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Quant College レクチャーシリーズ(3)CVAモデル入門(前編)
【変更履歴】
2021/4/17 「8.3.2.2 オプション満期の選択」を加筆・修正
1.はじめに
概要:
当noteはCVA計算方法の入門的内容について、可能な限りわかりやすく、かつ体系的にまとめたもの。
当noteリリースの背景:
・CVAは海外では10年以上前から導入されていたもの
・国内でも早くから話題には上っていたが普及には至らなかった
・しかし最近では会計基準や資本規制を受け、国内でもCVA導入が進行中
・大手のみならず地銀に至るまで、多くの日系金融機関がCVA導入の準備中(あるいは導入済み)であると聞く
ところがネットの情報は、
・英語で書かれているものが多い
・数式が多く、計算内容の「お気持ち」がわからない
・断片的なものが多く、基礎から体系的に学べるものが少ない
最近では日本語の専門書も出てきてはいるものの、
・初心者には説明の難易度が高い
・知りたい情報がどこに載っているかわからない
・専門的で発展的な内容も多く含まれる
・自分にとって必要な情報にたどり着く前に挫折しがち
というのが現状である。
そこで当noteでは:
・実務で必ず問題になる論点にしぼりコンパクトに解説
・専門用語を平易な日本語で説明
・数式の使用は最小限にして、可能な限り直感的に解説
・初心者が理解しやすい順番で(全体像から詳細へ)説明
当noteの著者について:
・クオンツとして新卒入社後、デリバティブ評価関連の実務に長年従事
・XVA計算モデルの調査・実装・検証の実務経験あり
・自身の運営するサイトQuantCollegeではXVA関連記事を約70本執筆
・過去にリリース済みのLIBOR廃止に関するnoteは、マニアックな内容にも関わらず200部以上を売り上げ済み
当noteは以下のような方向け:
・CVA計算方法の市場慣行(みんながどうやっているか)を知りたい方
・CVA計算システムのベンダー選定に追われている金融機関の方
・業務でCVAの数値を見るが、どう計算されているか概要を知りたい方
・XVAの分厚い専門書を読んでみたが、途中で挫折してしまった方
・計算式の導出など理論的背景ではなく、計算の手順と概要を知りたい方
・必要な資料を集めて読んでまとめる時間を節約したい方
・英語を読むのはしんどいので、日本語で効率的に学びたい方
当noteを読んで得られるメリット:
・CVA計算方法の市場慣行(みんながどうやっているか)を把握できる
・実務で重要な論点を短時間で学習でき、時間の節約になる
・ネット上の英語資料を調べ回る必要がなく、本業に専念できる
・頭の中に「地図」ができて専門書が読みやすくなり、効率的に学べる
・CVAの計算手順および計算に必要なインプットについて、頭を整理できる
・CVA計算システムを選ぶ際、どのような点に注意すればよいかがわかる
当noteで前提とする知識:
・為替予約や金利スワップといった基本的なデリバティブ商品の知識
・カウンターパーティリスクとCVAに関する入門的な知識
・(必須ではないが、)学部一年レベルの初等的な確率論の知識があるとより深く理解しやすい
当noteに書いていない内容:
・カウンターパーティリスクやCVAの入門的内容
(別noteをリリース済みなのでそちらをご参照)
・計算式の導出など、理論的な内容
・DVA/FVAに関連する話題
(DVA/FVAについては別noteをリリース予定)
・CVA感応度、CVAヘッジ、CVAデスクなどに関連する話題
(需要がありそうなら別noteをリリース予定)
ディスクレーマー:
当noteに掲載されている記事の内容につきましては、正しい情報を提供することに努めてはおりますが、情報の完全性については保証せず、また責任を負いません。
当noteは初心者が理解しやすいことを優先した記述となっていますため、厳密には完全に正確とは言い切れない記述も含まれる可能性がある点につきましてはご理解・ご容赦のほどお願い致します。
当noteで提供している記事の内容及びリンク先から、読者様・購入者様へいかなる損失や損害などの被害が発生したとしても、当noteでは責任を負いかねますのでご了承下さい。
当noteは市販されている文献およびパブリックに公開されている文献を基に制作されたものであり特定の金融機関に固有の情報を含みません。
当noteに記載の内容や意見につきましては、当note運営者の個人的見解であり、当note運営者の雇用主の公式見解ではありません。
当noteの内容を著者の許可なく複製、転載、共有、配布、転用、譲渡、販売することを禁じます。上記の禁止事項が発覚した場合は、然るべき対応をとらせて頂きます。
1.1 当noteの構成
当noteの構成は以下の通り。
2章ではCVA計算の大まかな手順を確認し全体像を把握するほか、各手順と当noteの章立てとの対応関係を見る。
