仏教とは何か? イントロダクション
仏教は、一般的に、少し難解でよく分からない東洋の一宗教であると見なされていて、その本当の趣旨と考え方もあまり知られていないように思われます。
その難解さは、宗派間の多様性と、様々な修行方法の違いにも起因していて、それらに通底する仏教の本質を把握することを、より困難にしているようにも思われます。
しかし、仏教を理解するのが難しいのはそれだけが理由ではありません。そもそもの仏教の開祖である釈尊が説かれた、中道、十二因縁、苦 の概念といった基本的な教義そのものも、沢山の解説書で説明されてはきましたが、誰もが納得できる説明がなされているとはとても言えない状況にあるように思われます。
では、なぜ、仏教の考え方は、それ程までに理解が難しいのでしょうか?
それは、仏教の世界観が、殆どの人が普通に持っている世界観とは大きく異なっているからです。
通常、私たちの世界観は、いわゆる素朴実在論に根ざしており、全ての人が同じ世界に住み、いつも同じ世界を認識していると思っています。
それとは対照的に、仏教では、いわゆる物理的な世界も、私達の心の世界の一部であると考えられているのです。
従って、上記の十二因縁で説明されている出来事も、その殆どが心の世界での出来事であり、我々が通常、現実世界、あるいは物理的外界、と呼んでいる世界は、その一部に過ぎない為、目に見える物理的世界のみが実在の世界であるという前提で考えると、十二因縁で説明されている出来事は、その殆どが目に見えない世界でのお話になり、現実感も無いし妥当性も無い内容だとしか思えないため、その本当の重要性が見逃されてきものと思われます。
しかし、その事こそが、仏教思想の正しい理解の障害になってきたのと、その驚くべき先進性が今日まで充分に理解されないままになってきた最大の原因であると思われます。
このように、これまでのような、本来の仏教的世界観に基づかない仏教解説では、仏教の本当の意味を明らかにする事は出来ない、という事実に留意し、本シリーズでは、素朴実在論に迎合することなく、本来の仏教的な世界観そのままを前提とした、これまでに無い、全く新しい仏教思想の解説を試みています。
おりしも、科学の世界でも、20世紀前半以来の量子力学の進歩により、素粒子の状態確定に、人間の意識が重要な役割を果たしていることが分かり、それによって、人間存在にかかわりなく初めから確定した状態で存在している物質世界という物の見方に見直しが迫られており、全ての人がいつも同じ世界を認識しているという、素朴実在論はもはや過去のものになりつつあります。
現在では、現実世界は、無数の在り方の可能性の中から選択された世界であることと、その状態確定と選択に、人間の意識が介在している可能性があることが、明らかにされています。
そして、そこで提示されつつある、新たな科学的な世界観は、正に仏教の本来の世界観と、極めて似ていることが明らかになりつつあるのです。
これまでの素朴実在論を前提とした仏教解説は、惑星の動きを天動説で説明しようとする試みに似て、不自然で無理のある印象が拭えず、仏教の本当の奥深さと科学的な妥当性を分からなくしてしまっていました。
そこで、本シリーズでは、先ずは、仏教的世界観そのものに対する理解が深まるように、その解説から始めています。
その上で、仏教思想の説明をしていますので、これまで、理解の難しかった様々な考え方が、無理なくスムーズに納得できるように、解説されています。
そうする事で、仏教の考え方が、極めて科学的で、思想・信条に関わりなく、誰にとっても有益で、あらゆる文化的・地理的な境界を超え、より良い人生を生きるための、普遍的な洞察を、世界中の人々に提供することができるものであることが、明らかにされています。
このシリーズでは、仏教の基本的な考え方から、その実践的な応用の意味を、(最新の科学的知見に基づいて)解明することで、仏教思想の深遠な智慧と、その実践的な意味の謎を解き明かし、その結果として、皆さんがご自身で、人生の数多くの疑問に対する答えを発見できるようになることを目指しています。