①サラリーマンの平均年収:441万円(国税庁 平成30年分民間給与実態統計調査)
企業の立場から見ると社員の人件費は給与の1.5~2倍
→約800万円が年間1人のサラリーマンを雇うコスト
②年間240日勤務(1日8時間)⇒「150時間÷1920時間=7.8%」
→探し物は年間労働時間の7.8%
その約800万円のコストのうち、7.8%が探し物
↓
毎年社員1人あたり約60万円が、探し物を探すという、全く生産性のない時間(費用)に費やされている!
日本企業の平均的な利益率を5%とすれば、60万円の無駄なコストは1200万円の売り上げアップによって、やっと充足できるもの……。社員1人あたり毎年1200万円(月100万円)の売り上げをプラスで積み上げるって、結構大変ですよね……?
それが探し物の時間をなくすだけでよくなるわけなので、経営視点でも「探し物の時間とはいかに無駄であるか」がご理解いただけるかと思います。
余談になりますが、私は作家の遠藤周作さんを尊敬しています。遠藤先生の著書に『人生には何ひとつ無駄なものはない』という本があります。私も大好きな1冊なのですが、敢えて一言だけ申し上げたいことがあるとすれば、『人生には探し物の時間ほど無駄なものはない』ということです(笑)。
2. 経済的なメリット
【経済的なメリットの例】
・二度買いや無駄買いがなくなる
・居住スペースや家賃の無駄を省く
まずは、「二度買い」と「無駄買い」についての事例として、実際に我が家で起きた話をご紹介します。こちらの写真をご覧ください。
ある日気づいたことなのですが、我が家にはなんと体温計が5本もあったのです。「あ、そっか、うちは5人家族だから5本か」と思ったのですが、いやいや家族5人が「せーの!」で一緒に熱を測る瞬間ってどれくらいありましたっけ?(笑)
これはまさに無駄買いをしてしまった悪い例ですよね。しかも、体温計だけじゃないのです。必要なときに見つからないから、次また買ってしまう。あなたもこんな経験ありませんか?
体温計ならば1本あたり数千円レベルの損失だと思いますが、実際に経済的なメリットで一番大きいのは「家賃」だと思います。
家賃については、私が3LDKのマンションに住んでいる友人のお宅に行ったときのエピソードでお話ししたいと思います。
その友人には奥さんと小さなお子さんがいるのですが、お家に伺ったらとても片付いていて「すごいですね~! 奥さん、片付け上手ですね~!」といろいろな部屋を案内していただいたんです。そうしたら、ある部屋の前で突然立ち止まって、「この部屋だけは入っちゃダメです!」と言われてしまって……(笑)。
後からわかったことですが、要するにその部屋というのは家中のあらゆるモノを押し込んである“開かずの間”だったそうです。
似たような間取りで解説するとこのようなイメージになります。
私が「入っちゃダメです!」と言われてしまったお部屋というのが、④のベッドルーム(4.9帖)です。このお宅の生活空間全体で見ると、約18%の広さにあたります。
賃貸物件の場合、収納のクローゼットやお風呂にも家賃はかかっているのですが、皆さんの感覚ではリビングとそのほかの部屋に対して家賃を払っている感覚ではないかなと思います。
その前提でお話しすると、このお宅のケースで言えば、実質的な生活空間はリビングと3つのベッドルームです。このうち、全く開かずの間の④が全体の約18%を占めていたので、これを家賃で換算すると月19万円×18%で、3万4,200円。年間にすると41万円です。
言ってしまえば、倉庫代として年間41万円が消えてしまっているわけです。家賃が月19万円の場合ではありますが、月10万円の物件だとしても年間20万円になります。これはもったいないですよね?
