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黒部五郎岳3泊4日ソロ縦走の記録・1日目:折立から太郎平小屋へ

 今年の8月上旬、3泊4日で黒部五郎岳に登ってきました。
 富山の折立から黒部五郎岳を経て岐阜の新穂高温泉に至る、自分の登山史上最も長距離の一人旅について記録してみました。このコースを検討されている方などいれば参考にしていただけると幸いです。





はじめに


 関東在住で、本格的な登山を始めてからは4年になります。今年は長めの夏休みが取れそうだったので、2泊以上の縦走に挑戦してみたいなと考えていた時に候補に挙がったのが、北アルプスの最深部にある黒部源流域のエリアでした。

 有名な日本最後の秘境こと雲ノ平や、一目でわかる美しい山容の鷲羽岳など、このエリアには魅力的な場所がたくさんありますが、その中でも一際私が行きたいと思ったのが黒部五郎岳でした。

 黒部五郎岳は、富山県と岐阜県に跨がる標高2,840メートルの山で、日本百名山にも選ばれています。北アルプスの中でも特に奥深い場所にあり、一泊以上かけて登る必要があります。
 人里離れた場所にどっしり聳える山の形や、斜面に広がる雄大なカール地形など、とにかくダイナミックな景色に惹かれ、写真や登山記録を眺めながらここまで自分の力で歩いて辿り着いてみたい!と思い、黒部五郎岳を中心に山小屋泊で縦走するコースに決めました。

 このエリア内にある山小屋の中で特に泊まってみたかった雲ノ平山荘三俣山荘はとても人気で、コロナで宿泊者数を制限していることもあり、お盆あたりのハイシーズンはほぼ満室で予約が取れず、今回は1日目に太郎平小屋、2日目に黒部五郎小舎、3日目に双六小屋を確保。富山の折立登山口から登り、岐阜の新穂高温泉へ下りるコースを歩くことにしました。

4日間の行程

激闘の記録

1日目:折立登山口〜太郎平小屋
2日目:太郎平小屋〜黒部五郎岳〜黒部五郎小舎
3日目:黒部五郎小舎〜三俣蓮華岳〜双六小屋
4日目:双六小屋〜新穂高温泉

 縦走のルートについて、折立→新穂高温泉とするか、その逆の新穂高温泉→折立とするかは迷いました。縦走は初めてだし、折立から登った場合、2日目の太郎平小屋〜黒部五郎岳〜黒部五郎小舎までの約6時間ほどの道中に山小屋がないことが心配だったからです。ただ、新穂高を起点とした場合、新穂高温泉〜双六小屋まで、初日で標高差約1,500メートルを登らなければなりません。初日にいきなりそれは辛かろう…と思い、最終的に、折立〜新穂高温泉へ縦走することにしました。(折立からなら、初日の宿泊地である太郎平小屋までは約970メートルの登り)なるべく初日の体力の消耗を抑えて翌日の長時間の歩きに備えたかったのと、後半の日程、体力的に厳しそうなら途中で宿泊したりできるよう、道中に山小屋が点在する新穂高温泉へ降りるコースを選んだ方が精神的にも楽かな…という考えもあったので。


持っていったもの

 今回は30Lのザックを使用しました。山小屋泊ということもあり、最低限必要な装備を除いて、荷物は極力減らしています。ただしコーヒーや温かいスープを道中に飲みたかったので、ガスバーナー等の自炊装備は持っていきました(おかげで荷物はパツパツに…)。ただ、実際はバーナーを使う機会があまりなく、保温ボトルを持参して宿泊した山小屋でお湯を買えば十分だったな…と思いました。小屋によっては無料で分けてもらえます。
 服装についても、今回は登山中の行動着の他には山小屋と帰り道で着る分(1着分)しか持って行きませんでした。とにかく着替えはかさばるので…。モンベルのジオライン着てるし行動着1枚でもなんとかなるだろ!どうしてもヤバくなったら現地でTシャツ買おう!の精神で。食料を多めに持っていったせいで、とにかく荷物の容量に余裕がなかった…。8月ということもあり、多少肌寒くても薄いダウンとレインウェアさえあればなんとかなりました。


 あと、今回持っていってよかったものを参考までに。

  • モンベルの折り畳み傘

 通勤にも使ってるモンベルの軽量傘。休憩中ちょっと降り出した時とかにさっと差せて便利です。最近人気のウルトラ強そうなモンベルの日傘も欲しいんですけど、まだまだ品薄っぽいですね〜。太郎平で差してる人たちがいて羨ましかった。

(↑ウルトラ強そうな日傘!欲しい〜!!)

