「キスしたい?握手したい?」別れるとき女が聞いた
<バーアテンダント8>
「髪結いの亭主」の監督パトリス・ルコントの作品「橋の上の女(1999)」。
”せつなの人生”の濃密さと、はかなさを教えてくれる。
「どうして川に飛び込まないんだ。キミは、誰かが止めてくれるのを待っているんだろうけど、誰も現れない」橋の手すりを越えて川面を見つめている女に男が声をかけた。
「それとも津波でも待っているつもりか」絶望のふちにいる女に、男が追いうちをかけた。
その言葉が女の背中を押した。女が川に落下していった。
「なんてことを」と叫んで、男も川に飛び込んだ。
男は、ナイフ投げの芸人。女を救ったのは、すべてを捨てられる女が、ナイフ投げの標的に向いているので、探すともなく求めて橋に来た。
ナイフ投げの男にとって、標的になる女性とは、プラトニック・ラブをつらぬく。
邪念が手元を狂わせる。
そして、ナイフの標的には、自分は、ツイテいると思わせる。
イヤリングを両手に握り、どちらの手にあるかを当てさせる。「ほら、キミはツイテいる」と言って、片方をポケットにしまって、ナイフの恐怖を取りのぞく。
二人は、結婚しない。
男はストイックに、女は自由に振る舞う。
女は、ウーバーイーツを待っているように、近づいてくる男をこばまなかった。
二人が、しばらく別れるときは、
女が聞く「キスしたい?握手したい?」。
「忘れたい」とナイフ投げの男が答える。
「忘れられないわよ」と女は言い残して去っていく。
二人は、モナコ、イタリアから、クルーズ船でナイフ芸の旅を続ける。
”キミは、ベッドは、どっちサイドに寝る?”と聞いてくれたのは、
彼が初めてだったからという理由で、結婚寸前のイタリア男を、
新婦から奪って、クルーズ船の救命ボートで逃げる。
ナイフ投げの男のクルーズ船はギリシャに着くが、男は、女を見失い、失業し、
トルコへたどり着いた。
男は、イスタンブールの橋の手すりから川面を眺めていると
「なかなか飛び降りないのね。津波でも待ってるの」と、女の声がした。
はかないから濃密になるのか(3m17s)