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建国記念日に街宣右翼に話しかけてみた

2月11日の空は美しく澄み渡っていた。ずっと前から建国記念日に橿原神宮へ行ってみたいと思っていた私は、胸をときめかせながら息子と共に神社好きの友人の車に乗り込んだ。かすかな梅の花の香りが東風にまじる。

橿原神宮は奈良盆地の南側、畝傍山の麓に鎮座する。初代天皇である神武天皇を祀るため、明治23年(1890)に官幣(国から現金と布を奉献される)大社として創建された。昭和15年(1940、紀元2600年奉祝式典の年)には昭和天皇が行幸があり、現在もときどき皇族が参拝に来る。

早春のまほろばを駆けて、車がお宮の近くにさしかかったときのことだ。紺色の制服を身につけた男性達が路肩でなにやら集まっているのが見えた。銀色に光る大きな盾。機動隊だ。

どこからか勇ましい音楽が流れだし、だんだん大きくなる。前方から近づく黒塗りのバンが車上につけたスピーカーから大音響で軍歌を流しているのだった。側面には金色の菊紋と白抜きの憂国の文字。

友「機動隊と右翼の街宣車…?えっ、何ちょっと物々しいんだけど !?」

私「よかった!今日は思う存分街宣車が見られるぞぉ!」

友「アゲちゃん、もしかして参拝じゃなく、街宣車が目的だったの!?」

私「エッ! イヤ モチロン オマイリモ シマスヨ?」

右翼、左翼という言葉の語源はフランス革命時代、議会に右側に保守勢力が、左側に革新勢力が座ったからだと言われている。だから「体制寄り=右翼=保守、反体制=左翼=革新」のはずなんだけど、体制よりの主張をする人に「右翼ですか?」って聞くと憮然として「違う!保守だ」という。これが長年の謎だった。

自称保守の人が右翼と呼ばれるのを嫌うのは、どうやら彼らにとって右翼とは街宣車に乗ってる人のことを指すからのようだ。つまり、今日のよき日にこの地につどいし憂国の士たちは保守主義者達にも一目置かれる猛者揃いということである。オラ、ワクワクしてきたぞ!

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橿原神宮の参道はあまり長くないが幅は広くて鳥居も大きく立派である。改憲を求める署名活動をする団体の姿がある。

それとは別に道ゆく人に日の丸の手旗を配っている人がいたので友人や子供たちと一つずつもらった。その人はボランティアで休日に仲間達と日の丸を持って唱歌を歌いながら道頓堀を歩く活動をしているらしい。色んな団体があるのだなぁ。

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生まれて初めて手にした祖国の旗はとてもチープだった。それは持ち手がボール紙で、旗部分が薄い紙でできている。「日本国の象徴」と口に出して言ってみる。これさえ持っていれば街宣右翼たちも仲間と思ってくれるに違いない。

目指すものは参道の脇の木々の向こうにあった。あっちにも街宣車、こっちにも街宣車、「街宣車のモーターショーや〜!!」と駆け出す私に、

「アゲちゃん、目が♡になってる‥。好きなだけ写真撮影しておいで。私子供たちと参りしてあっちのお池で鯉とかに餌やってくるね。あとで写真送って」

といって友は去っていった。なんて理解があるいいやつだろう!

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バスもあれば、軽もあり、クラシックカーっぽいのもある。いやー、目移りしちゃうね!あんまり車に興味ないけど、デコトラ、痛車、街宣車は見かけるとテンションあがる。しかし、車の写真を撮っただけで満足する私ではないのだ!対話しなければ来た意味がない!

