フリーランス最強時代の到来!?/要約『フリーエージェント社会の到来』
ちょうど10年前に出版された『フリーエージェント社会の到来』(ダニエル・ピンク)を読了しました!
「10年前に書かれた働き方の未来予測」に対する
「現時点での答え合わせ」ができることが、とても興味深かったです!
400ページ程度あり、普通の本を読む3倍ほどの時間を要してしまいました( T_T)\(^-^ )ガンバッタネー
本書のエッセンスをぎゅっと詰め込んだ要約記事にしようと思います。
本記事を読むことで、要点の9割を掴んでいただけるかと!ドンッ(週刊ジャンプ見開き1ページ)
第1部フリーエージェント時代が幕を開けた
第1章組織人間の時代は終わった
この10年の間に、アメリカのほぼすべての産業と地域で根本的な変化が起きた。それは産業革命の最も大きな遺産の1つである「雇用」という労働形態を捨て、新しい働き方を生み出している。自宅を拠点に小さなビジネスを立ち上げたり、臨時社員やフリーランスとして働く人が増えているのだ。
従来のように、会社勤めをしている人の間でも、会社を転々と移る人や、会社の中でベンチャーを立ち上げる人など、フリーエージェントの発想に近い働き方をする人が多くなった。
この本のテーマであるフリーエージェントは、自分の未来を自らの手で開く、自由気ままな独立した労働者である。テクノロジーに精通し、自ら針路を定める独立独歩のミニ起業家である。
組織に忠誠を誓い、集団の調和を重んじるオーガニゼーションマンから、フリーエージェントへの移行により、社会は「ハリウッドの世界」に変わり始めている。大勢の個人を常に戦力として抱える固定的な大組織は、戦力が常に入れ替わる小規模で柔軟なネットワークにとって代わられようとしている。
大量生産経済を支えたのはテイラーの唱えた科学的管理法による。それに対して、フリーエージェント経済の土台となる発想は、個人の事情や希望に合わせたテイラーメードの働き方を認めるものである。テイラーメード主義のもとでは、人々は従来の画一的な価値観やルール、システムに縛られることなく、自分のニーズや希望に応じて仕事の仕方を決める。オーガニゼーションマンの時代に全員が同じ「共通サイズの服」を着ていたのに対し、フリーエージェントは「自分サイズの服」を着る。
アメリカ人10人のうち7人以上が、会社などに勤めるより、自分で商売を営みたいと考えている。これは単なる働き方の問題ではなく、魅力的なライフスタイルの問題である。
フリーエージェントが覆す常識
職場における忠誠心は、個人が組織に示すタテの忠誠心に代わって、新しいヨコの忠誠心として強化されている。
収益が大きい事は必ずしも良いこととは限らず、事業を小規模のままにしていくことを選ぶフリーエージェントが続々と登場し、経済的成功に関する既存の概念を塗り替え始めている。
フリーエージェントは顧客やプロジェクトの多角化を図っており、結果的に従来のように組織に雇用されるよりも安定している。
仕事と家庭の両立を放棄し、仕事と家庭の境界線を曖昧に、一体化させている。
第2章全米の4人に1人がフリーエージェント!という衝撃
フリーエージェントは大雑把に、3つのタイプに分かれる
①フリーランス
特定の組織に雇われずに様々なプロジェクトを渡り歩いて、自分のサービスを売る。
そもそも、フリーランス(自由な槍)の言葉の発想は、中世のイタリアやフランスの傭兵部隊にさかのぼる。傭兵は報酬が納得できて、戦いに意義を認めることができれば、どの君主の旗の元でも戦った。
②臨時社員
フリーランスが「意図したフリーエージェント」だとすると、臨時社員は「意図せざるフリーエージェント」の場合が多い。臨時社員の多く(63%)は、本当は恒久的な職につくことを望んでいるのに、効率優先の非情な企業や強欲な派遣会社、それに本人の意欲や能力の欠如のせいで、経済の階級の最下層に甘んじている。
高い技術を持ったホワイトカラーの臨時社員は収入を大きく上げている。医師や看護師などのフリーエージェントも増えてきている。最も収入的に恵まれているのは、臨時の経営幹部である。
③ミニ起業家
