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SPAC統合時ののれんに関する会計処理

“SPACを通じて上場した企業、巨額ののれんの減損を計上”

今年(2023年)4月6日のウォールストリートジャーナルに、Companies That Went Public via SPACs Log Billions of Dollars in Goodwill Write-Downs(SPACを通じて上場した企業、何十億ドルものののれんの減損を計上)という記事が載りました。

この記事によると、SPAC(特別目的取得会社)を通じて上場した企業39社が2022年に合計約115.7億ドルののれんの減損を計上したそうで、前年の11社、合計約27.1億ドルと比べて大幅に上昇した、ということでした。

SPACは事業会社を買収することだけを目的に設立、上場された空箱です。通常買収に際しては、取得価格と被買収会社の純資産に差がある場合はのれんが計上されます。この記事ではSPAC経由で上場した会社は、通常のIPOを経て上場している会社と比べて、のれんの減損が多いということを指摘しています。つまり、買収価格が実態よりも吊り上がっていたのではないか、買収時に想定されていた事業計画が強気過ぎたため、実際にはアンダーパフォームしている、という話です。

この記事のなかで気になる一文があります。

“One style of SPAC deal, known as a reverse merger, however, doesn’t have goodwill allotted to it”(リバースマージャーとして知られるSPACの一つの取引形態においては、のれんが認識されない)


SPAC上場でものれんが計上される場合とされない場合がある?

実はSPACは統合時の会計処理に際して、のれんが認識される場合とのれんが認識されない場合の2通りのパターンがあります。それは①会計上SPACが買収会社となるか、あるいは②法的には買収される側である事業会社側が会計上の買収会社となる逆取得(Reverse Acquisition)となるか、の2種類となります。

①SPACが買収会社となる場合の会計処理

前者の場合、前述の説明の通り、買収に際して取得価格と被買収会社の純資産に差がある場合はのれんが計上されます。一方、逆取得の場合は、事業会社がSPACを取得するということになるのですが、通常SPACは空箱なので米国会計基準(US GAAP)において事業(Business)の定義を満たさないため、企業結合会計(ASC Topic 805 Business Combinations)は適用されず、Reverse Recapitalization(リバース・リキャピタリゼーション)と呼ばれる会計処理となり、事業会社側が実態として空箱のSPACの純資産を吸収し取り込んだという形になります。Reverse Recapitalizationに際しては時価評価やのれんの計上といった通常の企業結合のプロセスは行われず、SPAC側の資産・負債がそのまま事業会社のバランスシートに合算されることになります。

②事業会社側が買収会社となる場合(逆取得)の会計処理

逆取得と認定されるためには、買収される側の事業会社の株主や経営陣が、統合後の会社を実体的に支配していると認められることが必要です。

例えば、2021年にSPAC経由でNasdaqに上場したAurora Innovation Incは、年次報告書のなかでSPACとの統合の会計処理に関して以下のような開示を行っています。

The Merger was accounted for as a reverse recapitalization in accordance with GAAP. Under this method of accounting, the Company is treated as the acquired company and the Merger is treated as the equivalent of Legacy Aurora issuing shares for the net assets of the Company, accompanied by a recapitalization. The accounting acquirer was primarily determined based on Legacy Aurora shareholders having the largest voting interest in the post-combination company and the ability to appoint the majority of the members of the Board of Directors as well as Legacy Aurora management holding executive management roles in the post-combination company and are responsible for the day-to-day operations which are comprised of Legacy Aurora activities.

この企業結合は、会計上Reverse Recapitalizationとして処理されました。この会計処理においては、当社(SPAC側)は被買収会社として扱われ、統合前のAurora社(Legacy Aurora)がSPACの純資産を取得するために株式発行し、リキャピタリゼーションが行われたという処理が行われました。会計上の取得者はLegacy Auroraですが、それはLegacy Aurora の株主が結合後も最大の議決権を持つこと、取締役会のメンバーの過半数を任命する能力を持つこと、結合後の会社においてLegacy Auroraの経営陣が経営権を握ること、日常業務、つまりLegacy Auroraの事業活動を掌握していること、等の事実に基づいて決定されました。


逆取得の場合はのれんの認識は行われない

このように、SPAC統合後も、実体として従前の事業会社の株主や経営陣が引き続き事業活動の主体を担うと判断される場合、買収される側が会計上の取得者として扱われ、Reverse Recapitalizationとして会計処理されることになり、のれんの認識を伴う企業結合会計は適用されません。反対に、SPAC側の経営陣が統合後の事業を主導していくような枠組みの場合は、通常の企業結合会計が適用され、のれんが認識されることになります。


(おまけ)IFRS におけるSPAC統合時の会計処理

一方、IFRSを適用した場合は、どのような会計処理になるのでしょうか。

IFRSもUS GAAP同様、会計上の取得者がどちらになるか分析・検討することを要求し、SPACが実態として取得する側になると判断される場合は、US GAAP同様に企業結合会計(IFRS 3号「企業結合」)を適用します。一方、逆取得と判断された場合の会計処理ですが、IFRS 2号「株式に基づく報酬」を当てはめ、SPACの資産を取得するため、またそのためのコスト(上場費用)を賄うために株式を報酬として支払ったという会計処理になります。

US GAAPとの違いは、上場費用を損益計算書上で費用として計上する、その対価を株式報酬として支払ったとみなす処理(Deemed shares issued)が行われる点です。基本的な考え方はUS GAAPと共通するのですが、考え方の違いから細かな処理の違いがみられます。



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