【日野原重明物語】「診察は人間と人間の対等な対話の時間」
自分以外の人たちは、どんな人生を送ったのか。その軌跡をたどると、時代や考え方の枠を超えた学びが多くあります。
千葉県立東葛飾中学校のチーム「丸山/3」は、医師 日野原重明氏の人生をたどり、ドキュメンタリー作品「死と向き合った医師 日野原重明」を制作しました。
100歳を過ぎても医師を続け、講演や執筆活動にも取り組んできた日野原重明さんは、どんな人生を送ってきたのでしょうか。臨場感あふれる映像とストーリーをどうぞ。
第一章 母の死
死は突然やってくる…。
ーHey guys. I am Shigeaki Hinohara.
おっふ、つい留学していたときの癖が出ちまった。私の名前は日野原重明だ。今は日本で勤務医として働いている。
重明「今日も仕事疲れたなー。明日休みだし飲んじゃおうかなー、久しぶりに。ん?父さんからだ。もしもし」
父「あ、あ、重明。急な連絡ですまんが…」
重明「何!母さんが倒れた⁉」
重明「くそお…死なないでくれ…母さん…母さん…」
重明「母さん!」
父「重明…見ての通りだ」
重明「目は閉じている 返事はない 血圧も上昇してきている……救急車はまだか!」
重明「死とは残酷だ…」
第二章 少女の死
ー母親を亡くし、しょぼくれていた私は、このままではいけないと想い、また診療を始めた。
今回担当することになったのは16歳の少女だった。
母親「うちは母子家庭なんです。この子は貧しい家庭を立て直そうと小学校を出てすぐに工場に働きに出てくれたんです。とても心優しくて、親切な子です。難しいかもしれませんが、どうか、治してください。」
重明「わかりました。最善を尽くします!」
ー私はこの時の母親の必死さに心打たれ、絶対にこの少女を治してみようと意気込んだ。
ー当時は、結核に有効な薬もなかった。だから、私には麻酔薬を打つという選択肢しか残されていなかった…
母親「大丈夫だからね。絶対に治るからね…」
少女「先生、どうも長い間お世話になりました。私は、もうこれで死んでいくような気がします。母には迷惑をかけ続けて申し訳なく思っております。先生からよろしく伝えて下さい。」
ー私は弱くなっていく脈を気にしつつも、彼女の言葉にどう答えればいいかわからなかった。「安心して死になさい」など言えず、「あなたの病気はよくなります 死になんてしないから元気を出しなさい。」と言った。
母親「先生、どうもありがとうございました。最後まで必死に看病してもらえて、娘も幸せだったと思います」
重明「いいえ、とんでもありません。私は彼女の最期の時間を幸せにさせられませんでした」
ー私は人生初めての死亡診断書を書きながら、彼女の言葉への返答について考えていた……
第三章 人間 対 人間
ーなぜだ、なぜなんだ……医者とは、人の命を救う仕事のはず。確かに、私は少女の命を救うことができなかった。でも彼女は最後まで、頑張ったじゃないか!なのになぜ、こんなにも後悔が残るんだ……
そうか。前提が間違っていたんだ!
ー気づけば私は走り出していた。医者の仕事の本質は、人の命を救うことじゃない。命の終わりまで、人が悔いを残さないように手伝うことが、医者の仕事なんだ。
医療は、「医師 対 患者」じゃない。「人間 対 人間」なんだ!
ー私は今まで「医者はこうあるべき」と勝手に思い込んでいた。だから、少女の死を受け入れることができなかったんだ。
ならばそれを変えなければ。私にできることはなんだ!?
患者A「ねぇねぇ、正直先生たちが着てる白衣、どう思う?」
患者B「白衣?あぁ、あれ、私苦手なんだよね。『診察だ~』って意識しちゃって」
患者A「わかる!あれ圧迫感あるよね~」
重明「これだ!」
重明「こんにちは!お願いします。早速ですが、血圧を測らせてください!」
患者A「あ、はい!」
患者B「今日の診察、どうだった?」
患者A「それがさー、今までとは全然違くってさー」
患者B「え、なんかあったの?」
患者A「まず診察室に入ったら、先生が白衣を着てなくてさ、いつも、こう、プレッシャー感じてたけど、今日はそれが全然なくて。」
患者B「へぇ、いいな~」
重明「よっしゃあ!」
ー私は、少女の死そして脱白衣を通して、大切なことを学んだ。
それは診察が人間と人間の対等な対話の時間である、ということ。
ー私が医者として生きていく限り、この信念は絶対に曲げない。
私の冒険は、ここからだ!
審査委員「ひとつひとつのシーンに無駄がない!」
審査委員の方々からは、
「斬新だと思った。クエストカップで、プレゼンと映像を組み合わせた作品はあっても、今回のように映像にすべてを入れているのは初めてみた。無から何かを生み出すことに挑戦されたのだと思った。」
「映像作家としては、映像づくりのセオリーにしたがわなくても自由な発想で作品を作れるのだと刺激を受けた。日野原先生が言った『人間対人間』がすごく伝わる作品だった。」
「モノローグがはいるときのストップモーションや、カメラの切り替え、白衣を脱ぎ捨てるシーンでは何回もカットを変えてリピートするなど、細かいところに技が光っていて、作品づくりに力がこもっていると感じた。ひとつひとつのシーンに無駄がなくて全部の瞬間に意図が組み込まれているところに感動した」
といった感想がありました。
みなさん、ありがとうございました!