石とお話しするということ
ロックバランシングをしているとき、「今、石とお話ししているんですよ」と説明することがあります。会話と言いつつ音は無いので、冗談のように受け止められることは多いのですが、これってかなり本気で言っています。実際、石と会話しているつもりで石とふれあっています。
実は、世間には音が無い状態でも可能な会話は他にあります。例えば、手話は音が無い状態で会話していますよね。
手話のコミュニケーションをかみ砕いて表現すると、「身振り手振り」を「言語」として視覚を使って会話しているということになります。
同様の形式で石との会話をかみ砕いて表現すると、重力を「言語」として、手に伝わってくる感覚(触覚)で会話しているのです。
こっちが石に触れた状態で「こうするとどう?」みたいな質問を投げかけるつもりで石を少し動かして、石の返答を指先で感じ取るのです。石の返答は例えば「そう動かされると、こっち側に倒れちゃうかも」とか「うん、そこなら自分で立てそうになってきた」みたいなものになります。手に寄りかかってくる方向とその力の大きさでそういう石の声を聞き取ります。指先の感覚を研ぎ澄まして声を拾っていく感じです。
重力を言語にしているため、軽い小さな石の場合、手に伝わってくる石の声は、か細く聞き取りにくい小声のようです。その場合、小声の人の声を聞き取る時に耳をそばだてるように、指先の感度をかなり高めなければなりません。大きな重い石はしっかり声を伝えてくれるのでわかりやすいのですが、重さゆえに微妙な調整がしにくいことがあります。
様々な大きさの石を使っている場合、複数の石と大声・小声が入り混じった会話を同時にすることになり、こちらの指の触覚もいそがしく働かせることになります。写真の作品の場合は、一つの石と会話していると他の石もランダムに会話に加わってきて、すごく(静かだけど)にぎやかに作業しました。
石達がこちらの言うことを聞いてくれて、ピタッと止まった時、「石と意思疎通できた」という達成感が得られます。
石を相手にした音が無い会話、けっこう楽しいですよ。