Movie:『ナチスの愛したフェルメール』(2016年, 🇳🇱)(#35)
「よくみろ、あの目は君のものだ」
後に彼の妻となるヨ―ランカと彼女に向ってそういう彼の視線の先にいたのはキリストだった。
『エマオの食事』
フェルメールがこれまで描いていないとされた宗教画である。
しかしそれは贋作である。
彼とはメーヘレンである。
彼の描いたオリジナルの贋作『エマオの食事』、それを自ら割き、復讐は終わるはずだった――。
すべては"復讐"のため、彼を認めなかった美術業界の、特にヨーランカの元夫で美術評論家のブレイディウスへの――。
皮肉にも彼の作った"フェルメール"がナチス元帥ゲーリングの手に渡る。
ゲーリングはナチス随一の美術品収集家だった。
国の至宝フェルメールをナチスに渡したのは誰か?
戦後、その被疑を問われたのはメーヘレンだった。
その罪状は、国家反逆罪。
そしていう、「あれは私が描いた贋作だ」
誰も信じない。
信じるわけがない、だってあれは"フェルメール"なのだから。
では描いて証明しよう。
国家反逆罪の求刑は死刑だった。
死刑が怖いというより国賊扱いされるのは我慢ならない。
それは逃れられた。
代わりに下されたのは詐欺罪。
一年の禁固刑とそして罰金。
メーヘレンはいう。
「あれは俺が描いた作品だ、どうして返金しないといけない?」
「その金額がフェルメールとあなたの差です」
淡々と応じる裁判官の言葉を受け入れ、彼は本物とならないまま、その後、収監される前に病で倒れるのだった。
『エマオの食事』(1937)
≪総括≫
この映画の原題はオランダ語で『Een echte Vermeer』です。
英語版だと『A Real Vermeer』になります。
しかし邦題にはなぜか「ナチス」が加わり、そこが強調されています。
原題の日本語訳だとインパクトが弱いと考えたのでしょうか。
実際は原題の通り、メーヘレンと作品、特にフェルメールを巡る話といった印象で、ナチスは主題ではありません。
メーヘレンの死後、彼の作った贋作は贋作として評価され今なお現存し、保管されています。
この掟破りの行為を"芸術的"と評価したのはポストモダニズムです。
フェルメールの名前を借り、300年前のオリジナルとして再現し、世に出回すのですから。
その復讐の根源は怒りです。
この感情、執念が彼の贋作に命を注ぎ込んだとも言えるのかもしれません。
それはフェルメールのものではなくとも、彼の作った本物であったのでしょう。
しかし、彼はフェルメールではありません。
メーヘレンが描いたものはフェルメールの名前と功績によって光り輝きました。
ただ、メーヘレンが描かなければここまで光り輝くこともなかったでしょう。
でも、復讐は本当に遂げられたのでしょうか?
贋作にはその答えがないのかもしれません。