学び編 7 伝え 支え 展げる
立秋の頃 病の床を見舞うと 師匠が 笑顔で語りました
師匠の道は 楽しい旅なんだよ
技を極めようとする者に 伝え
芸を生み出そうとする者を 支え
師匠と弟子が共に 道の可能性を 展げる
道場では 弟子の学び と 師匠の学びが
一体となるのさ
友よ だから
あなたが ここで学んでくれたことに
感謝しているんだ
言っただろう
万物は 流転する 停滞すれば 道は廃れる
識る ー 試す ー 体得する ー 捨てる
そして捨てた分だけ
また新たに 識る ー 試す ー 体得する ー 捨てる
この無限の更新こそが 学びの 本質なのさ
学ぶ者は この無限の更新から
自分の独自を削り出す
私たちは 無限に 変わるために 学び続ける
この無限に 独自を生み出す
その仕組みこそが 道場なのさ
言っただろう
個は 技を追求し 全は 芸を伝承する
道場では 至芸の追求 と 技芸の伝承が 一体となる
至芸の追求を行えば
自然に 悠然と 無駄なく 身体が動く
瞬時に きつ然と 迷いなく 行動できる
技芸の伝承を行えば
新奇の誕生 異なる分離
多様な進化が 始まる
この個の学び と 全の学びを 両立させる
その仕組みこそが 道場なのさ
言っただろう
道場は 独自を磨く者同士が
互いに 切磋琢磨する場
師匠は 弟子たち それぞれの独自をみつけ
それぞれ違う 独自と独自を 対峙させ
その衝突で 互いの独自を磨く
道場は 多様な実験 多様な混合を 促す場
この多様な創発を促すための
その仕組みこそが 道場なのさ
だけどね 創発で 誕生するものには
口で 説明できることもあれば
心と 身体で 感じるしかないものがある
論理的な納得と 直観的な体得は 別のものではない
至高の創発は 科学 と 芸術の 組み合わせ なのさ
創発に 何を観て 何を識るかは
学びの本人次第だよ
だから 道場に通う者は
同じ創発から 別々の学びを得る
それが 道の革新を 引き起こす 場の工夫だよ
至芸を追求する者と 至芸を追求する者が
互いの科学的方法と 互いの芸術的手法を
多様に 組み合わせて 新たな領域を切り拓く
この道の革新を 引き起こす
その仕組みこそが 道場なのさ
科学的な理解と 芸術的な誘発を
同時に 与える場を創るのには 工夫がいる
だから師匠は 多様な置き石で 創発を 促す
そこには 道の革新を 引き起こす
置き石の美学が必要なのさ
道場に置かれた 創発の置き石に触発され
多様な 切磋琢磨が起こり
多様な 創発の火花が発し
多様な 独自が育つのさ
この科学的な理解と 芸術的な誘発を
同時に引き起こす
その仕組みこそが 道場なのさ
弟子の道が 守破離というなら
師匠の道は 伝支展だよ
技を極めようとする者に 伝え
芸を生み出そうとする者を 支え
師匠と弟子が共に 道の可能性を 展げる
あなたが 学んでいるのと 同時に わたしも 学んだ
師匠と 弟子は 相互に衝撃を 与えるものなんだよ
学びは 互いの変容 として 存在する
それが 全の学び だよ
この全の学びを 引き起こす
仕組みこそが 道場なのさ
志は ひとりでは 達成できない
型は ひとりでは 洗練できない
道は ひとりでは 拡がらない
技を極めようとする者に 伝え
芸を生み出そうとする者を 支え
師匠と弟子が共に 道の可能性を 展げる
道場では ひと と 場 が 一体となる
言っただろう
独自の洗練をもって 至芸を追求する
独自を 洗練した先に 共感が広がる
そのとき あなたの至芸が 道になる
そのとき あなたは 孤独から 解放される
道場において 至芸の追求 と 技芸の伝承が
一体となって
志をつなげ 道具の改良をつなげ
人の革新をつなげると
芸道が 時を越える
友よ
あなたが ここで学んでくれることに 感謝する
あなたは ここに来てくれた
学校という 誰かに与えられた場ではなく
自分の意志でここに来てくれた
自分のデスマーチに 悩み 怒り あきらめ
そして そのことに気づき
あなたは ここに来てくれた
ここで 知らないことを識り
ここで 新しい衝突を試し
ここで 多くの技を体得し
そして その身に着けた自分の型を潔く捨て
さらに 学びを続けてくれている
あなたが ここで 学び続けてくれたことに 感謝する
いま あなたは 「正しい問い」 を得たのだ
だからこそ あなたは ここで
本当のあなたに なっていった
次第に 自分にしかない
独自なあなたになり
そしてこれからも あなたは
あなたらしい あなたに なっていく
それが この道場に 来た意味なんだよ
友よ
大事なものは ひとの目では見えない
あなたは もう大丈夫だ
あなたは 自分に 自信を持っていい
いまや あなたが 正しく問えば
あなたの頭の中よりも
あなたの周りが 答えを差し出す
すべきことは そこにある
さぁ 種を 大地に 植えるように
真摯に 自分を 世の中に 植える 時だ
学びは 道場で終わらない
学びは 生業のなかにある
しなやかに 道の教えを 実践するときだ
笑顔の先の 夜空では 天の川が 白く連なって 輝いていました