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太ったそば屋とやせたそば屋。(役に立たないそば屋の話17)

 さて、あなたはラーメンを食べに行こうとしているところだ。
 そこには、似たような造りのラーメン店が並んでいる。
 どちらも、おいしいと評判の店。

 両方の店で、店主が表に立って、
 あなたを招き入れようとしている。

 一人は、ぷっくりと太っている。
 もう一人は、がりっとやせている。

 きっと、どちらの店も、その店主が目の前で、
 あなたのためにラーメンを作ってくれることだろう。

 ぷっくり太っている料理人と、
 がりっとやせている料理人。

 さて、あなたはどちらのお店に入りますか。

 そして、もしそれが、イタリアンレストランだったら
 どうだろうか。

 それが寿司屋だったら?
 そして、そば屋だったら?

 昔、そば屋の主人にハゲはいないという話を聞いた。

 そばにはルチンという成分があって、
 細かな血管を強化する働きがあるのだという。
 それが頭皮に働き、
 そばをたくさん食べる人には、
 ハゲがいないというのだ。
 
 テカテカ頭の酔っ払いの話す、
 かなり眉唾(まゆつば)な話だ。

 でも、嘘だと思っていても、
 他のそば屋に行くたびに、
 つい、そこのご主人の頭を覗くようになってしまった

 はたして、「そば」と「ハゲ」の因果関係はどうなのか。

 だいたい、ほとんどのご主人は、
 帽子やバンダナを頭に巻いている。
 それが、衛生上の理由なのか、
 お客や従業員の目を、光から守るものなのか、
 パッと見た目では分からないのだ。

 ある店で、つるっパゲにはちまきを巻いた親爺さんが
 そばを茹でていた。
 なんだ居るじゃないか、「ハゲ」のそば屋が。

 そのうちに、こちらの頭の上も危機的な状況になってきた。
 これだけそばを食べているのに、、、、。
 どうやら「そば」と「ハゲ」との間には、
 何の関係もないようだ。
 うん、身をもって証明してしまった。

 そば屋の主人には、痩せている人が多い。
 これは、本当に当てはまるかもしれない。

 ちょっと知っているそば屋さんの姿を思い出してみても、
 細身の方がほとんどだ。
 たまにはちょっと小太りかな、という人も居るが、
 中華や洋食のコックさんみたいに、
 丸々と太っているような人は、あまり見かけない。

 そば屋さんは、自分のそばを食べることが多いだろうし、
 やっぱり、そばは、低カロリーな健康食なのだろう。
 あるいは、太る間もなく働いているとか、、、。

 とにかく、そば屋というと、
 痩せた、仙人みたいな人がやっている場合が多い。

 さて、最初の質問。
 あなたは、どちらのラーメン屋に入りましたか。
 
 太っちょの店主のラーメン屋だろうか。
 スマートなおやじのラーメン屋だろうか。

 そして、それが、イタリアンレストランだったらどうだろう。
 すし屋だったら?
 そば屋だったら?

 それぞれに、好みのあることかもしれない。
 
 でも、私だったら、迷わず、
 太っちょの店に入る。

 ラーメン屋だけでなく、
 他の店でも、太った主人のいる店を選ぶだろう。

 えっ、
 やっぱり、同類のいるところに行くのだろうって。
 そんな、失礼な。
 私は、太ってはいない。
 ただ、ちょっと肥えているだけのことだ。

 だって、
 何となく、
 ふっくらとした人の作る料理の方が、
 おいしそうな気がする。
 
 そう思いませんか。

 少なくとも、
 太っている人の方が、
 食べる楽しみを知っているのではないかと思ってしまう。

 十六世紀頃のオランダの版画家の風刺画に、
 当時の庶民の台所を描いた作品がある。

 一枚は「太った人の台所」
 もう一枚は「痩せた人の台所」

 太った人の台所には、食べ物が溢れ、
 人々は、楽しそうに料理を作ったり、
 食事をしたりしている。

 一方の台所にはわずかな食べ物しかなく、
 人々は、暗く、沈んでいる。

 これを見た時、
 ああ、やっぱり料理を作る人は、
 太っていなければいけないんだと、
 一人、納得してしまった。
 
 だって、幸せを運んでくるという、
 恵比寿様だって、
 大黒様だって、
 丸々と太っていらっしゃるではないか。
 (何の関係もないが、、、。)

 かくて、私は、
 お客様に、安心感と希望を与えるために。
 日々努力して、丸々とした体型を得ようとしているのだ。

 食べたくなくとも、がんばって食べ、
 飲み物の助けを借りて、さらにおなかを膨らましているのだ。

 しかし、世の中には、
 そういう血と涙の努力を認めない人もいる。

 私が健康診断を受けた医者は、
 机の上の電卓に、身長と体重を入れて、
 ごく、事務的に言う。

 「太り過ぎですね。
 あと3キロやせてください。」

 なんたる不粋な医者だろうか。

 さて、皆さん、どちらのそばが美味しそうに思いますか。

 ふっくらとした恵比寿様のような人が作るそばと、
 ほっそりとした、雲の上の仙人のような人がつくるそばとでは。

 私は、恵比寿さんのほうが、、、、
 と、丸くなるための努力をしているのだけれど。

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