【読書録】吉村萬壱『哲学の蝿』

 何か彼の哲学にまつわる話が読めるのかと思ったら、少なくとも、前半の三分の一までは、彼の半生記のようなものだった。全くそうなので、今の所は拍子抜けしている。
 しかし、あいまいにしか吉村萬壱のことを知らない人が、これを読んだ時には、少なくないショックと興味深さを覚えるかもしれない。
 幼少期は母からの虐待の経験。
 それから、空想がちになる少年期。
 こうまとめると普通の、というと失礼だけど親の虐待を受けている人の典型的な成り行きに、見えなくもない。
 ただ、その母親が、息子の顔に股を近づけてくる性癖を持っているとか、父親は、息子の足を執拗に足で撫でまわしてくるとか、その両親が赤ちゃん言葉で普段会話をしているとか、尋常ではない家庭の空気が、そこからにじみ出ている。
 こんなこと、よく書けるな、とは思う。それから少年期には、自分は女であると妄想しながら、全裸で人に見られそうで見られない所まで移動し、オナニーを繰り返す。それから、オカルト思想的なものにどっぷりとつかって、先ほどのと混ざって自分は魔女であるとか、架空の「天才学園」という天才ばかりいる学園に自分がいて、いろんな女性に言い寄られるなどという空想をしている、とか。
 自分にもここまでではないが、似たような経験があった気がしてくるんだけれども、それを人に見えるような所に陳列するなど、恥ずかしくてできない。

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