昔勤めていた障害者作業所の元ヤクザで精神障害のある利用者さんから「右翼は天皇陛下をお守りする団体でヤクザとは別や。ヤクザが右翼やってることも多いけどな」という事前情報を得ていたので、慎重にターゲットを選ぶ。

だけど、機動隊員が待機していて、たぶん県警と公安の私服警官も張ってるであろうこの場所で、しかもここは彼らにとっての聖域となれば、日の丸を持って低姿勢に話しかけてくる一般人相手にトラブルを起こす可能性は限りなく低いだろう。

駐車場を見渡せる位置にトイレを兼ねた東家があり、その周りに揃いの紺色の制服を着た一団がいた。ベンチには彼らの恋人かな?派手めな女性が7人ほど座っている。

その中心にいる人物に狙いを定めた。60代ぐらいだろうか、禿頭に恰幅の良い体、黒いソフト帽に黒いロングコート、謎の貫禄。めっちゃボスっぽい!君に決めた♫

ターゲット(以下T)が群れの輪から離れた瞬間を狙い、群れとは逆側から近づいて話しかける。

私「すみません、あの車のオーナーの方ですか?」

T「いや違うけど」

私「そうですかぁ。あの令和維新ってどういう意味かな〜って思って。昭和維新みたいなことするゾ!っていう意気込みで書いてらっしゃるのか、それともなんかカッコいいから書いてらっしゃるのかどっちかな〜って」

T「さぁ、維新ってつけてるとこ多いけどね。待ってたらあの車のオーナーもすぐ帰って来ると思うよ」

私「じゃあ待ってみます。オトウサンの車はどれですか?」

T「あそこの、あれ」

私「カッコいい〜♡ あとで写真とっていいですか?」

T「ええで」

私「ありがとうございます。お仕事は普段なにしてらっしゃるんですか?」

ベンチに座ってる女性の1人が「ヤクザや!」と叫ぶ。他の女性たちがキャハハと笑って「よう声かけるな」「怖いよな」と囁き合っている。私は彼女たちに微笑みかける。

私「えっヤクザなんですか?」

T「いや、普通の仕事やで」

女性「悪ぅ見られるけど、ウチらは天皇さん万歳やからな。そうじゃなかったら日本から出て行ったらええねん」

「私も天皇さんバンザイですよ。日本人ですから」と言って日の丸を振って見せる。これは私の思想信条の自由が国粋主義と排外主義に敗北して白旗を振った瞬間だ。

制服を着た男性が「コレさっき貰ったけど良かったら」と教育勅語の解説書をくれた。どうやら朝方にガチ思想家が参道で配ってたらしい。来年はもっと早く来よう。

丁寧にお礼を言ってその集団から離れたあと、もう1人ぐらい喋りたいなと思っているとこういうのを見つけた。

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そばにいた男性(以下U)「この車なんですけど、北方領土と竹島と尖閣のことを問題視しているようですが、沖縄の米軍基地についてはどう考えておられるんですか?」と聞いてみる。

「俺らは別に反米じゃないから」という答えが返ってくる。国土と国民の生命財産を守るなら米軍基地にも反対しなきゃだし、親米で反共なら親韓じゃないと整合性がとれない、と、思うんだけどな‥。

私「普段は何の仕事してらっしゃるの?」

U「普通にトラック運転してる。俺らのとこはヤクザおらへん。みんな普通の仕事して、たまにこうしてイベントのときとかに集まるんや」

私「そうなんですね。お参りは済まされたんですか」

U「朝のうちに。それで今はこうして、たまにしか会えへん遠くの仲間と会ったりお互いの車見たり‥」

薄々気づいてはいたが、ようするに、これは車好きのイベントである。街宣車とは、天皇オタクの痛車であり、おそらくデコトラの廉価版でもあるのだろう。

普段どのような活動をしているのかはよくわからなかったが、少なくとも建国記念日に彼らが橿原神宮に集まる目的は、一般市民を威嚇するためでも、なんらかの政治思想を広めるためでもない。

団体参拝で仲間の結束を深めたり、愛国心を炸裂させた痛車を見せ合って写真をとったりキャッキャするためなのだ。なんとも平和でとってもカワイイではないか。

万歳!カワイイ右翼たち!

弥栄!カワイイ国ニッポン!

千代に八千代に苔のむすまで、どうか平和でありますように。素晴らしい紀元節に感謝して、私は柏手を打つのだった。



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QOLアゲアゲ星人🛸
えっいいんですか!?お菓子とか買います!!

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