【実話】学生時代にした先生との大恋愛をありったけエモく書かせてくれ【15分】
とんでもないタイトルにしてしまったが、初めに断っておきたい。
この話は長いが、劇的な結末やその後が気になるような展開はない。
なので、この話の最後の"オチ"の一文を、先に書いてしまう。
「その気持ちを、さっきまで握られていた左手に乗せ、私は力強くタバコの空き箱を潰した。」
個人的な過去の恋愛談を、それとなく「読み物」にしてここに綴る。
大学生の頃、仲の良かった友人と「空きコマ」が被ったので談話室でいつものようにダラダラと他愛もない話をしていた。
その時の彼の一言、「それ、Facebookで探してみたら?」により、私の中で止まっていた過去が動き出すこととなる。
「…まだまだ時間あるな、ほんまに」
「そうやなぁ、ドラえもんが普及し始めた時の、経済的なダメージでも試算してみる?」
「暇やなぁ、我々。…あ、ちょっと長くなるんやけど、このくらいの時間がないと話されへん話していい?」
「暇やし特別にええで」
「ありがとう。断られてても話してたけどさ。中学生の頃の話やねんけど………」
私が中学3年生に進級した頃、新しくこの中学校で勤務することになった先生たちの紹介があった。
全校生徒が200人に満たない程度の、絶妙に田舎の中学だったので、先生はおじいちゃんかおばあちゃんというのが相場だ。
しかしその年は、なぜか20代半ばの若い先生が3人も入ってきた。
男、男、女。(ここではそれぞれ、加藤、鈴木、高橋とする。)
加藤先生は社会の担当で、ホリが深く鼻も高い、いわゆるイケメンで、藤木直人に少し似ている。
鈴木先生は生活指導的なポジションで、顔はそれほどパッとしないタイプだ。
そして高橋先生は英語の担当かつ私のクラスの副担任という形で配属された、身長は低く目は大きく丸く、小動物系の可愛らしい先生だ。
どの先生も我々生徒からのイジりを受けながら、すぐに学校に馴染んでいった。
一時期、加藤先生と高橋先生が付き合っているという噂が流れたこともある。
誰が見てもお似合いで、お互い強く否定もしないため、その噂は学生たちの間で真実のように扱われていた。
私は高橋先生が好きだった。
残念ながら恋愛感情という訳ではなく、単に英語の教え方が上手く、面白かったからだ。
当然私も、周りと一緒になって加藤・高橋をイジっていたし、本当に付き合ってるのだろうと思っていた。
しかし、当時私はまだ15歳である。恋愛経験の少ない中学生男子を勘違いさせるには十分すぎるほど、私も高橋先生から好かれていた。
しかしこれもまた当然に、恋愛的な話ではなく、なかなか先生の話を聞かない生徒が多い中で、私は熱心に授業を聞いていたからだと思う。
授業の後で質問に行ったり、放課後に英検の面接の練習に付き合ってもらったりもした。
そういった些細なことが積み重なり、私と高橋先生は、「他の生徒と比べて」という範囲内ではあるが、仲が良かった。
先生に好かれると内申点も上がるし質問もしやすいしいいなぁ、程度にしか思ってなかったが、流れが変わったのは中3の冬ごろ。
卒業が近づくにつれて、「ゆうやが卒業しちゃうの寂しいな〜笑」という発言が少しずつ増えていった。中学生の私にそれが本気か冗談かを見極める能力が備わっているはずもなく、ただヘラヘラ笑って誤魔化していた。
高橋先生の最後の英語の授業はいつもと少し違っていた。
「今日は最後の授業なので、私も先生らしく、みんなに送る言葉を選んできました〜(笑)」
高橋先生は、クラス20人弱の一人一人に、「その人を表す英単語」を考えてきたらしい。