もしこの開かずの間が普段からスッキリと何もない状態であれば、このご家族は2LDKのお宅に引っ越して問題なく暮らせるわけです。
家賃はもともとお住まいの3LDKよりも安くなりますから、その分のお金をセーブできるようになりますよね。開かずの間にあったモノが全部なくなるということはないでしょうが、少なくとも今ほどの広さは不要だということになります。
このように、片付けをすることで居住スペースや家賃の無駄を省くことによる経済的なメリットがあります。
3. 精神的なメリット
【精神的なメリットの例】
・気持ちよく快適に暮らせる
・人とのコミュニケーションが円滑になる
私自身の体験では、ぐちゃぐちゃだった家の中をキレイに整理整頓したことで、日々の不要な「片付けバトル」がなくなり、家族の関係性まで良くなったと感じました。イライラする出来事や家族との嫌な時間が少なくなり、快適に過ごせるようになったのです。
また、家族との関係性以外にも、「人を気軽に呼ぶことができる」ということも片付けの大きなメリットです。自宅に人を招くことができるようになれば友人との交流も続けやすくなりますし、「素敵な家だね」と言ってもらえることで、住んでいる家族まで良い気分になってくれます。この状態であれば、仮に消防点検などの急な来客でも、余裕を持って対応できますよね。
4. 衛生面のメリット
【衛生面のメリットの例】
・飲食物の衛生管理ができる
・ハウスダスト対策になる
これは我が家で実際に起きた話なのですが、夏の暑い日にうちの娘が飲みかけのペットボトルを持って帰ってきて、家の中に適当にポンっと置いてしまったんです。そうすると、それが古いのか新しいのか、家の中がぐちゃぐちゃだとわからなくなるんですよね。そのまま1週間ほど放置してしまって、白い藻みたいなものが出ていたんですが、それを間違って子どもが飲んでしまったんです。お腹を壊して次の日に学校を休む、ということがありました。
もちろんこれはやや極端な例ですが、特に小さいお子さんがいる家庭ではどんなものを口にするかわからないため、普段から片付けをしておくことがとても効果的です。
衛生的効果についてはもうひとつ、ハウスダスト対策という効果もあります。
片付けができていない状態というのは、往々にして掃除もしにくい状態になりがちです。そうなると必然的に、ホコリやカビ、ダニなども発生しやすくなります。特にハウスダストアレルギーの方は注意が必要ですよね。いつでも快適な家を保つことができれば、衛生上も安心して過ごせるかと思います。
5. 安全面のメリット
【安全面のメリットの例】
・モノにぶつかるなど身体的な危険が減る
・非常時でも安全な行動ができる
これも我が家での話になりますが、床に置きっぱなしの書道セット。書道セットって硯すずりや文鎮があるので結構重いんですよね。出しっぱなしにしておくと破壊力があります(笑)。
これもある日、うちの子どもがリビングに書道セットをポンと置きっぱなしにしてしまって、仕事から帰宅した妻がたまたまこの書道セットに足を引っ掛けてしまいまして、パキンと右足の薬指を骨折してしまいました。そのときの断末魔のような叫び声がマンション中に響いたという大村家の伝説があります……。
妻は1週間近く松葉杖生活になり、その間は私がフルで家事をやったことがありました。
ちなみにですが、最近では子どもたちも多少はリビングを散らかすのですが、書道セットだけはまっすぐ自分の部屋に持っていくようになりましたよ(笑)。
また、片付けをしっかりしておかないともしものときに思わぬ危険が発生する可能性があります。
たとえば、夜自宅で過ごしているときに突然停電になってしまったとします。片付けが行き届いている部屋であれば、多少視界が暗くてもすぐに非常用のライトがある場所へ向かえるはずです。
しかし、先ほどの書道セットのようなモノが足元に置いてあったとしたら、暗闇の中でモノにつまずいて転んでしまうかもしれません。さらに、地震の場合はモノ自体が破損して凶器になることもあります。
┗探し物をしてしまう理由
前項の「1. 時間的なメリット」では、人が一生のうちに約200日もの時間を探し物に当てているという現状をお伝えしました。
それでは、なぜ我々は探し物をしてしまうのでしょうか?
