読売アンデパンダン展ー戦後にあったカオスな展覧会ー 0回 研究雑記
概要
戦後の上野で開かれていた読売アンデパンダン展という展覧会をご存知だろうか。
名前の通り読売新聞社が主催した展覧会で、その特徴としては出品作品が無審査であることが挙げられる。つまりは、なんでも出品できるということだ。
この展覧会は1949年から1963年まで、上野の東京都美術館で毎春約一か月の会期を持って開催されていた。
最初は画壇の大御所、例えば岡本太郎が参加したり、きちんとした展覧会の様相を呈していた。さらに第3回では海外作品が多く出品され、ジャクソン・ポロックやルネ・マグリット、マーク・ロスコなど著名な画家も参加した。戦後すぐ、このような海外作家が見られる展覧会も少なく非常に貴重な機会だっただろう。
けれど、この展覧会の様子がおかしくなったのは主に第10回以降だ。前衛的な芸術家が多く参加していき、普通の絵画も出品される傍ら、ドラム缶を積み上げた巨大な作品や、ワインボトルを制作に利用した作品などジャンクアートが目立っていく。
そしてしまいには、うどんが床にばら撒かれたりコッペパンが壁に貼られた作品や、カセットテープのみの作品、作者が布団に寝て涅槃を再現したり、作者が下半身露出して踊ったり、床に絵の具がばら撒かれたり何でもありな様相を見せる。
最終的に、美術館、読売出版社も対応しきれず、1964年第16回展の直前で打ち切りとなってしまった。
けれどもこの展覧会は、前衛芸術家にとってはこれ以上のない出品の場だった。この読売アンデパンダン展は、国内外で高く評価される画家も多く輩出した。篠原有司男、赤瀬川原平、荒川修作、吉村益信などが挙げられる。まあ、彼らも知ってる人は知っている程度の知名度だけれども。
この展覧会を知った経緯
正直、この展覧会をほとんどの人は知らないだろう。自分も知ったのは今年の6月ぐらいのことだ。
現代アートの授業で、読売アンデパンダン展という展覧会がありましたよ、前衛芸術家が活躍しました、それぐらいの情報量で話題としては二分間もなかった。
けれども、なんとなく補足情報欲しいなと思った自分は授業の傍らwikipediaで検索してみた。
このwikipedia記事は、そこそこ情報量があって、非常に興味深い記事だ。ぜひ読んでみてほしい。自分が概要で述べたものよりも詳しく書かれている。
そして読売アンデパンダン展で起きた出来事を簡潔に、そしてその豊かさ、面白さが伝わるように書かれている。
画家たちの熱狂、それがWikipedia越しでも十分伝わってくる。
自分はこの展覧会について調べてみようと思った。
この展覧会を調べる苦悩 情報の少なさ
けれども、このWikipedia記事には参考文献が少なすぎるのだ。主に三つの文献しか提示されていない。
・赤瀬川源平「反芸術アンパン」
・総合美術研究所編「日本アンデパンダン展全記録 1949ー1963」
・「東京府美術館の時代 1926ー1970」
1つ目の赤瀬川原平の「反芸術アンパン」は、画家の赤瀬川原平が当時参加していた思い出をまとめたり、関係者にインタビューをして作られた書籍だ。(読売アンデパンダン展は当時の画家、美術評論家からは読売アンパンという愛称で呼ばれていた)
この著作は、筑摩文庫から出版されていることもあり大学図書館にも蔵書があった。
この著作を読んだけれど、このwikipediaのエピソードの半分ほどは拾えるけれど、不十分だった。それに赤瀬川原平は実際に出品していた画家であり、それゆえにわかる情報が多いかもしれないが、彼が参加したのは読売アンパンの後半、前衛的要素が強くなってからであり、前半の状況はあまり掴めない。それに画家としての読売アンパンは見えても、鑑賞者としての読売アンパンは見えてこない。
自分は、大学図書館の検索サイトや、CiniiやNDLサーチなどを駆使して読売アンパンについて調べようとした。けれども、読売アンパンを中心に取り上げている書籍はほとんどなかった。
検索に引っかかった書籍、記事を片っ端から読んで、そこで引用している書籍、記事を孫引きしてを繰り返していった。それもかなりの苦労だった。
