【読書録】ディドロ他『百科全書』5 中世のプロジェクトX

 もう図書館に返してしまったので、直接読み返したり引用することはできないが、せっかく読み終えたので雑多に浮かぶことをまとめようと思った。
 まず一つ、思ったより現在ある百科全書との差異はない。内容が薄いということもないし、当時必要とされていた知識、網羅的にアーカイブするという意識も、現代のものとそう変わらないのだろう。
 前回触れた「神と王の気配を強く感じる」という点も、当時の法全般がそこを根拠にしているのだから、当然だし、時代ごとに違うニーズがあるのは当然で、同じ目を現代に向けてもよいはずである。
 最後のところに訳者解説があり、舞台裏を知るとまた別の楽しみがあるが、そこを楽しみたいのであれば、この百科全書というものの成立史自体だけ読めばよいと感じた。ディドロがこの企画者、ル・ブルトンから依頼を受け、当時一人の書き手にイギリスの百科全書の翻訳で済まそうと思ったところが、「これは一人でやる仕事ではないぞ」と判断し、知識人総出で書き手を集める。ダランベールは共同編集長として名を置き、ルソーにも依頼をするが、誰それが書いた記事が気に入らないといって脱退、しかし書き手は他にどんどん集まり百余名を超えた、いったん無神論の廉で投獄されて百科全書も発禁になるが檻から出られた頃に一転して国から「ぜひ作ってください」と言われる、
 ディドロはとにかく人を巻き込む才があり、肝心な時の駆け引きが上手かった、金銭管理も得意だった、あと一歩で廃刊になるところを稿料のやりとりをうまく切り抜けた、笑顔が多くアクティブな人間だった。
 これが流通することは革命を可能にする空気を生んだ、当時の知識人全員に横のつながりが生まれたことは途方もない価値があった、などなど……
 まるでプロジェクトXである。しかし距離をもって見られるからこそ、エンタメのように眺められるので、ここで改めて個々の記事を読むことの価値を再認したいとも思う。

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