【探究学習】デジタル家電が語る「ソニー第三の男」の「ギャンブラー」的人生
自分以外の人たちは、どんな人生を生きてきたのか。その軌跡をたどると、時代や考え方の枠を超えた学びが多くあります。
淳心学院中学校のチーム「不幸中のWi-Fi」のメンバーが選んだのは、ソニー元名誉会長の大賀典雄氏。記録媒体のデジタル化をすすめ、ゲームや映画の分野にも進出し「ソニー第三の男」の異名をとりました。
その人生をたどり、ドキュメンタリー作品「昭和のギャンブラー」にまとめました。
物語の主人公は、コンパクトディスク(CD)をはじめ、ソニーを代表する歴代のデジタル家電たち。彼らの語りから、大賀氏の「ギャンブラー」的生きざまと時代の変遷が見えてきます。
CDプレイヤーとPS5が明かす、ソニー入社の経緯
宅配業者:唐矢(からや)さんー、お届け物です!
唐矢:ありがとうございます。ご苦労様です。はぁ、やっと届いたなぁ、PS5。やばっ、もう出なあかんやん。なんで今届くねん!
(外出する)
PS5:はぁ、やっと出れた。今日からここが俺の家かぁ。
CDプレイヤー:おーい!
PS5:ん?なんや?
CDプレイヤー:よぉ!
PS5:うわぁびっくりした!
CDプレイヤー:ごめんごめん。俺、コンパクトディスクプレイヤーの「D-50」っていうねん。新入りに会うのは久しぶりやわぁ。あと、ここでは俺が一番古株な。
PS5:あ~、そうなんですか。どれくらいなんですか?
CDプレイヤー:大賀さんが社長になってすぐのことやから、結構前やな。
PS5:大賀さん?
CDプレイヤー:大賀典雄。
PS5:ああ、わたし、兄が4人いるんですが、よくその人のことを話していましたよ。私はよく知らないですけど。
CDプレイヤー:そうなんや。やめたのも20年前やしなぁ…ソニーの元社員で社長になった人や。
大賀さんは音楽にも、電気回路にもめっちゃ詳しくて、大学生の時に、ソニーが録音機を大学に売りにきてん。でもそれが不具合だらけで、全然使えへんかったから、文句言いにいってん。
そこから何かと関係を持つようになって、一時期は音楽家と社員を同時にしてたすごい人やねん。もしあの人がソニーにいなかったら、俺らは、今日ここにおらんかったな。
PS5:へぇ。めっちゃ詳しいですね。
CDプレイヤー:当たり前やろ!大賀さんが社長になって、初めて心を込めて作られた傑作なんやから、俺は。
PS5:そうなんですか。
大幅値下げのCDプレイヤーが爆売れ
CDプレイヤー:お前、兄貴たちから何も聞いてないんか?俺が生まれる前は、CDプレイヤーなんて16万8千円もしてん。高すぎるやろ。案の定、まったく売れへんから、大賀さんたちがめっちゃ頑張って、5万円切るぐらいまで落としてん!
CDプレイヤー:それが俺、「D-50」やねんけど、よう売れたなぁ。海外の協力会社が配当の割り当て上げろって頼んでくるぐらい。速攻買収して黙らせたけどな!
PS5:すごいですね。
CDプレイヤー:まぁ、そう考えたら、俺が一番大賀さんの期待に応えたんとちゃうかな。
DVDプレイヤー:ちょっと待ってくださいよ、先輩!
CDプレイヤー:お前かよ…
DVDプレイヤー:CDプレイヤー先輩、確かに歴ではあなたより浅いです。でも買収面では、この僕、「DVDプレイヤー」のほうが上ですよ。
CDプレイヤー:いやいやこっちは20億ドルやぞ。高すぎて社内でめっちゃ反対されたけど大賀さんは押し切って買ったんや。やっぱ読んどったんやろうな、俺が3年で取り返すことを!
DVDプレイヤー:20億ドル?その程度ですか?僕は仕事柄、色々な映画のキャラクターに会うんです。その中でも「スパイダーマン」はご存じですか?
CDプレイヤー:はぁ?誰や!
PS5:あー、知ってます、知ってます。あの腕からピューッて。
映画会社を買収、生まれた「スパイダーマン」
DVDプレイヤー:そうそう。大賀さんは親友が亡くなったショックからか、心筋梗塞になって入院したんです。その時に大賀さんが、映画会社を買収しようと思いつき、買収して作られた映画、それが「スパイダーマン」なんです。ねらい通り爆売れして、僕の販売数も爆増しました。さすが大賀さん。
問題はその買収です。あの手この手で交渉、買収したその総額、48億ドル。日本円換算で約5200億円。大きな賭けでしたけど、その後ヒット作が出てなんの問題もなし。買収額や大賀さんへの貢献度でいったら、この僕、DVDプレイヤーに軍配が上がりそうですね。
CDプレイヤー:何もわかっていないなぁ。その大金で買えたのも、俺の手柄があったからこそやんか?