調べれば調べるほど、第10回以降の記述は見つかるけれど、それ以前の情報がほとんどないのである。空白の10年。もちろん、人気でなかったなら美術展がこんなに続くはずがない。
始まりの第1回、そして海外からの出品があった3回、それ以上の情報が綺麗に抜け落ちている。
さらに言えば、10回以降の展覧会に関する情報も正直自分が欲するほど多くない。
東京の上野で15年続いた展覧会とは思えないほどの情報の少なさだ。
希望だった「日本アンデパンダン展全記録」
そして、wikipediaの二つ目の参考文献「日本アンデパンダン展全記録 1949ー1963」、自分はこれにかなりの期待をしていた。自分の大学の図書館には蔵書がなく、ネットの情報によると、全ての回の出品目録が載っているそうだ。
ちなみに「日本アンデパンダン展」となっているのは、読売アンパンより前に日本美術会が同名で展覧会を実施されており、抗議を受け第9回より名前を変えた経緯があるためである。
「全記録」と銘打った書籍、きっと読売アンパンの見たこともない情報があるだろうと期待していた。主に期待していたのは図録だ。読売アンパンは調べてもあまり図録が出てこない。それは戦後すぐという理由もあるが、特に後半のジャンクアートは展示後すぐに壊してしまうことが多く、現存する作品が少ない。
最初は「全記録」を購入する心持ちだったけれど、日本の古本屋で調べると二万はくだらないようなので諦めた。当方学生につき、そこまでお金を出せない。
一応国会図書館には書籍があるようだった。
国会図書館まで行かないと読めないかと思っていた時、大学の美術系の授業を担当している先生に読売アンパンの相談をした時、東京都現代美術館の美術図書室を紹介してもらった。
東京都現代美術館の美術図書室は、美術系書籍を専門に集めており、美術館の図録等も豊富に集めている。ニッチな美術同人誌なども収められていた。そこには先ほどの「全記録」以外にも読売アンパン関連の貴重な書籍も存在した。
まあ結局、国会図書館に行くか、その美術図書室に行くかで結局変わらないのだけれど、これからの調査にとって重要な施設を知ることができた。
そこで「全記録」を閲覧したのだが、かなりがっかりだった。
確かに、「全記録」には全ての回の出品目録があった。出品者とタイトル、そしてどこの部屋に配置されていたのかという情報も。それはかなりありがたかった。
けれども、そのほかの情報は読売新聞のアンパン関連の記事の切り抜きだけだった。
これは、事前調査で調べたヨミダス(読売新聞の過去記事検索サイト)で出てきた記事ばかりであった。つまり、目録以外に新たな情報は一つもなかった。
読売アンパンの底の見えなさ
自分はこの読売アンパンという事象に魅了されている。どんなに調べても全容がわからない感じが、調べていて少し楽しい、そして辛さを感じるところである。
現在、自分のできる最大限を使って調査しているのだが、やはり底がしれない。それでも根気強く調査し、読売アンパンについての記述のある書籍をまとめたら約6ページになった。当初当たる文献が一切わからなかった頃と比べたら、よく頑張ったと思う。
この記事を書いたのはこの苦労を知って欲しいという思いと、何か読売アンパンについて知っている方、詳しい方がいればご協力願えないかという目的のためだ。
正直、戦後芸術に門外漢な自分では少々限界を感じている。
読売アンパンはライフワークだと自分は思っていたりする。どうにかして、読売アンパンという展覧会を綿密に調べ、最終的には何か書籍としてまとめてみたい。そういう野望がある。
もう関係者の多くが亡くなっているため調査は困難を極めるが、読売アンパンをまとめる意義はあると思っている。
まだ調査は途上だけれど、時折読売アンパンに関しての記事を書くつもりであるのでよかったら読んでほしい。多くの人に、読売アンパンに関心を持って欲しいのだ。
協力してくれる方、情報を知っている方は自分のtwitterか、teasqueenhope@gmail.comまでメールを頂ければ幸いだ。
協力者には参考文献リストを共有するつもりだ。
結構荒削りな記事になってしまったかと思うので、今回の記事はいずれもう少し丁寧に書き直すと思う。そのため0回とナンバリングした。