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由香へ
おげんきですか。昔の友達に手紙を書くとなって、何人か思い浮かんだ顔の中にあなたがいました。
あの時あなたはああだったよね、こうだったよね、って言い合える友達はあなたしか居ないとも。
一度喧嘩をしましたね。あれがケンカだったのかどうか私には正直分からないのですが。
だって何が原因で何のための喧嘩だったかさっぱり覚えていません。覚えているのはあなたが先に謝ってくれたこと。
正面からごめん、と言ったあなたにあの時私はとても驚きました。こんな風にきっちり喧嘩をする人がいるんだと。
それまで私は勢いあまって感情をぶつけて、そのあと気まずくなりなんとなく元に戻る、というやり取りしかしたことがなかった。
ちゃんと思ったことを言って、その後に謝罪をして、という真っ当なケンカの仕方を知っているあなたが新鮮でした。
あなたは私が初めて家族以外で一緒に暮らした人でもあります。振り返ってみるとどうもあなたは本当に特別な存在みたいですね。今全く繋がりがないのが不思議なくらい。
私が男であなたが女なら上手くいったのかもと考えたことがあります。でもそんなことないのでしょうね。
性別なんて小さな要因でしかなくて結局は人と人ですから。
あなたとは一緒に遊園地にも行ったしホテルのバーにも行ったしショッピングにも行きました。でもそのどれも思えば2人ではなかったね。
2人で出かけたことってあったでしょうか?
2人で過ごした時間はたくさんあったのに。
あなたとわたし、先に変わったのはどちらでしょう。
少しずつ距離が空いていく原因となったのは。
あなたがどう思っていたか今は知る由もありませんが、私は徐々にあなたに会うのがしんどくなっていきました。告白すると、あなたに見下されているように感じていたのです。可哀想、と思われている気がしました。
あなたといると劣等感を刺激されました。
何年か前、突然あなたが連絡をくれた時、昨日美羽が夢に出てきた、と言ってくれたのは嬉しかったです。
夢に出るなんて、あなたの心の中に私がちゃんと存在しているようで。
最後に会った時のことを覚えていますか。思えばあれもやっぱり2人ではなかった。
私はあなたに会うことを思うと何週間も前から緊張して、美容院に行ったりお洒落をしたり、今思えばこの時点でおかしいですね。
当日はそれなりに楽しんでいたと思います。なんせ久しぶりでしたから。
けれど帰り道から予兆が始まり、家に着く頃には相当ひどい頭痛が起きていました。こんなにひどいのはここ数年なかったと思うぐらい。
痛む頭を抱えながら、自分が気が張っていたことを知り、その時気付いたのです。会うのにこんなに緊張する相手は友達ではないと。
いつからでしょうね、私にとってあなたが友達じゃなくなったのは。そもそも最初から友達なんかじゃなかったのでしょうか。
それは寂しすぎるような気もするけれど。
あなたがこれを読む可能性もゼロではないけれど、できれば読んでほしくありません。
ただあなたとなら、いつかここに書いたことも全部話せるような気もするのです。自分の感情を素直に表してくれるあなたになら。
きっとどこかでまた互いの人生が交差する時が来るでしょう。
その時にはお酒を飲んでもいいですか。
そうすれば私も少しは正直になれる気がするから。
お元気で。私はあなたのお葬式に出たいし、あなたも出てくれることを信じて。