ほのかに春を告げるコーヒーの花
ハワイは今、冬である。日本やその他の寒い地域に住む方には申し訳ないが、確実にいつもよりも寒い。去年、こちらに越してきたばかりの頃、地元の人が「今は冬だから」とか「冬の気候はいいよね」などと話しているのを聞いて「ハワイで冬?」と違和感を感じていたが、暖かさに体が慣れると夫と「寒いね。やっぱり冬だね〜」と言い合うようになった。
ちなみにこの時期、ハワイ島のコナ側は気温が低く乾燥しているので涼しく爽やかで過ごしやすい。私たちが住んでいるところは少し標高が高いこともあって朝晩は16、7度くらいまで下がるので、いつものようにTシャツだけでは心許ない。
季節の感覚は相対的なものなのだと実感する。
それで思い出したことがある。3月の初めにモスクワに招かれてセミナーを行ったことがある。前日に雪が降り、いつもはくすんで見えるモスクワの街が雪化粧しその美しさに感動していた。そこでセミナーの始まりの挨拶で、「モスクワの冬を体験できて嬉しいです」というようなことを言ったら、会場からどっと笑いが起こった。
なんで笑われているかさっぱり分からず焦っていたら、参加者が「リリコイ、これはモスクワの春よ」と教えてくれた。そのとき確か氷点下5、6度だったと思うが、真冬に氷点下20度くらい普通に体験していれば暖かく感じるのだろう。
さて話はハワイ島に戻る。今朝早くに目覚めたので日が昇る前に散歩に出かけた。厚めのフリースのジャケットを羽織らないと寒い。歩いているうちにだんだん空が明るくなり、目も覚めてきた。
すると微かな甘い香りが漂っているのに気づいた。周りを見回したらコーヒーの白い可憐な花が咲いていた。私たちの住んでいるところはコーヒーの栽培に適している地域なので、近所にはたくさんコーヒー農園があるのだ。
初めて嗅いだコーヒーの花の香は、ジャスミンの花をもっとほのかに繊細にしたような上品なものだった。これがあの香り豊かなコナコーヒーになるとは想像できない奥ゆかしさである。そんなことを考えていたら梅の花を思い出した。梅の花はまだ寒い頃に春の訪れを告げてくれるように、ハワイ島ではコーヒーの花が春の訪れを告げてくれているのかもしれない。
冬は爽やかで好きな時期だが、春は日が長くなり、海の水温も高くなってくるので、それはそれで待ち遠しい。
そして気づいた。こんな繊細な香りに気付けたということは、コロナの後遺症の嗅覚障害から回復しているのだ。もしかしたら焦げ臭いとしか感じられなかったコーヒーもそろそろ飲めるかもしれない。