DVDプレイヤー:そんなムキにならないでくださいよ。危ないですよ。もう年なんですから。
CDプレイヤー:はぁ?お前、俺と5年しか変わらんやろが!
DVDプレイヤー:そして、買収後の売り上げを見越した上での戦略的買収!それをあなたの手柄だなんて、おこがましいにもほどがありますよ。
CDプレイヤー:なんやと!
PS5:まあまあ。先ほどから先輩たちの自慢話を聞かされてますけど、DVDプレイヤーさん。5200億円なんて大金、あなただけで取り返せるんですか?
DVDプレイヤー:新参者のあなたに何がわかるんですか。
ゲーム業界に進出、売上2兆円を実現
PS5:あなたたちでは足りないとのちに生み出されたのが、私の兄たちです。その時、ソニーは音楽と映画業界で成功していました。ですが、大賀さんは満足せず、ゲーム業界にも手を伸ばし、当時覇権を握っていた「任天堂」に画質や音質を高めるチップを渡して、少しずつ進出していったんです。そして、それまでになかった両手で握るタイプのコントローラーの開発で兄たちは一気に売れて、売り上げは2兆を超えます。
CDプレイヤー:2兆!!
PS5:しかも記憶媒体にCDを使っているんです。
CDプレイヤー:まじかよ。
DVDプレイヤー:後輩に利用されるなんて…。
PS5:ということは、あなたがたの長所を組み込み、あなたがたを売るために使った買収額を取り返すことにも貢献したこの私が、もっとも大賀典夫さんに貢献したんじゃないですか?
CDプレイヤー:ふざけんなよ!それはお前の兄貴たちがすごいだけやろ!
DVDプレイヤー:そうですよ。あなた自身は何もなしていない。
ウォークマン:ストップストップ!今は私たちで喧嘩してる場合じゃないですって。
スマホ登場、変わる家電勢力
DVDプレイヤー:あなたは英語として名前がおかしいウォークマンさんじゃないですか!ですがあなた、大賀さん自身が唯一の製品制作に携わっていないというくらい、この場に関係ない存在ですよね。
ウォークマン:そんなことより、僕たちは最近出番が少なすぎる。
CDプレイヤー:確かに、俺たちは最近まったく使われてない。
DVDプレイヤー:あの「スマートフォン」とかいうのが出てから音楽、映画、ゲームすべてが一つでできるようになりました。昔は人気者だった僕たちも、今ではまったく使われていないんです。
PS5:ということは俺も飽きられて、部屋の隅でほこりをかぶることに…。
ウォークマン:でも、 ご主人はいつまでも大切に僕たちを持っていてくれる。
CDプレイヤー:でもこのままやったら、どんどん廃れていくだけや…。
ウォークマン:別にいいんじゃないですか、使われなくても。これから先、いろんな物が便利になっていくことで、物事が複雑になっていきます。
それでもし、主人が進むべき道を見失った時、僕たちを使うことで、不便だった時を思い出し、原点に帰らせてあげられるような存在でいればいいと思いますよ。
CDプレイヤー:確かに。年寄りの俺でもまだ、できることはあるんやな!
PS5:私は新しいしネットも使えます!僕たちなら、スマホ1台なんて怖くないですよ!
ウォークマン:「人生がやりたい方向とは違う方向に向くことがある」。これは大賀さんが言った言葉です。でも、その度に大賀さんは、ギャンブラー的な精神で乗り切ってきました。そんな発想で生まれたのが僕たちです。僕たちには大賀さんが憑いています!残りの生涯、賭けてみましょう。
CDプレイヤー:音楽を大切にしてくれた大賀さんに恩返ししたいな。
ウォークマン:僕もです。
・・・
CDプレイヤー:あいつ帰ってきた!
DVDプレイヤー:あっそうか!スマホか!
CDプレイヤー:ほんまや、とまるぞ!
(唐矢さん帰宅)
唐矢:あ~、やっぱスマホ忘れとったやん。ん?やっぱ大賀さんの息子たちは仲がいいな…。
審査委員の声「お客さんが来そう!」なクォリティー
審査委員の方々からは、
「そのまま劇場にいってもお客さんが来そう!さらに、大賀さんの『私の履歴書』を読み込んで、キャラクターに思いをのせて作られていて、大賀さんがご覧になったら感動するのではないかと思った」
「後ろの背景の使い方も、オンラインならではの工夫があってとてもよかった」
「すごく面白かった!キャラクターを使いながら商品を説明していて、わかりやすかった。商品が自分たちのことを熱く語ってくれることで、大賀さん自身が浮き彫りになってくるようだった」
といった感想がありました。
「不幸中のWi-Fi」のメンバーは発表を終えた後、登場人物「唐矢」の名前は、大賀さんが親しくしていた世界的指揮者、ヘルベルト・フォン・カラヤンから名づけたと明かしてくれました。
みなさん、ありがとうございました!
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