今や、アメリカのすべての企業の半数以上を、従業員5人未満の会社が占めている。また、新しい企業の増加率は、人口増加率の5倍に足しており、20年後には、企業の数は現在の2倍に増えるという予測もある。
市場への参入障壁が低くなったこと、強力な情報ネットワークが安価で利用できるようになったこと、資本が入手しやすくなったことが相まって、ビジネスを立ち上げるのが簡単になっている。
自宅を拠点に働く労働者を対象にしたスタンフォードの調査によると、平均的な人物像は、44歳で既婚、高卒以上の学歴を持ち、既に10年近く自宅で仕事をしている、半数以上は男性だという。
シリコンバレーやハリウッド、アジア系の台頭然り、アメリカの経済的な潮流は、ほぼことごとくカリフォルニアから始まっているが、カリフォルニア州で働く3人に2人はフリーエージェントとして働いている。
ナノコープとは「拡大を目指さない」という方針を容赦ないまでに追及している超ミニ企業を指す。
第3章デジタル主義が蔓延する
フリーエージェントというケーキの材料
1つ目は、組織と個人の関係の変化である。IBMは1990年代まで50年間にわたって完全雇用を貫いた。ボーイングも家族的温情主義だったが、ファミリーからチームへを標語に、ファミリーであることを放棄した。
2つ目はテクノロジー。デジタル技術は限界費用を限りなく0に近づけた。資本主義にとって、資本は不要なものになりつつある。
さらには、組織の寿命、そして職種の寿命が短くなっていることが挙げられる。企業の寿命が短くなっている。この時代に私たち一人ひとりの寿命は長くなっているため、1つの組織に一生勤め続ける事は考えにくい。
第2部働き方の新たな常識とは?
第4章これが新しい労働倫理だ
意味のある仕事の基準とは
心理学者のマズローが指摘するように、人は誰でも無意味な仕事より意味のある仕事をしたがるものである。仕事が無意味だと、人生も無意味に等しくなる。
フリーエージェントの人たちにとって意味のある仕事とはどういうものか。キーワードは自由、自分らしさ、責任、自分なりの成功である。
自由とは、仕事で自分の意思を貫けることである。自由の中身は、人によって異なる。大半のフリーエージェントにとっての自由は、行動の自由、選択の自由、意思決定の自由である。
「好きなときに、好きな場所で、好きな量だけ、好きな条件で、好きな相手と仕事をする」
マルクスが指摘する工業経済の最大の弊害は、「疎外」概念である。これは、労働者と労働とを切り離すという非人間的な状態を生み出すことである。究極の自由は、ありのままの自分でいられる自由、自分らしさである。
[マズローの語録]
自己実現を成し遂げている人たちを見れば、最も好ましい環境下では、仕事に対してどういう態度を取ることが1番理想的なのかがわかる。高いレベルに到達している人は、仕事を自分の個性と一体化させている。つまり、仕事が自分の一部になり、自分という人間を定義する上で欠かせない要素になっているのだ。
責任とは、自分の生活の糧と評判を賭けて仕事をすること。従来の組織では、仕事に対する責任は、組織の階層的な構造の中で、良くも悪くもうやむやになってしまう場合が多い。従来は、労働者と市場の間には組織が存在した。その結果、働き者の社員が、怠け者の社員に補助金を与えているに等しかった。
アメリカ経営協会の調査によると、従業員の流出を防ぐ最良の方法は、給料を増やすことでも、各種手当を充実させることでもなく、柔軟な勤務スケジュールを認めたり、長期間のリフレッシュ休暇を与えたり、学ぶ機会を提供することである。要するに、従業員管理の最善の方法は、金をつかませるのではなく、フリーエージェントのように扱うことなのである。
大半のフリーエージェントにとって、事業が拡大すること、大きくなる事は必ずしも良いことではない。自分にとって良いことこそ良いことなのである。出生や金など共通サイズの服の基準で成功を目指す時代はもう終わり、自分サイズの服の基準で成功を目指す次第になった。成功したと言えるのは、朝起きて、自分のやりたいことをやれる人だ。
