品質管理の玉手箱(10)
システムとマネジメント
前回お話しした通り、ISO9001規格に基づくTQM(欧米型品質管理)とは、強力なマネジメント力(指導統制力)の存在を前提としたシステムであるにも拘らず、ISO 9001規格の2000年改定によって、ますます、欧米流マネジメントを色濃く反映したシステムを日本の産業界に浸透させていく一方で、日本企業の経営スタイルは日本流を残したままで、マネジメント力の画期的向上は遅々として進んできませんでした。
少し古いデータですが、2003年の調査によると、米国では管理職者の37%(産業構造や勤労観、価値観が比較的日本に似ているドイツでも11.3%)がMBA(経営管理学修士)を持っているのに対し、日本では僅か0.7%ですし、そもそも、MBAを取得できる教育機関(大学、ビジネススクール等)の国際ランキング(2023年)を見ると、日本の教育機関はトップ100にも入っておらず(アジア地域だけでみても40位が最高)、日本企業の「マネジメント力の国際化」が如何に立ち遅れているかがお解り頂けるでしょう。
2000年以降相次いでいるISO認証企業による品質不祥事の数々は、正に、この「システムとマネジメント力のアンマッチ(unmatch)」が引き起こしているのです。
つまり、システムはISO規格に合わせて国際化したものの、それを適切に運用(マネジメント)する力が不足しているために、システム自体が制御不能(機能不全)に陥っているのが、多くの日本企業の実情と言えるでしょう。
では、欧米流のマネジメントを徹底すれば日本の国際競争力が、再び、世界のトップに返り咲くのか?と言えば、決してそうではないでしょう。それは、これまでに欧米型経営管理(例えば、ジョブ型雇用や成果主義など)を積極的に導入してきた多くの企業が、必ずしも成功しているわけではないことからも想像はできます。
1980年代、敗戦国日本の奇跡的な産業復興と、それを支えたJAPAN QUALITYに危機感を覚えた欧米(特にアメリカ)の企業は、こぞって日本の品質管理(QCサークルや改善など)を学び、自社のシステムに取り込もうとしましたが、これら日本型品質管理に上手く順応できた欧米企業はごく一部に限られたのと同様、欧米流の管理(マネジメント)手法が日本企業のDNAに馴染まないのは当然のことなのです。
日本には日本流の管理手法がしっくりくるのであって、それこそが、かつて世界一を誇る品質で経済大国日本を支え続けた“日本型TQC(日本型品質管理)”にほかなりません。
ですから、これから私たちが真剣に取り組まなければならないのは、昨今の流れに迎合して「日本型TQCを切り捨てて欧米型TQMに乗り換える」のではなく、むしろ、この二つを「融合させる」ことなのです。
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