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身近な課題を解決したい。生徒の気持ちを引き出す探究プログラム「地域創生部」【海星(三重)連載 前編】

「探究」を学校教育の柱に据え、生徒と地域をつなぐ学習に取り組む三重県四日市市の私立海星高校。9月、教育と探求社が開発提供する探究プログラム「海星地域創生部」の最終発表会を開きました。

大気汚染による「四日市ぜんそく」など、かつて住民が「公害」に苦しんだ地域から発信するSDGs(持続可能な開発目標)とは何か。地元で暮らしているからこその、身近な課題や解決策を探りました。

地元・四日市の企業や環境団体などで働く大人たちが「メンター」として伴走。学びが大きく加速しました。

生徒の学びと気づき、「メンター」が感じた可能性。海星高校が探究学習に取り組むようになった経緯を、前後編でお伝えします。

社会課題を自分事に。さまざまなテーマで四日市を深掘り

「持続可能な四日市」
「四日市から貧困をなくそう」
「女性が活躍できる職場環境とは」

最終報告会にそろったテーマです。
グループで考えたテーマをもとに、課題発生の原因やその解決策について、生徒たちは自らの考えや想いを発表しました。

その表情や言葉からは、探究学習によって得た学びの達成感とともに、現実問題としての社会課題解決の難しさを痛感したことが伝わってきました。

「明確な答えにまで至れなかったことが悔やまれます」
「この学習をきっかけに、引き続き課題に注目していきたい」

プログラムを通して目の前の課題を、“自分事”と捉える思考へと深めることができたからこそ、そう感じられる。その気づきこそが最大の収穫と言えそうです。

SDGsをもっと身近に。地域から考える持続可能な社会へのアクション

四日市の水資源を探究した堀内煌生さんのグループでは、市内の水源の約6割が地下水であることに着目。円グラフや棒グラフなどで可視化しながら、家事や洗濯など、日常生活での節水の重要性を発表しました。

探究を通じ、堀内さんは「蛇口をひねって出てくる水がどこから来ているのか。今まで当たり前すぎて考えもしなかったことについて、問いを立てる面白さに気づきました」と言います。それまであまり関わりを持つことがなかった同級生とも互いをよく知ることができたそうです。

「SDGsという言葉は知っていましたが、どういう意味なのか、正直まったく理解できていませんでした。自分の生活に関わる部分から社会課題を考えることで、SDGsを身近な存在として捉えることができました。まずは風呂に入ったとき、シャワーを出しっぱなしにしないなど、できることからSDGsにつなげたい」

自身の変化について、そう語る堀内さん。他の発表でも、持続可能な社会の実現に結びつけるために、実生活で自分ができることを語る生徒の姿が多く見られました。

四日市だからこそできるプログラム探究のエネルギー

教育と探求社が開発・提供する海星高校独自の探究プログラム「海星地域創生部」では、2年生約190人が半年間にわたって地元・四日市の現状を調査、分析し、今回の最終報告会でその成果を発表しました。

「四日市」の名を世に知らしめたのは、高度経済成長期に発生した大気汚染による公害事件でした。海岸部に造られた石油コンビナートから発生する亜硫酸ガスを含んだ煙によって、地域住民に健康被害が発生。「四日市ぜんそく」と呼ばれ、公害問題解決後も長く四日市の負の歴史として刻まれてきました。

そんな四日市だからこそ、発信できるメッセージがあるはず。 生徒は「世界一サステナブルなまちになるアクションプラン」にまとめようと、探究学習に取り組みました。

公害問題を克服した環境先進都市・四日市の強みは何か。行政や市内企業が取り組むSDGs活動を調べることで、身近な場所に存在する社会課題を発見し、解決策をグループで繰り返し話し合いました。

最終発表では、各グループそれぞれのテーマを5分で発表。短い時間で、グラフや写真など視覚に訴える方法も用いながら学習成果を発表しました。

学内から学外へ。「地域」は学びを広げるキーワード


「海星地域創生部」の大きな特徴は、学校外との深い結びつきです。今回、地元の不動産、製造、運送、SDGs普及団体などの役員や職員が「メンター(指導者・助言者)」として、生徒の探究に伴走しました。中間発表や最終報告会では、発表に対して助言や改善点を伝えました。

「四日市を語れる人へと成長してほしい。そしてこれからの社会を生きる力を養ってほしい」と話すのは、土木や不動産事業を展開する株式会社シンエイテクノ総務部の長尾計享さん。昨年度に続き、「メンター」として生徒の学びに関わってきました。

長尾計享さん

「自分たちの街とSDGsがどのように関わっているのかを、見て、聞いて、触れて、五感をフル活用して学んでほしい。調べようと思えばネットで何でもわかる時代。だからこそ、自分で確かめることが重要だと思います」

「そしてその学びや気づきを伝えるプレゼン力や企画力を養ってほしい。身近な問題を見つけ、課題解決に向けて自分の想いや考えを伝えることは、社会で必ず必要となる力です」

「学力ももちろん大切ですが、それ以上に、社会を生きる力をこのプログラムから学んでほしい」

最終報告会に出席した長尾さんらメンターは、半年にわたるプログラムを振り返り、生徒たちの成長に確かな手ごたえを感じていました。
後編に続く)

【参考】
自ら課題を発見し、その解決を探究する「ソーシャルチェンジ」のサイト
探究学習はじめの一歩!【実例】探究学習のテーマ16種
「探究学習」の最先端 教育と探求社の総合パンフレット
教員向けイベント情報


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