フリーエージェントの新しい労働倫理は、仕事と同じくらい遊びを大切にする。フリーエージェントという働き方の本質は、仕事と遊びを区別しにくいところにある。さらに、フリーエージェントは、未来のご褒美のために仕事をするのではなく、それ自体をご褒美としている。
ピーターアウトの法則:
ピーターの法則とは階層社会の構成委員は、自分の能力を超えたチームで昇進するという法則だった。しかし今は出世するにつれて、だんだん仕事が楽しくなくなり、やがて優秀な人材は会社を出ていっている。
第5章仕事のポートフォリオと分散投資を考える
自分という人的資源を1つの企業に投資する事は、全財産をIBM株に投資するのと同じように愚かなことである。分散投資が賢明な選択であるのと同様に、仕事の世界でも、分散投資が生き残りの条件になりつつある。
会社というハコに対するタテ(組織)の忠誠心は弱まってきているが、チームや同僚、昔の同僚に対するヨコの忠誠心は強まっている。さらにフリーエージェントは自分の技能や職種、同業者のコミュニティ、顧客、家族や友人に対しても、忠誠心を感じている。タテの忠誠心は、単一の強い結びつきに依存しているのに対し、ヨコの忠誠心は、強度や持続期間の異なる多数の結びつきによって成り立っている。
第6章仕事と時間の曖昧な関係
資本と情報が溢れかえっている経済では、時間が不足しがちである。不足しているものの価値が高くなるというのは、経済学の基本であり、今や多くの人にとって、時間は金よりも貴重である。
ニューエコノミーの最前線では、時間に関する不満は、単に労働時間が長いということだけではなく、時間を自由に使えるかどうかである。今ではフリーエージェントにかかわらず大半の労働者は、時間を切り売りしているだけでなく、能力や専門技術、アイデア、創造性を売っている。こうしたものは、すべて数字で計るのが難しく、テイラー主義的な時間という物差しでは計ることができない。それでもいまだに、知識型の仕事の場合も、報酬は労働時間を基準に支払われている。顧客の立場から言えば、短時間で出てきた優れたアイデアより、長い時間をかけて、ようやく出てきた使い物にならないアイデアの方がコストが高いということになる。時間ではなく、プロジェクト単位で報酬を請求するフリーエージェントが増えている背景には、こうした事情がある。
第3部 組織に縛られない生き方もできる
第7章人との新しい結びつき方がある
フリーエージェントたちは、ひたすら孤独に耐えるのではなく、様々な小規模のグループを作っている。米国のフリーエージェントネーションクラブ(FANクラブ)は、会員が時々集まって、互いにビジネス上のアドバイスをしたり、助け合ったりするグループである。FANクラブは、顧客探しの場であると同時に、生きがい探しの場でもある。
フリーエージェントが集まる朝食会では、会員の1人が自分のビジネスについてしゃべり、他の出席者からアドバイスを受けるという形で進む。出席者は、建設的な姿勢で参加することを求められるが、同時にその週の主役をいじめることも求められる。フリーエージェント経済における人脈づくりを新しく定義すると、「他人の身になること。自分の目標をしばらくは脇に置いて、他の人の夢の中に入り込んで考えること。」自分の問題について考えている時より、他人の問題を検討しているときに、自然とアイデアが湧く。
第8章利他主義で互いに恩恵を受ける
企業の組織図には、組織図は実際の業務の流れを全くといっていいほど反映していないという致命的な欠陥がある。そこで社会的ネットワーク分析を使い、現実の組織図を明らかにする企業も多い。社会的ネットワーク分析では、インタビューや電子メールの利用記録などを調査し、誰が実際に仕事を処理し、同僚に信頼され、情報をコントロールしているか、公式の組織図の下に隠れた現実の人間関係や人脈を明らかにする。
社会的ネットワーク分析によって得られる非公式の組織図では、人間関係によってその人の影響力が決まる。影響力の大きさはヨコの線の数で表される。これはフリーエージェントの世界そのものと言っていい。
