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弟のあだな

今日の記事は過去の出来事の報告という形になります。事実を忠実に書きます。
 
 
もう50年も昔のことになります。
まだ学校は平和で、「いじめ」などは(私の周りには)ありませんでした。
 
さて私は旧姓に「毛」という字がつきます。
先にも書きましたが学校にはいじめはほとんどなかったので、そのことでクラスの子に何か言われるということはありませんでした。
 
私には弟が2人います。
上の弟が小学校中学年の頃、彼は「ちょん毛さん」と呼ばれるようになりました。しかしその呼び名も自然に消えたようでした。
彼はおとなしく目立たない子で友だちも少なく、家で友だちと遊ぶということがありませんでした。
それで私が「ちょん毛さん」を耳にする機会があまりなかったのかもしれません。
 
さて、下の弟です。
彼とその友だちの名誉のために言っておきますが、下の弟は勉強も運動もよくできてクラスの人気ものでした。なのでこれは、いじめではありません。
 
彼のあだ名は、
「ちん毛」
でした。
 
下の弟は家にたくさん友だちを呼びます。
というより、うちに友だちがわらわらと集まってくるのです。
彼らは弟のことを、「ちん毛さん」「ちん毛さん」と呼んでいました。
そしてそれが「ちん毛」「ちん毛」になるのに時間はかかりませんでした。
彼らはもう玄関のかなり前から、「ちん毛―」「ちん毛―」と呼びながら入ってきます。
「ちん毛―」と言いながら玄関を開け(当時は家に鍵なんかかけていません)、弟をみつけると「ちん毛―」と言います。「ちん毛―」(〇毛君あそぼ)、「ちん毛―」(おじゃまします)、「ちん毛―」(〇毛君遊びに来たよ)と「ちん毛」ですべてをすまそうとします。何人もがその調子ですからうるさいのです。聞こえる言葉は、わちゃわちゃとした「ちん毛」のみ。
そりゃ慣れますわね、「ちん毛」
私たち家族も「ちん毛」に全く抵抗がなくなっていきました。
ちん毛慣れです。
 
弟の友だちは毎日のように家の数メートル前から「ちん毛―」と叫びながら遊びに来ました。
まあ家族は皆、ちん毛慣れしていましたので何とも思わなかったわけですけれども。
 
 
さて、うちでそうなのですから学校ではと思うと戦慄します。
教室でも「ちん毛」が飛びかっていたのでしょうか。
先生も、ちん毛慣れしていたのでしょうか。
それは知る由(よし)もありません。
 
 
ところで弟が小学校高学年の頃、私は中学生でした。
何度か、そ、それはさすがにやめてという恥ずかしいことがありました。
うちは路地の奥まったところにあります。
たまに通りを歩く弟の友だちが、遠くから大声で名前だけ呼ぶことがありました。
「ちん毛―! ちん毛―!」
皆、この辺にうちがあることを知っていて、いるかなーという感じで呼んだのでしょう。特に用事はないのです。あいさつです。
近所に丸聞こえです。
さすがにないわー。その大声で、「ちん毛―」はないわー、と思っていました。
 
 
弟は中学に入り、もう「ちん毛」とは呼ばれなくなったと思います。
ただ小学校時代の友だちが学校で突然「ちん毛」と言ったら、周りのみんなは驚いたろうと想像はつきます。
なんせ友だちはちん毛慣れしていて、それがおかしな言葉ということは忘れているはずですから。
他の小学校の子はふつう学校では決して聞くことのないそのワードにさぞ驚いたことでしょう。
 
 

という話でした。
 

 
終わりまーす。
 
 

今日のパワーワード
「ちん毛慣れ」
 


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