探し物をしてしまう理由は主に下記の2つです。逆にこの2つを解決することができれば、ほぼ片付けはうまくいくといっても過言ではありません。
1. モノが多い
2. 収納方法が間違っている
1. モノが多い
現代は言うまでもなくモノにあふれています。日々新しく便利な商品が登場し、意識しなければ身の回りのモノはどんどん増えていきます。だからこそ、まずはモノを適切な量に減らす(整理)が必要です。
2. 収納方法が間違っている
収納については、そもそも考え方を間違えている方が多いです。どういうことかというと、収納をテトリスのように隙間なくきっちり詰め込んでいくことだと思っているのです。
詳しくは次の第2章で解説しますが、収納とは「次に使いやすいようにする(スタンバイ)」が基本です。
┗「片付け」とは何か?
次の第2章では具体的な片付けの仕方についての理論をお伝えしますが、その前に「片付け」という言葉についてお伝えしておきます。
実はひと口に「片付け」と言っても、人によって面白いほど解釈が異なります。たとえば、家族に「片付けて」と言っても、それぞれが別の片付けのイメージを持っていたら噛み合いませんよね? まずはそれを共通認識にすることが重要です。
そのためにこちらの問題をやってみましょう。
【問題⑤】
あなたが考える「片付け」とはどんなものでしょうか?
(具体的にどのような行動をするか)
これに対しての答えですが、多くの方が、「しまう」「整理整頓する」「捨てる」「分類する」「もとに戻す」などの答えが出たかと思います。もちろんどれも要素としては合っています。
では、整理収納アドバイザーとしての模範解答はというと、下記のように定義づけられています。
【答え⑤】
「整理→収納→維持」のサイクルを回すこと
そして、既にお伝えしているように3つのフローの中でも一番大事なのは「整理」です。片付けの成功の8割は整理にかかっている、と言ってもいいでしょう。
また、この3つの順番を守ることも重要なポイントです。その理由については、皆さんよく陥りがちな残念な片付けの事例と共にご説明したいと思います。
【残念な片付けの例】
「よし、片付けよう!!」と思い、家の中を採寸して、たくさんしまえるように収納用品を買いに行く。
……こんな経験、皆さんにも心当たりがありませんか?
実は、これはよくやりがちな残念な片付けの事例です。どこが残念なのでしょうか?
そうです。いきなり最初に「収納用品を買いに行く」というところですね。この例は、先ほどの答えで言うところの「整理→収納→維持」のサイクルが回せておらず、本当の意味で片付けをしていることになりません。
むしろ必要以上に収納用品が増え、家の中のモノを収納用品の中に横移動させているだけですよね。これではあまり意味がありません。
意外と見落としがちですが、収納用品だってそれ自体が場所を取る“モノ”なのです。
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無料版はここまで。以降の本編では具体的な片付けの方法はもちろんのこと、この本の肝である人間関係や人生を整えるメソッドをお伝えしています。
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著者プロフィール
大村信夫(おおむら・のぶお)
片付けパパ(R)/片付け部長(R)/パラレルキャリア研究家
1974年、青森県生まれ。国立大学法人東京農工大学工学部卒業。
妻との共働きで大手家電メーカーに勤務しながら、3児の子育てをこなすパパ。その傍ら、片付けパパ/片付け部長としてパラレルキャリアも実践している。
モノを片付けることで「心」や「思考」までも整理され、人生全体に好循環が生まれることを実感し、そのメソッドを広める。会社から兼業を認められ、「片付け」だけでなく「仕事の生産性向上術」「パラレルキャリア実践術」などの多岐にわたるテーマで日本全国を文字通り東奔西走している。
ワークショップ受講者は累計で2,000人以上、満足度(5段階評価4以上)は96%超え。所持資格は整理収納アドバイザー1級/家電製品アドバイザーなど。そのほか、日本マーケティング学会会員/一般社団法人日本片づけ整理収納協議会準会員としても活動中。
Twitter:@katazuke88
note:@omuranobuo