なかなかに寒い演出ではあるが、中学英語の教師っぽいことには間違いない。
「では発表します!笑」
「〇〇ちゃんは、cuteかなぁ。いつも可愛いし〜」
「〇〇くんは〜、strong!強そう!笑」
ゆるーい時間が進む。
そしていよいよ私の番だ。
他の生徒と比べれば、先生とは濃い一年を過ごしてきたはずなので、ほんの少しだけ緊張する。
「ゆうやはぁ〜……attractiveかなぁ。」
ここまでずっと、馴染みのある、ごく簡単な英単語だったが、突然のアトラクティブ。突然の高校英語。
「…意味は?笑」
私は思わず聞き返した。
「んー、『魅力的な』って意味」
このやろう。真っ直ぐな目で言ってくるんじゃねぇ。
先生がその単語を選んだ真意は分からないが、他の生徒より意味が込められていることは、勘違いかもしれないが感じた。
最後の授業から数週間、卒業式の日がやってきた。
私の行っていた中学では、式が終わると卒業生のみ体育館から教室へ戻り、最後のホームルームを行う。
その間に在校生や親そして先生は、学校の玄関から運動場へ続く花道を作って待っている、という一連の流れがある。
最後のホームルームでは、教団に担任の先生と、教室の後ろに副担任である高橋先生がいた。
2人からのメッセージを受け取り、ホームルームは終了した。
「じゃあそろそろ、花道の方へ向かおか」
担任のその言葉をきっかけに、ワラワラとみんなが教室を出て行く。
私は当時、学級委員長だったので教室に忘れ物が無いかを確認するため、最後まで教室に残っていた。
いや、厳密に言えばもう一人残っていた。
高橋先生だ。
今でこそこのように、あたかも展開がありそうな書き方ができるが、当時は「副担任だから最後に教室の施錠とか任されてるんだろうな」としか考えていなかった。
早く教室を出てあげないと、高橋先生も遅れてしまう。
足早に出口へ向かった。
その時、後ろから先生の声がした。
「ねぇ。」
止まる足、そしてゆっくり振り返る。
先生が、目に涙を溜めている。
教室の窓から差し込む陽の光によって、表情こそ逆光でよく見えなかったが、泣きそうになっていることは、その立ち姿や声の震えから察した。
「え、泣いてるやん先生、やめてよ笑」
なんとか笑って誤魔化したい。
何も言わずに歩み寄ってくる先生。
そしてそのまま
私は抱きしめられた。
どうして良いか分からず、ただ戸惑いながら立ち尽くすだけとなった。
少しの沈黙の後、震える声で「またね」と一言。
私は何も言えなかった。
そんな出来事から月日は流れ、高校3年生になった頃、中学時代の同級生から一枚の写真を見せられた。
驚いたことに、高橋先生は生活指導の鈴木先生と結婚し、二人の間には子どもがいることを知った。
卒業式の日の出来事は、もう忘れてしまっていたのだが、その写真がきっかけで鮮明に蘇ってきた。
「…って話があってさ。」
ようやく話し終えた頃には、談話室に多くいた人もまばらになっていた。
「ええ、まさか鈴木先生と結婚するとはなぁ〜」
「話の本筋そこじゃないねん。いやびっくりはしたけどさ。…でな、その話思い出してから、もう一回高橋先生に会いたくてさ」
「なるほどね、最後会ったのはいつなん?」
「いや、卒業式以来会ってないから、5,6年くらいは会ってないなぁ。でも連絡先も知らんしさ。」
「…それ、Facebookで探してみたら?」
青天の霹靂である。
Facebookを利用する習慣がなく、そんな発想は毛頭なかった。
名前を入れてみると、一発で見つかった。
しかし、最終ログイン日を見ると2年前になっている。
「とりあえずメッセージ送ってみるわ」
[お久しぶりです!覚えてますか?]
