移住するなら惑星人に住所を聞かなければと思った
私たちの太陽系には、地球に似た環境の惑星が60億あるそうです。
その一つに降り立って、惑星間の相互移住の交渉をするのが、私たちのミッション。
この惑星は、すべての街をとり囲むように田園地帯が広がっている。快適な生活圏を形成。家々にはパーティができる心地いい中庭がある。
惑星の住人の性格は、我々と変わらない。地球で言えば、厳しい環境の隣人をおもんばかる、北欧人のような人びとがいたり、陽気なラテン系の人びとがいたりした。
あるいは、惑星の人びとの生活シーンは、ヴィム・ヴェンダースの「perfect days」のような、読書好きで静かに充足する日々を過ごす人びとを公園で見かける感じ。
こんな絵に描いたような幸せは、どこから来るのか。
実は、120年前の原爆保有国の大国がお互いの誤射で壊滅。
この体験を教訓に、国家が手を取り合い、新たな惑星法で統治されるようになった。
米国、ロシア、中国が無くなった地球と思っていただければいい。
残った小国は、武器を撤廃。従来の軍備費をすべて教育費に充てた。
知育が繁栄をもたらすという、素晴らしい展望を惑星統治の基本にした。
文化的な知見を養うと、人を差別したりしない。ジェンダーでなく、人格で人を判断する知能を持つ。
利己的、排他的な低IQの闘争本能ではなく、お互いを高め合う寛容の心が養われる、正しい教育の効用が顕れていた。
惑星はバランスよく統括され、移民による人口増の必要性を感じていない。
地球人移住については、ネガティブな回答。
地球の病理を考えると、契約がむしろ成立しなくてよかったのかも知れない。
理想の国を目の前に、離れがたい。
ロケットの故障で帰れなくなったと言えば、永住は許されるだろう。
惑星人と別れを惜しんでいる使節メンバーも、地球に帰りたくなさそうだ。
しかし、妻と娘の顔を思い浮かべて、地獄行きの帰還ロケットに乗り込む。
ロケットのカプセルに横たわって、ふと思った、
我々メンバーは勇者であり、惑星人と同じように立派だ。
そんななぐさめにもならないことをつぶやいて、発進ボタンを押した。