フリーエージェントの世界には、従来の企業の組織図とは、似てもにつかない独特の組織図がある。ここでの人間関係はタテの関係ではなくヨコの関係である。個人がどの程度の力を持つかは、あらかじめ決められている地位や肩書によってではなく、人間関係によって決まる。フリーエージェントの人間関係は、機密で固定的でお仕着せものではなく、緩やかで、流動的で襟好みできることが特徴である。毎日会っていない弱くゆるい関係だからこそ、自分とは程遠い考え方や情報、チャンスに触れる機会があるため、価値が高い。
ジョナサン・ターナーによると、進化の跡を見る限り、人類はオープンで流動的で個人主義的なシステムを好む傾向がある。社会の構造を制約の強いものにしようとするのは、人間の遺伝的傾向に反している。
フリーエージェントという働き方が円滑に機能する土台になっているのは賢い利己心、すなわち「あなたがいつか力になってくれると思うから、今あなたの力になろう」という発想である。自由気ままで、一見すると、裏切りが横行していそうなイメージとは裏腹に、フリーエージェント経済は、実は人々に道徳的な振る舞いを促す。「汝の欲するところを他人になせ」という考え方からフリーエージェント経済がまとまっている。社会学者のハワードベッカーは、人類の学名をホモサピエンス(知恵ある人)ではなく、ホモレシプロクス(交換する人)にしたほうが良いと述べている。与えたものが得るという原則は、進化の法則にかなったものである。
第9章オフィスに代わるサードプレイス
スターバックスのようなサードプレイスはコーヒーショップだけでなく、コピー店、書店、エグゼクティブスウィート、大型オフィス用品店など様々なインフラとして広がっている。これらの特徴は、中央計画的なものでなく、自発的に形成されていること、フリーエージェントたちが集まることができることである。
スターバックスは消費者向け飲料ビジネスの企業ではなく、事業用不動産ビジネスの会社(オフィス)として機能している。
第10章フリーエージェントに役立つ新ビジネス
フリーエージェント経済はオーガニゼーションマンの経済とは2つの点で根本的に異なる。第一に力の所在が組織から個人に移った結果、資本ではなく人材が最も重要な資源になった。それに伴い、この重要な資源の価格を決定し、分配するための新しい市場が生まれている。第二に仕事は個人の感情と無縁のものではなく、働く人の心に負担を強いるものになった。この2つの要因に後押しされて、フリーエージェントネーションが機能するのを助ける新しい専門職が登場した。それはフリーエージェントの人材仲介ビジネスであり、代理人として経済面の役割と、働く人の心に密着した心理面での役割を担う。
顧客がPR会社に仕事を依頼するのは頭脳を買いたいからであり、その頭脳の持ち主が特定のオフィスに出勤していようといまいと、依頼主には関係ない。優れた頭脳を早く安価で手に入れることができれば、必ず大手の企業に勝つことができる。
第4部 フリーエージェントを妨げる制度や習慣は変わるか
第11章自分サイズのライフスタイルを見つけよう
社会学者のクリステナニッパートエングによれば、仕事の世界には、(完全に別れるわけではないが)2種類の人間が生息しているという。セグメンテーター(区別する人)と、インテグレーター(一緒にする人)である。セグメンデーターは、職場で家庭の話をしたり、家庭で仕事の話をすることはほとんどないが、インテグレーターはそんな区別をしない。
工業経済の時代が訪れて、それまで一体だった仕事と家庭が切り離された。フリーエージェント経済は、それを再び統合しようとしている。フリーエージェントたちは、仕事と家庭のバランスを取ろうとするのではなく、仕事と家庭をブレンドし始めた。企業の「家庭に優しい」制度や法律で定められた家族休暇の制度がうまく機能していないのは、1つには、人々のこのような志向を反映していないからである。これらの制度は、人々に仕事と家庭をブレンドするのではなく、バランスを取ることを強いるものであり、「自分サイズの服」を求める人たちに「共通サイズの服」を着せるものと言える。
そうした状況で、フリーエージェントたちは、政府や企業に頼るのをやめて、もっと人間の性質と進化の過程に沿っていると思われる働き方を選び始めた。
