アムロ・レイのモデル (らしい) ルナールの『にんじん』の話
だいぶ前、とある動画の切り抜きでオタキング殿が「御禿曰くガンダムのアムロのモデルはルナールの『にんじん』」と言っていたのを見かけたので、早速読んでみました。フランス人小説家 ジュール・ルナールの『にんじん』。
主な登場人物は、ルピック夫妻、姉のエルネスチーヌ、兄のフェリックス、主人公の「にんじん」ことフランソワ・ルピック。にんじんの本名が作中であまりにも出てこないのですっかり忘れていました。フランソワフランソワフランソワフランソワ…
あらすじにもあるように「にんじん」は何かといつもからかわれ、家族の中でも疎外され、特に母親のルピック夫人からしょっちゅうイジメられています。実の親子版ペチュニアおばさんvsハリー・ポッターの構図です。でも器用なハリーと比べると彼は読んでいるこちらがもどかしくなってくるほどに鈍臭いので、残念ながらほとんどスカッとする描写がありません。あるとしても最後の最後までおあずけです。
そしてにんじんは年齢的に一年戦争時のアムロと重なります。
有名人すぎて参考の画像を載せるのも恐縮ですが一応貼っときますね。
赤茶けた髪に、そばかすは…無いな。
アムロとにんじんって結局似てるか?の話
偉大なる御禿が「アムロはにんじんがモデル」と言っているわけですから、そこに関しては疑問の余地がない。なので個人の感想として、アムロとにんじんのイメージがどれくらい似ていたかという話をします。
ルナールの『にんじん』では、にんじん自身の成長記録のような形式で、彼自身の性格やその変化、日頃受けている仕打ちの数々などがよく分かるようなエピソードが時系列順にたくさんまとめてあります。
その一つ一つは短いものもあれば長いものもあり、はじめから読み進める楽しみを奪わないためにもここでは抜粋しませんが、本作の一番最後に『にんじんのアルバム』なるとっておきのページがありましたのでそこからいくつか引用したいと思います。アムロ君に対するイメージとどれくらい合致するでしょうか。
いかがでしょうか。(本編はこれよりもっとキツい)
率直な感想としては「分からなくもないが、アムロと同一視してみるにはちょっと無理あるな」という感じでした。
巻き込まれ型のヘタレ主人公として登場するアムロ君ですが、初めから割と口が達者なイメージがあったし何よりアイツめちゃくちゃ器用ですよね。性格面での頼りなさは最初こそ感じるものの、物語の中で様々な経験を積んでどんどん立派な人間に成長していきます。かっこいい。
そしてアムロは一人っ子です。
孤独な少年という点では両者とも大いに似た性質を持っていますが、家族構成が違うだけで幼少期の性格形成に大きな影響が出るでしょう。その点アムロは周りから不当な扱いを受けたということもなく、社交的とはいえないにしろ自由にすくすく育っていきます。周りの様子をうかがってびくびくしている様子もあまり見られません。ただ一人が好きだから積極的に人と関わろうとはしない、というタイプ。
一方にんじんは…本来あるべき姿ではない形で、大変優しい心の持ち主であることがよく伝わってきますね。
”心ない仕打ち”というのがまた絶妙で、別ににんじんは日ごろから暴力を振るわれているとか両親から虐待されているとか、そういう目に見えた”仕打ち”を受けているわけではないのです。もちろん誰の目にもそれがれっきとした嫌がらせであることは明らかですが。この微妙な親近感も相まって、にんじん等身大のやるせない気持ちや自虐の心理が彼の言動や置かれている状況から痛いほど伝わってくる。
さらにもっと悪いことに、にんじん自身が正直とても鈍臭い子供であることも確かなのです。なので読んでいると誰を軸に感情移入すればいいのか分からず、どんどん複雑な気持ちになっていく。
一応最後ににんじんが大きな一歩を踏み出すことに成功するのですが、これも到底「ハッピーエンド」と言えるようなものではありません。まあ言ってしまえばめちゃくちゃ後味が悪い。その上「著者が自身の子供時代を冷徹に見つめて綴った自伝的小説」とあるもんですから気味の悪さは倍増です。
だいぶ話が逸れましたが、初めにも言った通り結論はやっぱり「似てるようで似てないようで似てるようで…」といった感じでしょうか。アムロっぽい!と思う場面はそこまで無かったけど確かにモデルと言われればそうなのかもしれない。どちらにせよ敬愛する御禿本人がそう言っているのですから間違いはありませんね。
最後に
途中色々書きましたが、こちらの本ももちろん私のお気に入りコレクションの一つなので全力でおススメさせていただきます。
文学的な後味の悪さって大好物なんですよね。淡々と心が抉られるような体験って、常に情報が文字のみに集約されている読書ならではのものなのではないかとよく思います。読書楽しい。
視覚・聴覚をフル活用して楽しむアニメなどの視聴もこれまた読書とは違う味わいがあって良い。本ばかり読んでいると映像作品がどれも大変情緒的なものに感じられます。末期だナ。
何事もバランスが大事です。なので本やアニメや映画をイイ感じに配分して自分を永久機関化することに成功するとあなたはもう既にまごうことなきクソオタクです。引き返せません。気を付けてください。
そして言うまでもありませんがガンダムは不朽の名作なのでもしまだ観たことない方がいれば是非…
以上です。読んでくださった方ありがとうございます。