Note 60: Quora FAQ その1/おすすめの本はなんですか?
Note 58において、質問/回答サイトQuoraで何回も質問され、何回も答えてきた質問への答えをまとめ、今後どうようの質問をされたら、このnoteへのリンクを示して回答に替えようと思う、みたいなことを書いた。
で、あるていど真面目にやらないとツマラナイと思って、2018年にされた質問のタイトルをコピペし、分析してみた。
で、思ったのは、やっぱFAQなんて考え方は傲慢であって、どの質問もそれぞれ心を砕いて書かれているので、1個1個ちゃんと答えて良かったということである。
ただまあ、一度宣言したことだから、ある程度続けてみる。
なんと言っても多いのは、本のおすすめはなんですか、というものだ。
でも、よく考えたら、最初にQuoraに登録するときに「本のおすすめ」というジャンルに登録したような気がするから、聞かれるのは当たり前かもしれない。
特に多いのが小説のおすすめを聞くものだが、本といえば小説だからこれも当たり前。
ここでは、当初の構想とははずれ、1個1個回答してみようと思う。
ただし、いぜん書いた回答を書き写すのではなく、新たに書く。
今まで読んだ中で、一番好きなSF小説は何ですか?
ぼくはSFには一家言あって、「SFとは何か」という余計なことを考えながら読んでいる。
だから、普通に「デューン砂の惑星」とか「宇宙のランデブー」とか「ウは宇宙船のウ」とか答えてもしょうがないと思うので、この本を上げる。
大阪に飛ばされた広告マンが自分を取り戻そうとするサラリーマン小説。
自分を取り戻す過程でSF的な題材が出てくるが、SF味はごくごく淡い。
それだけに、粋で、これこそSFって気もする。
絶版本で電子化もされていないが、忘れられるには惜しい本だ。
今までに読んだ本で最も暗かったのは何ですか?そう思った理由も教えてください。
マンガだけど「火の鳥 未来編」だ。
「火の鳥」は、第1巻が人類の夜明けを描いた「黎明編」、第2巻が人類の未来を描いた「未来編」と、前後から現在に向かって描くという構想だったから、「未来編」は事実上の完結編に当たる。
この結末のエピソードで、小学生のぼくは致命的なトラウマを受けた。
2~3日、うんうん言って眠れなかった。
いまはさすがに、それほど恐ろしいとも思わないし暗い気持ちにもならないが、手塚治虫はつくづくうまいなー、と思った。
イヤな話を思いつくのが絶妙にうまい。
こんな話よく思いつくね。
「そう思った理由も教えて下さい」という質問には答えない。
ネタバレになるからだ。
ノーベル賞を受賞した英国人作家、カズオ・イシグロさんの本でおすすめは何ですか?
一冊しかまともに読んでないけど「私を離さないで」だ。
これもキモチワリー話で、SFなので、上2問の答えにしてもいいかもしれない。
昔ブログに書評を書いた。
犯罪小説の本でおすすめは何ですか?
ジョナサン・ケラーマン「殺人劇場」を推す。
臨床心理学者でもあるジョナサン・ケラーマン(奥さんのフェイ・ケラーマンも有名な作家なのでフルネームで書く)は精神医学をテーマにしたミステリーが多い。
「小児精神科医」を職業にするアレックス・デラウェアの一連のシリーズが有名だ。
「殺人劇場」はイスラエルを舞台にした重い話。
自らのユダヤ人としてのルーツを掘り下げた話が多いが、その代表作だ。
ジョナサン・ケラーマンの文章は、1個1個のセンテンスが短く、小説でもあり詩でもあるみたいなところが面白い。
それを、詩人でもあった北村太郎さんが翻訳していたのだが、これがめっちゃハマっている。
ところが、北村太郎さんが逝去され、あとを、北沢和彦さんが担当された。
(1991年の「サイレント・パートナー」は北村・北沢の共訳になっている。制作秘話が聞きたい!)