望み薄ではあるが、返信が来ることに期待した。
しかし、いや、やはり、なかなか返信は来なかった。
1時間、2時間、5時間、10時間…
やっぱりダメだったかと思い、自宅のベッドでYouTubeを観ていた時、Facebookから一通の通知が表示された。
[ゆうや!?久しぶりー!もちろん覚えてるよ〜]
止まっていた過去が動き出した。
YouTubeで動画を見ながら、もう寝そうになっていたが、私は飛び起きた。
人間は驚くと、本当に体が跳ね上がるようだ。
驚いた私は、驚いたままの勢いで返信した。
それからとんとん拍子に話が進み、なんと、今度飲みに行こうと予定を組むことができた。
会えば約5年ぶりとなる。
お互い歳は20と、間違っていなければ32歳。
中学生の頃、どのくらいの距離感で話していたかさえ忘れかけていた。
2月、高橋先生に会う当日。
私はなぜか、自分でも驚くほど緊張していた。
指定されたお店に着くと個室へ通された。
私が先に到着し、先生を待つ。
どんどん緊張が高まっていく。
「いらっしゃいませー」と店員が言うたびに、気が引き締まる。
何度か店員のそれが店内に響き渡った後、ついに先生が到着した。
お互い顔を見合わせる。
先生から一言、
「久しぶり…!」
「久しぶり…、です!」
その瞬間、当時と全く変わらない先生の姿に、私は心を奪われるのを感じた。
あの頃は「先生」として好きだったが、今度は紛れもなく、一人の「女性」として。
お酒を飲みながら、当時の思い出話や、先生と鈴木先生の結婚秘話、子どもの話など、いろんな話をした。
ただ一つ、私にはどうしても確かめたいことがあった。
少し会話が切れたのを見計らい、聞いてみた。
「先生さ、卒業式の日、俺のこと抱きしめたの覚えてる?笑」
「笑笑…うん、覚えてるよ笑」
突拍子もない無粋な質問に笑うしかない、という感じだった。
しかしデリカシーのない私はもう一歩踏み込む。
「あれはさ、どういう意図があったん?笑」
「あれは…、まぁ海外なら挨拶だしね!笑」
「挨拶」。本心なのかもしれないが、「英語の先生」ということを盾に、不器用にかわされた気がした。
「あんなん恋愛経験のない中学生男子にやっちゃだめよ笑」
とだけ、自虐を入れつつその話は流した。
夜も更け、そろそろ帰ろうと席を立つ。
私は歩いて帰るつもりだったが、先生は車で来ていたので、代行を呼んで一緒に乗せてもらうことにした。
代行の車に乗っている間、沈黙があった。
今、先生は何を考えているんだろうか。
分かるはずもないそんなことを思いながら、無抵抗に車に揺られていた。
先生の実家から歩いて5分ほどで私の自宅なので、先生の実家で降ろしてもらい、そこからは歩くことにした。
車を降りてから、「そこの曲がり角まで送るよ」と、ほんの数十メートルではあるが、見送ってくれた。
曲がり角と言っても、田んぼが広がるだけなので、曲がった先は暗いが、道は見える。
2月の空気が肺に刺さる。
冷たい夜風に肩を上げながら、暗い夜道を小さく歩く。
明かりと言えば、月明かりと、その曲がり角に立つ一本の街灯だけで、しんと静まった夜が、二人の影を奪っていた。
街灯の下、ここでお別れだ。
沈黙が続く。
おもむろに先生が私の手を握り、唇を軽く噛みながら、あの卒業式の時と同じ目で見つめてきた。
150cm程度しかない先生の身長でこの距離では、どうしても上目遣いになる。
あんたはそうやって、いつもずるい人だ。
結婚して子どももいて、こんなクソガキ相手に何してんだよ。
もうどうしようもなく好きなっていく自分の気持ちを抑え切れず、手を引き、そして抱きしめた。
自分の背中に彼女の手がまわるのを感じた。
私は精一杯の強がりと、精一杯の悔しさを込めて、大きく深呼吸した後に一言だけ、
「『挨拶』。」
少し笑い合い、もうそれ以上はお互いに求めなかった。
「先生と生徒」、その関係は保たなければいけない。
後日、「あの時、好きになっちゃダメって、生徒として見なきゃダメって、ずっと自分に言い聞かせてた」と、メッセージをもらった。
お互いに感じていたことは同じだったらしい。
するりと身体をほどき、お互いの顔が街灯にぼんやりと照らされる。
卒業式の日に言われた「またね」を、今度は「ありがとう」に変えて、街灯の下から離れていく。
少し歩いて振り返ると、顔はもう見えないが、まだそれほど遠くへは行っていなかった。
「なぁ、先生!」
もう今を逃せば気持ちを伝えられないと思い、気づけば声を上げていた。
私の声は、静かな夜に響いて、先生の足を止めた。
「大好きです。」
一言だけそう伝えて、ゆっくりとまた、歩き出した。
私はポケットからタバコを取り出し、最後の一本に火を付けた。
空っぽになった心が締め付けられる思いだ。
その気持ちを、さっきまで握られていた左手に乗せ、私は力強くタバコの空き箱を潰した。
もう、4年前の話である。