髄の年輪のモノローグ 第13回 Small Circle of Friends『CIRCLE』
東京の西の端、西多摩の山沿いでもテレビ神奈川が受信できる。そのことを知ったのは、小学生の頃だった。その頃の私はまだテレビっ子で、自分専用のテレビデオを与えられていた。それを部屋でずっとつけていたので、東京都民の思う「普通のチャンネル」(当時は1・3・4・6・8・10・12)以外のものが見られることに気付くまでには、そう時間はかからなかった。そして、「普通のチャンネル」とは少し違う独特な雰囲気に惹かれ、中学生になる頃には(他局のアニメや音楽番組を見る時以外は)ずっとテレビ神奈川をつけていた。
当時のテレビ神奈川、通称・TVK(現在は「tvk」)には『Mutoma JAPAN』という番組があった。月曜日から木曜日までの週4日、たしか23時から30分間、国内のミュージックビデオを流したり、週替わりの特集インタビューコーナーがあったり、視聴者投票で月間1位になったMVを翌月パワープッシュしたり。まだ「どこにでもインターネットがあるのが普通」ではなかった時代の、ライブハウスやCDショップから物理的に離れた西多摩に住む中学生にとっては、本当に貴重な情報源だった。その『Mutoma JAPAN』と、テレビ東京の『TOWER COUNTDOWN』と、複数の音楽雑誌。それが、当時の私が音楽情報を得るためのソースの全てだった。
中学生になり、本格的に音楽に溺れた私は、Mutoma JAPANを欠かさず見るようになった。放送時間までに眠くなってしまったり、実際に寝てしまったりすることもあったので、毎日きっちり録画していた。Mutoma JAPANでは基本的にMVをフルで流していたので、新しい音楽に出会えるのはもちろん、全部は聴いたことのなかった曲も「2番はこうなっていたのか!」と知ることができたり、ストーリー性のあるMVを最後まで見届けることができたりと、良いこと尽くめだった。
ある日、Small Circle of Friendsというグループの『Boy’s Wonder』という曲のMVが流れた。その曲も、彼らのことも、その時はじめて知った。
「この歌唱法はラップである。つまりこれはおそらくヒップホップである」という思考にはすぐに至った。しかし、当時の私の知る「ラップ」や「ヒップホップ」とは雰囲気がだいぶ異なっていた。私がはじめて触れたヒップホップは小学生の頃のEAST END×YURIの一連の楽曲で、その後にハードコアなシーンのことも垣間見てはいた。しかし、この曲は、このグループはどちらとも違う。ナチュラルなのだ。鎧のように誇示するわけでもなく、今で言う“パリピ”のような盛り上げをするわけでもなく、穏やかで何気ない日常生活の延長に在る、そんなヒップホップ。彼らがヒップホップとラップというフォームを取ったのはあくまでも結果であり手段なのかもしれない。表現の芯は別のところにあるのかもしれない。そこが他のヒップホップやラップミュージックとの違いなのかもしれない。そう思うまでに、あまり時間はかからなかった。
すっかり彼らと『Boy’s Wonder』を好きになった私は、録画していたビデオを何度も巻き戻して何度も観た(後にアルバムも購入した)。そこでもうひとつ気付いたことがあった。この曲、リリックが……いや、歌詞が、悲しいのだ。彼らの自然体な佇まいと、サビと間奏部分の開けた感じと、MVの雰囲気から、勝手に明るいイメージを抱いていたけれど、よく聴いてみると不穏な言葉が並んでいる。解釈は聴いた人次第だとは思うが、私は悲しい曲だと思った。後に知ることとなる(実際には『Boy’s Wonder』よりも先に出ていたけれど)彼らの曲『波よせて』もなかなかに辛い歌詞だと思っている。
押しが強いイメージのあるラップという方法で、こんなにも叙情的な表現ができるのか。気付いた時の衝撃は凄まじかった。
(※もちろん、明るい歌詞の曲もたくさんあるので、その点は誤解なきよう……)
あれから(いや、それ以前から)私もマイペースに生きてきたけれど、Small Circle of Friendsもマイペースに活動を続けていて、あれから何枚もアルバムを出し、名曲をいくつも生み出している。ラップやヒップホップにも色々あるし、現に色々聴くようになったけれど、もし「いちばん好きなヒップホップのミュージシャンは誰か」と尋ねられる機会があるならば、私は迷わずSmall Circle of Friendsを挙げる。それほどに、カルチャーショックだったのだ。彼らとの、『Boy’s Wonder』との出会いは、私の今までの人生に散在する重要ポイントのうちのひとつだと思っている。
陰ながらひっそり追い続けて20年以上。そしてライブを観るタイミングを逃し続けて20年以上。いい加減そろそろ観たいと思っていたら、この3月に都内のカフェ的なスペースでライブがあると知り、観に行くことにした。やっと生で体験できる。クラブでやるのとは雰囲気が違うだろうけど、楽しみだなあ!
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掲載日:2020年2月16日
発売日:1998年12月16日
(21年2ヶ月0日前)
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髄の年輪のモノローグ 目次:
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