読書感想文|アオイガーデン|箱森裕美
有機物無機物共に捨て梅雨入
梅雨寒のシーツに小さく赤く染み
大廈高楼幾千の雨蛙
エレベーター停まる階から黴になる
ががんぼやどこかの海の濃いみどり
水貝を噛みまた着けるマスクかな
百日紅棄てるものなくなり拝む
口付けや藻の花の咲き溢れたる
エタノール噴き掛けられて乗られ夏
咳込めば猫の毛の散る夏蒲団
昼寝から覚めても花園にゐたり
新しい韓国の文学シリーズ ピョン・ヘヨン『アオイガーデン』。
2003年に香港で猛威を振るったSARS、その最大の集団感染事例となった淘大花園(アモイガーデン)をモチーフとした小説だ。
わたしが初めてこの本を読んだのは2019年の12月だった。
このころはまだ世界的に新型コロナウイルスも報じられていなくて、「コロナウイルス」ということばもまったくなじみがなく、自分でもなにか遠くの出来事、自分とはかかわりのない、無関係なもののような言い方をしている。のんきだな、と思う。まさかそのすぐあとに、たった数カ月で、世界がこのような状況になるなんて思わなかった。
今あらためてこの本を読むと、最初に読んだときには感じられなかった閉塞感のようなもの、自分ではどうすることもできない恐怖感のようなものが、自分の実感としてわかる。
アオイガーデンはもう遠くの出来事ではない。わたしたちはアオイガーデンの中にいる。
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