3章ではクレジットスプレッドの計算方法を確認する。CDSスプレッドを市場で観測できない場合に用いるプロキシースプレッドの求め方を見ていく。
4章ではクレジットの基本用語を確認した後、デフォルト確率の計算方法を説明する。
5章ではLGDの設定方法を簡潔にまとめる。
6章以降はエクスポージャーを求めるのに必要なシナリオ生成モデルについて説明する。
6章ではシナリオ生成モデルについて、アセットクラスによらず共通の論点についてまとめる。個別のアセットクラスのモデルは7章以降で説明する。
7章では金利モデルについて、マルチカーブ対応、モデル選択、キャリブレーション方法を説明する。
8章では為替モデルについて、モデルの選択肢、為替特有の注意点、キャリブレーション方法を説明する。
9章ではエクイティモデルについて、エクイティの特徴、一般的なモデルについて見ていく。
10章ではコモディティモデルについて、コモディティの種類と分類、一般的なモデルを確認する。
11章ではクレジットモデルについて、クレジット特有の論点、モデルの選択肢を説明する。
12章では相関係数について、計算する際の注意点を説明する。
13章で当noteをまとめる。
2.CVAの計算手順と全体像
各論に入る前にまず全体像を押さえておきたい。
CVAの計算手順を分解すると以下の通り。
(1)準備(キャリブレーション)
(1-1)イールドカーブを作成する
(1-2)プロキシースプレッドを求める
(1-3)デフォルト確率を求める
(1-4)モデルをキャリブレーションする
(2)計算(シミュレーション)
(2-1)モデルでシナリオを作成する
(2-2)取引ごとに将来時点における時価を求める
(3)集計(アグリゲーション)
(3-1)ネッティングする
(3-2)担保勘定残高の経路を求める
(3-3)エクスポージャーを求める
(3-4)CVAを求める
2.1 ステップ1:キャリブレーション
ステップ1は、計算基準日のマーケットにモデルをキャリブレーションする。これはCVAなどのXVAに固有の話ではなく、単一取引をプライシングする際と同じである。
(1-1)イールドカーブを求める
は、当noteでは省略する。
(1-2)プロキシースプレッドを求める
は、3章で説明する。
(1-3)デフォルト確率を求める
は、4章で説明する。
(1-4)モデルをキャリブレーションする
は、アセットクラスごとに7章~11章で説明する。
2.2 ステップ2:シミュレーション
ステップ2はモンテカルロシミュレーションである。
金利や為替を全て含んだハイブリッドモデルで、将来シナリオを作成し、各シナリオのもとで各取引の将来時価を求める。
ここまで終わると、将来時価が、
・取引
・シナリオ
・時点グリッド
の3次元で求まることになる。
(2-1)モデルでシナリオを作成する
で使うモデルの概要は、アセットクラスごとに7章~11章で説明する。
(2-2)取引ごとに将来時点における時価を求める
は、当noteに収まりきらなかったので、続編である「後編」で説明する。
2.3 ステップ3:将来時価の集計
ステップ3は、
・取引
・シナリオ
・時点グリッド
の3次元で求まった将来時価を集計するフェーズである。
(3-1)ネッティングする
(3-2)担保勘定残高の経路を求める
(3-3)エクスポージャーを求める
(3-4)CVAを求める
はいずれも、当noteに収まりきらなかったので、続編である「後編」で説明する。
ここでは簡単に概要だけ述べておく。
手順(3-1)では、取引間で時価をネッティングする。これでシナリオ、時点グリッド、ごとにネッティング後の時価が求まる。
手順(3-2)では、カウンターパーティが有担保先の場合は、ネッティング後の時価の経路をもとに、担保勘定残高の経路を求める。この際、担保契約(CSA契約)の条件を考慮する。
手順(3-3)では、エクスポージャーを求める。カウンターパーティが無担保先の場合は、ネッティング後の時価のプラスパートを取ればエクスポージャーとなる。
Exposure(t) = max{ NPV(t), 0.0 }
有担保先の場合は、ネッティング後の時価から担保勘定残高を引いた残りのプラスパートをとる。
Exposure(t) = max{ NPV(t) - Collateral(t - δt), 0.0 }
ここでδtはMPoRである。有担保先の場合は、MPoRだけさかのぼった時点で担保残高の更新がストップしていることに注意。
手順(3-4)では仕上げとして、CVAを求める。
・パスごとにExposureを割り引いて、PDをかけて、平均をとる
・各時点のExposure × PDを合計する
・最後にLGD(フラットな定数)をかける
クレジットをシミュレーションせず、確定的と仮定している場合は、PDはパスによらず同じ値なので、割引後Exposureの平均に外からPDをかければよい。
3.クレジットスプレッドの計算
3.1 クレジットスプレッドの求め方
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