これが、文体がそのまま受け継がれててめっちゃ面白かった。
冊数で言うと北沢時代の方が長い。
が、2005年の「マーダー・プラン」を最後にぷっつりと翻訳がなくなった。
アメリカではほぼ年1冊のペースで出ているので、14冊もが未訳だ。
歯がゆい。
外国文学じたいが売れなくなったということか。
パブリックドメインになっている文豪作品でオススメは何ですか? 可能であれば、その作品について簡単に説明してください。
オダサクこと織田作之助の「夫婦善哉」だ。
一昨年ぐらいにハマって読んでいた。
芥川龍之介や太宰治を一通り読んだ人が、坂口安吾と並んで進む本が織田作之助という気がする。
出てくる人のいいところダメなところ、あと当時の風景が面白くて、こういう本を読むのが読書の喜びだなあと思った。
「簡単に説明」なんかしません。
好きな文学作品を3つあげるとしたら、何ですか?
セコイ考えだが、3つあげるってことだから長くて難しいのがいいと思う。
長時間楽しめるからだ。
ここ数年、毎年入院しているのだが、入院時にハマったのは次の3冊だった。
やめられない止まらない、フランス貴族青年の貴種流離譚である。
花火が上がるところ、水害が起こるところがイイ!
やめられない止まらない、ロシア貴族青年の青春群像。
ただ、小説の中身と交代ごうたいに作者の戦争論、歴史論が入っているのはどうかならないか。
飛ばして読んでも差し支えないと思う。
あと、この人とドストエフスキーは、登場人物を紙に書き出して、自分なりに相関図を作らないと読み通せない。
(ネットにあがっている、人が作ったやつはダメ。ネタバレになるからだ)
これ文学作品なんだろうか。
いちおう「大衆文学」と名乗って書かれた本だ。
(他に「大衆文学」の代表作には未完に終わった「大菩薩峠」がある)
やめられない止まらない。
剣豪小説と言うか、時代小説だ。
全10巻で、第3巻「主人公編」からようやく調子が出てくる。
「字に書かれた講談」みたいな本で、これを講談師の人がオーディオブックにしたらノリノリで聴けるだろうなー。
たぶんぼくにとって、あらゆる本の中の本一冊だろう。
ぼくがこの本で学んだのは、本というのはためになるとか、人に話して自慢できるとかいうのはぜんぜん重要じゃなくて、本当に重要なのは「読んでいる時間が幸せだ」ということだと思う。
あと次点はイギリスユーモア小説のこの本。
歌手のトム・ジョーンズじゃないよ。
この本も「戦争と平和」と一緒で、物語と作者のエッセイが交代ごうたいに入ってるんだけど、昔はこういう書き方が流行ったのだろうか。
ただしトルストイのエッセイと比べてフィールディングのは面白い。
あと恋愛小説というか結婚小説のこれも良かった。
年をとってから読み返して読後の感想や認識が大きく変わった本はありますか?へのあなたの回答
誰でも言うことだけど、夏目漱石「坊っちゃん」だ。
小学校の頃に、変なお兄さん「坊っちゃん」の行動を読んで楽しめる。
でも、社会人1年生の、坊っちゃんと同じ年代になって、読み味が変わる。
そして、中年以降、赤シャツや山嵐と同じ年代になって、また複雑な読み味になる。
「坊っちゃん」の行動を、「うらなり」の立場から書き直した小林信彦の小説も面白い。
現代的で暗い小説だけど、笑いも多い。
「坊っちゃん」を読んで、しばらく寝かしてから読むのがおすすめ。
もうすぐ中学生になる息子に、お勧めの本はないでしょうか?へのあなたの回答
これは上と同じで「坊っちゃん」だ。
◆
ということで、けっきょく1個1個全部に回答する必要がある質問ばかりで、ぜんぜんFAQにならなかった。
(この項おわり)
会社員兼業ライターの深沢千尋です。いろいろ綴っていきますのでよろしくです。FaceBook、Twitterもやってますのでからんでください。 https://www.amazon.co.jp/l/B005CI82FA