  • ドライシャンプー

 行程上、最終日までお風呂に入れないのでとにかく重宝しました…。スプレータイプと迷ったけど、かさばらないシートタイプに。こういうスキンケア系のグッズは必要な分だけチャック付きの小袋に入れて持って行きます。頭皮までがっつり拭けて、かなりさっぱりします!山小屋に着いたら即これとハッカ油の汗拭きシートで全身綺麗にすれば4日間はなんとかなりました。(とはいえさすがに最終日あたりは髪の毛がすごいことになってましたけど…)

  • アミノバイタルGOLD

 これまじですごい
 栄養ドリンクに全幅の信頼を置いちゃうタイプなので、万年運動不足の私が四日間歩き続けられたのはこれのおかげと信じています。これは運動後に疲労回復のため飲む種類のやつで、登山にぴったり。ゼリータイプを持って行ったのですが、山小屋に着いたら即飲んでいました。公式によると「スポーツ時にも飲みやすいさわやかなグレープフルーツ味」とのことですが……………まあ、持ち歩いてぬるい状態のゼリーの味なんてこんなもんですかね…………………………。



1日目:折立登山口〜太郎平小屋

22:30 毎日新聞社

(※時間の記載は割と適当です)

 今回、真夏ということもありなるべく早い時間から登りたかったことから、往路は登山者おなじみの「毎日あるぺん号」で折立の登山口まで行くことにしました。(※大手町近く、毎日新聞社から出ている登山者向けバスです)
 この毎日あるぺん号、登山口まで行ってくれるバスなのでとにかくアクセスは良いのですが、問題はバスそのものは観光バス貸切の場合が多く、夜行バスの設備ではないことが多いのです。今回もいつもの四列タイプの観光バスで、足元はかなり広々していたためゆったり座ることができたものの、熟睡というわけにはいきませんでした。しかも東京〜富山まで約7時間の行程に4回も休憩(うち1回は運転手交代)があって、その度に電気が灯るので、1時間半ごとに目が覚めるという… 多分トータルでも2〜3時間くらいしか寝てない気がする。おかげで初日は本当にキツかった…。
 ちなみに、こういうバスで長時間移動するときは軽量のサンダルを持参することを個人的におすすめします!!行きの夜行はもちろん、温泉入ってさっぱりして、帰りに長時間バスに揺られる時間も登山靴履きたくないし…

 途中のSAで見た朝焼け。ここに着く少し前に、乗客の誰かが「日の出だ!」と言ってて、窓際の人達みんながカーテンをちょっと開けて日の出を見てたのが面白かった。立山連峰から登る朝日、綺麗だったな〜。

07:20 折立(1,359m)

 バスは細い山道をぐんぐん上って富山県の折立へ到着。つ、疲れた…。
 この日の分の朝食を買い忘れていて、SAで慌てて買った鱒寿司を食べつつ出発の準備。この時点で既に暑く、眠気も強くやる気がどんどん降下していく…
 どうしよう、ほんとに帰ろうかな…帰りのバス何時かな…と思ったけど折立の登山口は圏外なので当然バスの予約はできません。もうとにかく登るしかない!覚悟を決めていざ入山!
 ちなみに登山届はいつもwebサイト(コンパス)から提出しています。ヤマレコの有料会員だとヤマレコで作った山行計画をそのまま登山届として出せるんですよね…いいな〜。(追記:後日、まんまと有料会員に登録しました。便利!)

08:30 アラレちゃん跡地

 まずは第一のポイントであるアラレちゃん看板へ。…が、いきなりの急登…。そう、新穂高よりマシとはいえ、折立〜太郎平小屋までは970メートルほどの標高差を登る必要があるのです…。蒸し暑い樹林帯を登っているとあっという間に汗だくになりました。
アラレちゃんどこだ??ときょろきょろしていると、福井から来たマダムたちがアラレちゃん看板は撤去されたよ〜、と教えてくれました。元々有志が設置したものだったらしい。福井マダムたち、方言がたいへん可愛らしかった…

09:00 青淵三角点(1,868m)

 ひいひい言いながら登り続け、やっと休憩地点に到着……(疲れすぎて写真すら撮ってない)
 ここまで1時間半で500メートル近く登ってきたわけですが、見上げると遥か遠く遠く先に、ガスの中にうっすら今日の宿泊地(太郎平小屋)が見えるような見えないような…視界が開ける分、目的地の遠さを思い知り心が折れそうになる。ここからあと登りは約460メートル、コースタイムは2時間…頭の片隅に折立→富山駅行きのバス時刻がよぎる。マジで帰りたい。よく考えたら今まで1時間半で500メートルも登ったことあったか!?なんでこんなとこ登ろうと思ったんだよ〜〜〜〜!!!!!!

