【日記】新しいこと

 ささやかな旅行に出掛けた。移動して、風呂に入って、寝て食べるというほどのもので、こうして抽象化してしまえば日常とどう違うのかわからなくなるほどのものだが、疲れた。遊びに行くには、遊ぶだけの体力がないといけない。もうすぐ三十六になる。遊ぶという年ですらなくなっていく。何かを楽しむ余裕を持つことにもつながるのではないか。日常から外れた何かを知る、ということにも。
 今回ではないが、何年か前に、日本で二番目に広い湖であるという理由だけで、霞ヶ浦を見に行ったことがある。よく調べると人工湖であり、自然を観察するという意味で言えばもっといい場所もあったのかもしれないが、自分から積極的に何かをキャッチしに行ったそれは旅行であって距離や歴史などには還元しきれない価値を、その経験は持った。
 大江健三郎の、最も脂の乗っていた時期に書かれたといわれる、「万延元年のフットボール」に、再挑戦している。前に挑戦したのは五年以上前で、圧倒的印象を残したにもかかわらず、いやそのゆえなのだが、五十ページ進んだか進まないかのところで読めなくなった。講談社文芸文庫で、古本で買ったもので鉛筆の値書きが奥付のページに書き付けてあった。そのときよりおそらくさらに日焼けが進んでおり、普通小口と天地を中心とするところが謎のページごとに縦に三、四本線が入った形で茶色く焼けている、むろんそんな晒し方は出来ない、素材の関係でそうなっているんだろう。
 ともかく、五年前の読みかけの本なんてほとんど初読みたいなものだ。あの時読んだ時とはまた別のものが流れ込んでくるのを感じる。新しい景色を求める体力が必要だ。感性の話でもあるしほんとうに物理的な体力の話でもある。

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