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たかが「お品書き」だけれども。(役に立たないそば屋の話25)

東京にお住まいの、ある年配のご夫婦のお話し。

食べ歩きのお好きなお二人は、
雑誌の記事で紹介された、新しいおそば屋さんに行った。
店内は、流行のデザイナーによる、
凛とした空間。
ほんのりとした間接照明が、
落ち着いた雰囲気をかもし出している。

これはいい店だなあ。
こういう店ならば、
そばも、さぞかしおいしく頂けるだろう、
そう思われたそうだ。

さて、そうして期待に胸を膨らませながら、
メニューブックを開いてみると、、、、、。
メニューを見てみると、、、、、。

あれ、
なんて書いてあるんだ。

何しろ、小さな文字で、びっしりと書かれている。
おまけに照明は薄暗い。
ご年配のお二人は、
目を近付けたり、離したりして、
やっと、読むことができたそうだ。

そばと料理はおいしかったけれど、
もう、二度と、
目の痛い思いはしたくないそうだ。

メニューの書き方は、
扱う食べ物と、店の格によって、変わるようだ。

気楽に入れるラーメン屋や、焼き鳥屋であれば、
紙にマジックで書いたメニューを、
壁に画びょうで止めてあったりする。
それが、煤けてくると、
まあ、なんともそれなりの、
気の置けない雰囲気が伝わってくる。

居酒屋などでは、日替わりのメニューが多いので、
カウンターの横に置かれた黒板に、
その日のメニューが書かれている。
今日は何が入ったかな、、と、
日々変わる内容が楽しみになる。

寿司屋などでは、
白木の板を並べて壁に掛けて、
それにネタが書かれていたりする。
こういう店では、メニューの板も、
いつもきれいに磨かれている。

ファミリーレストランやイタリアンでは、
ラミネート加工された、写真付きのメニューで、
分かりやすく、美味しさを伝えようとしている。
私などは、こういうメニューの写真をみると、
それだけで、お腹が一杯になったりする。

ちょっと、高級なレストランに入ると、
皮の表紙の重厚なメニューブックが出てきて、
唐草模様に囲まれて、何やら小さな文字が並べられている。
ここに書いてある言葉から、
料理の姿を想像するには、
相当の熟練が必要だ。

さらに、お座敷とか呼ばれる店に入ると、
色紙風の和紙に、今日のお料理などと、
達筆な筆で書かれていたりする。
こういうところは、たいてい金額が入っていないので、
頼むのには勇気がいる。

そば屋のメニューといえば、
少し前までは、
連板(れんいた)というものを、
壁に並べているのが普通だった。

メニューというより「お品書き」。

一枚の長細い板に、
品書きと金額を一ついれ、
それを横に長く並べたものだった。
たいていは黒塗りに白文字だったが、
中には、白木の板を使っているところもあった。
白木とは言え、こちらは、多少煤けても気にしないのが、
寿司屋とは違うところだ。

近頃のそば屋さんは、千差万別。
メニューの書き方も、
焼き鳥屋さん風から、ファミリーレストラン風、
高級レストラン風、お座敷風と、様々なのだ。

よくあるのが、
和紙に、薄墨を使ってメニューを書き、
壁に張ってあるところ。
こういうところは、
そばそのものが売りだから、
メニューが少ない。
そういう、思いを感じさせていいなあ。

メニューブックにしても、
手書きあり、手書き風あり、
単なるワープロ書きありと、
変化に富んでいる。

分厚い焼き板を表紙に使っているところもあれば、
事務用のファイルを転用しているところもある。
扇を広げたメニューもあったなあ。

メニューに、
そばのうんちくを、びっしりと書き込んでいたり、
「手打ちそば屋 かんだた」のように、
誤字を探す楽しみのあるメニューもある。
(皆さん、ご指摘ありがとうございました。)

そば屋さんは、それぞれに工夫して、
メニューを作っているんだね。

この前に行った古いそば屋。
壁には、昔ながらの板を並べたメニューがある。
そして、そば屋には、定番の名前が続いている。

あれ、金額のところに、
紙が張ってある。
値上げをしたのかなあ。
でも、その紙も、だいぶ時間が経っていそうだ。

ちょっと、剥がれたところから、
下の金額を覗いてみると、、、
なるほど、消費税の表示が変わったから、
値段を替えたのだね。
でも、それって、もうだいぶ前の話、、、、。

ちょっと、このそば、
いつ作ったそばなんだ、
と不安になってしまった。

メニューには、
その店の姿勢が表れるのだね。
私も気をつけよう。

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