フリーエージェントのカップルという形態は今になって生まれたものではない。工業経済の時代になるまでは、夫婦は大抵一緒に働いていた。インターネットの登場により、そうした夫婦の商売は、必ずしも零細ビジネスとは限らなくなった。
通勤夫婦:
2人とも会社などに勤務しつつ、子供を育てている夫婦によく見られる状態。
第12章古い制度と現実のギャップは大きい
アメリカの法制度の多くは、大半の人が、単一の雇用主のもとで、フルタイムの恒久的な職についている状態を前提にしている。こうした法律は、耐用年数を過ぎて生き延びており、主に3つの面でフリーエージェント経済の足を引っ張っている。それは医療保険、税制、地域地区規制である。雇用主を持たないで働く人が増えた今、雇用主を通じて加入する従来の医療保険制度は時代遅れになっている。この制度は、歴史的な偶然から生まれたものであり、経済的、倫理的な必然性はほとんどない。しかもこの制度のおかげで、無保険者のフリーエージェントが大勢いるうえに、医療保険を失うことを恐れて、独立に踏み切れていない人も多い。一方、現在のアメリカの税制は、3つの点でフリーエージェントに不利な内容になっている。フリーエージェントは、社会保険税を給与所得者の2倍支払われるのに加えて、医療保険料の全額控除を認められず、頭が痛くなるほど煩雑な税制のおかげで、時間とコストと精神的ゆとりを奪われている。また自治体の地域地区規制は、仕事と家庭の明確な区別を前提にしており、その多くは在宅のフリーエージェントに厳しい規制を犯している。自宅でビジネスを営むことを禁止している自治体もある。
第13章万年臨時社員の実態と新しい労働運動の始まり
フリーエージェントにもマイナスの面はある。劣悪な環境で、雀の涙ほどの給料のために退屈な仕事をしている臨時社員もいる。正社員と同じ仕事をしているのに、派遣会社から派遣された臨時社員であるという理由で、医療保険等の付加給付を与えられていない人たちもいる。
しかし、こうした人はごく一部であり、今日の労働の現場で不平等を生み出している本当の原因は、その人が正社員であるか、臨時社員であるかではなく、需要のある技能を持っているかいないか、新しい労働市場における交渉力を持っているかいないかの違いである。
将来的に、フリーエージェントたちは、労働組合に加入し、組合を通じて最低報酬を保証される一方で、市場価値のある人材は、個人代理人に依頼して交渉に当たらせ、もっと良い条件で個別契約を結ぼうとするようになる。
第5部未来の社会はこう変わる
第14章「定年退職」は過去のものになった
フリーエージェントの未来では、65歳で完全に仕事を引退するのではなく、インターネットを使った仕事を探し、フリーエージェントとして働き続ける「eリタイア」する人が増えている。
フランクリンルーズベルト大統領が社会保障法を成立させて、標準的な引退年齢を65歳に定めた当時、アメリカ人の平均寿命は63歳であった。しかし現在の平均寿命は76歳である。医学の進歩により、寿命はさらに伸びていく。工業経済の時代には、歳をとって曲がった背中は大きな負債であったが、知識経済の時代では年輪の刻まれた脳みそが大きな財産である。
第15章教育はテーラーメードでできるようになる
銀行や病院、食料品店も大きく関わる中で、学校だけが数十年間ほとんど変わっていない。「共通サイズの服」の学校が「共通サイズの服の労働力」を大量生産するというシステムは、いつまでも続くとは考えにくい。
現在、在宅教育を受けている子供の数は全米で170万人。毎年15%の割合で増えている。在宅教育を受けている子供は、従来の学校の同世代の子供より、大人と接する時間や地域社会で過ごす時間、違う年齢の子供と付き合う時間が多いため、社会性のある子供に育つ。
第16章生活空間と仕事場は緩やかに融合していく
ドラッカーは「本当に必要なのは重さ1キロちょっとの脳みそだけなのに、どうして企業は80キロもの体を都心のオフィスまで30キロも運ぶために金を払うのか」と言った。社会全体にとってもオフィスに出勤して働くというシステムは無駄が多すぎる。オフィスは、1日の半分からっぽで、家は1日の半分空っぽである。実際に週末や休日を計算に入れると、使用中のデスクの割合は15%程度に過ぎない。