 と、その瞬間、すぐ傍で休憩していた女性と目が合う。山と道のおしゃれなザックを担いでいて、ここに登ってくるまで何度か見かけた記憶がある。「暑いですねえ」「今日はどこまで行かれるんですか」ふと話しかけたくなって、そんな会話をしたような気がする。初めて来たんですけど、想像以上にしんどくて。私は登るのがすごく遅いから…と言うと、私もそうですよ、と話が盛り上がっていき、そのまま太郎平小屋までご一緒することに。萎んでいた気持ちが一気に回復した。山に行くと、コミュ力が5000倍くらい増大するから不思議だ。
 この方、私と同じく東京方面から来て、私が小屋の予約が取れず諦めた雲ノ平と、日本一遠い温泉こと高天原温泉に行くんだそうだ。尊敬と同時に「そんな健脚の方が私と一緒に歩いてていいんですか!?」という気持ちも沸く。

 「日本最後の秘境」こと雲ノ平高天原温泉、いつか行ってみたいところです。
 雲ノ平、先述のとおり8月の雲ノ平山荘のぎっしり埋まった予約状況を調べただけで心が折れました。(それでも、山小屋で会った他の登山客からは「電話予約のみの頃に比べれば、ネットで予約できるようになってからだいぶマシになった」と聞きました)
 あとは折立から雲ノ平方面に向かうルート上にある、薬師沢からの急登がかなりヤバい気がします。登った人に聞くとみんな「そんな言うほどきつくはないよ」って言うけど、あの傾斜は尻込みしちゃうな〜と…。登りもキツそうだし、下りもなかなか滑って大変そうですよね。テント泊装備であそこへ行ける人は凄いな…。

11:20 五光岩ベンチ(2,189m)

 これから行くコースや今まで登った山の話をしているうちに、次の休憩地点である五光岩ベンチに辿り着く。この辺りから視界が一気に開け、左側には雄大な薬師岳の姿が見えてくる。(上の写真中央あたり、白いところ)
薬師岳、綺麗な山だよなあ…。いつか行きたい山です。黒部五郎岳へのルートに組み込んで初日に薬師岳に登る人もいるそうだけど、今回の旅はとにかく体力勝負なので今日のところはスルーして、白い山肌を眺めるだけに留めておく。

 入道雲とガスの間を縫って、気持ちの良いルートが続く。頭の中ではひたすら久石譲の曲が流れている。(「あの夏へ」とか。)樹林帯の中であんなにネガティブになっていたのが嘘のように写真を撮りまくる。やっぱり景色が良いと疲れの感じ方が違うな…。

12:55 太郎平小屋(2,330m)

 まったりのんびり登り詰め、ようやく本日の宿泊地である太郎平小屋へ到着。ここまで5時間半、いやーよく頑張りました。それにしても後半は完全にバテてペースが落ちていました。寝不足で朝ごはんがおにぎり一個じゃそりゃあね…。シャリバテになりかけてたんだと思います。行動食はこまめに摂りましょう。
 途中からご一緒してもらった女性は、ここから更に1時間半ほど先の薬師沢小屋まで行かれるそう。行程が長いのにスローペースに付き合わせてしまい申し訳なかった。雲ノ平や高天原温泉を経由し、私と同じく3日目に双六小屋に泊まり新穂高温泉へ下りるとのことだったので、数日後の再会を約束してここでお別れ。初日から挫けそうになっていたところを助けていただいて、本当にありがたかった。

 小屋に着いたら早速名物の太郎ラーメンを購入!醤油味のしょっぱいスープが疲れた身体に染み渡る〜。上に乗っているのは行者ニンニク。いいアクセントになっていました。ごちそうさまでした!!

 このどんぶりちょっと欲しい。

 太郎平小屋は収容人数150人。大抵の山小屋と同様、何箇所か壁で仕切られた細長い二段のスペースに、みんなで雑魚寝。ちなみに一応エリアは分けられているみたいだけど男女混合。
 小屋の中はほぼ満員でなかなかに密だったので、夕飯までふらふらと外を歩いて回る。太郎平小屋の裏、太郎山のふもとにはチングルマの綿毛が広がっていて、風がとても気持ちよかった。今回、花の時期ということもあり、色々な所で高山植物を見ることができたのもよかった。ニッコウキスゲくらいしか知らなかったけど、少しは詳しくなったような気がする。

 これはチングルマのお花。多分。


 夕食後、隣の布団の女の子から「夕日すっごく綺麗だよ!」と聞き山小屋の外に出てみると、絶景が広がっていました。携帯のカメラでは思ったように撮れなかった…。今まで登ってきた道と、その下に広がる雲海、更にその雲の下にわずかに富山の街の灯りが見えていて、言葉を無くすくらい美しかった。体がキンキンに冷えるまで写真を撮っていました。初日からいきなり大変な思いをしたけど、ここに来てよかった!と強く思いました。5時間も登った甲斐があった…。



1日目の記録

歩行距離:6.2km
所要時間:約5時間30分
歩数:19,554歩

(2日目に続く)







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