フリーエージェントの時代には、道具倉庫としてのオフィスは姿を消し、2つの新しいタイプのオフィスが登場する。第1は、「プライベートアイダホ」と呼ぶべき形態で、集中力を要する仕事をするための静かな個人用のスペースである。第2は「フリーエージェントの山小屋」で、仲間と協力し合う場、行きつけのパブとエグゼクティブスイートを足して、2で割ったような場である。
こうした新しいタイプのオフィスの登場は、住宅と事業用不動産のあり方も様変わりさせる。オフィスが当たり前になり、リフォーム産業に好景気が訪れるであろう。オフィスでは、グループで利用するスペースが増え、シンボリックなトロフィータワーは、独立性の高い労働力のための多目的スペースにとって変わられる。
未来の職場では、会社員は出社すべき明確な理由がある場合以外は会社に出て来なくて良くなる。
第17章個人が株式を発行する
金融の民主化の第一段階は、株式や債権に投資する人口の増加であった。だとすれば、数年後には訪れるであろう第二段階は、株式や債券を発行する人口の増加になるはずだ。あらゆる形態のフリーエージェントたちが、市場から直接借り入れを行ったり、株式を売却して事業資金を調達するようになる。
資金調達の歴史においては、ロックスターのデヴィッド・ボウイが、著作権収入を担保にして、ボウイ債を発行し、成功を収めた。この債券は格付け機関からAAAの評価を受けている。同様に作詞作曲チームのホランド・ドジャー・ホランドも、利率8%のモータウン債を発行し、3,000万ドルを調達した。この世に、新しい金融手段が登場するたびに、金融の民主化が進んでいった。
社債を発行する企業が、堅実な大企業だけでなく不安定な新興企業にも広がったように、ボウイ債のように債券を発行する個人も、有名人だけでなく、一般人にも広がるであろう。FAN債(フリーエージェントネーション債)は学生ローンよりも、金利は高いが、利用価格が緩やかである。クレジットカードほど借りやすくないが、貸し手のリスクが低いので、金利は低い。さらに、FAN債の証券化や投資信託化が進めば、投資家のリスクヘッジが可能となる。
フリーエージェント株の投資信託が登場する可能性もある。株式を公開しているトップクラスの「ソフトウェア技術者1000人の株式に投資するファンド」や、大手コンサルティング会社の元従業員の発行する株式に投資する「pwc同窓会ファンド」が生まれるかもしれない。
第18章ジャストインタイム政治が始まる
フリーエージェントの時代には、ホワイトハウスへの道はホームオフィスを通るようになる。アメリカ政治の眠れる巨人、すなわちフリーエージェントたちが、いよいよ選挙で大きな影響力を持ち始める。この新しい政治勢力はニューディール政策に代わって、フリーエージェント経済に合った新しい政策を見出す原動力になる。このいわばニューエコノミーディールは、医療保険や年金の支給、労働者の権利保護のメカニズムの中核に、企業ではなく、個人を据えるものになる。
ジャストインタイム政治:今の政治家に求められるのは、支持層を固めてそれを守ろうとするのではなく、目の前の政治課題に対応するための政治的連合をその都度リアルタイムで築いていくことである。
第19章フリーエージェントで未来は大きく変わる
グローバルな巨大企業は、当分は消えてはなくならない。アメリカ人の4人に3人は組織に勤めている。消えていくのは、中間サイズの企業である。規模の経済の恩恵を受ける企業は、途方もなく巨大化し、国家の規模に近づく一方、企業の小規模化もさらに進行し、フリーランスやミニ企業は増え続ける。中規模な企業は、どちらかに移行しなければ、両者の間に広がる裂け目に落ち込む。
「1つの企業の内部で取引を行った方がコストが安ければ、企業の規模は大きくなる傾向がある。オープンな市場で、外部の独立した相手と取引をした方がコストが安ければ、企業の規模は小さいままだったり、さらに小型化する傾向がある」