オーナー今井の暴露 中編 「夫公認セラピスト」
「ここで働くことはご主人には内緒で?」
今井は沙紀に興味本位で聞いてみた。
「いえ、知っています」
彼女はそう言うと、詳しいことを話し始めた。
結婚七年目だが、もうとっくに夫婦関係は破綻している。
夫は沙紀のことを女としてではなく、家政婦としか見ていない。
家事は何一つやらないどころか、服や食べたの物をその辺にほっぽらかしていて、片付けをすることなど全くなかった。
いくら言っても変わらないどころか、「いつも家にいるんだからそれくらいはお前の仕事だろ」と開き直りのような暴言まで吐いてくる。
沙紀が少しでも昔の夫に戻ってもらおうと、新しい服を買ったり、髪型を変えてみて気を引こうとするが、そんなことにも一切気が付かなかった。
いや、気付いたとしても、声を掛けることはないのだろう。
子どももいないし、もう離婚もいいのかなとさえ思っている。
「夫はあらゆる面で何の努力もしないんです。どんどんだらしない体になって、メタボリック症候群ってやつですね。あ、あと睡眠時無呼吸症候群。だからイビキも凄くて隣にいると眠れないんです。正直寝てる間に呼吸が止まって、死んでくれないかなって考えたこともあります。毎日、こんな夫と絶望しながら生活していくなんて、結婚当初は考えもしなかったですよ」
沙紀は独特の愚痴をこぼした。
そして、結婚七年目の破綻した夫婦関係は、夫のメンズエステ通いで火花が切られた。
知ったのは本当にたまたまだった。
ある日、夫の会社の同僚が家に遊びに来たことがあった。
酒も入っていたからか、饒舌になった同僚が、
「最近マッサージばっかり行ってて付き合い悪いよね。そんなにいいの?メンズエステって」
と言ったのだ。
最初沙紀はついに自分磨きでも始めたのかと思ったが、夫の顔色がサッと変わったのを見逃さなかった。
台所に戻り、自分のスマホでメンズエステと検索をすると、谷間を強調し、顔の一部分を隠したり口から下しか載っていないセクシーな女性の写真が大量に出てきた。
これって、風俗?
とりあえず夫に問い詰めてやることにした。
同僚が帰った後に、そそくさと寝る体制に入ろうとする夫を呼び止めてメンズエステについて聞いてみた。
「ただのマッサージだ。やましいことはしてない」
夫は白を切った。
「じゃあ、私がメンズエステで働いても文句ないよね?」
沙紀は言い放った。
夫は少し間を置いてから、小さく頷いた。
「そういうわけで、夫には別に内緒にもしていません。メンズエステで働いてひとりでも生活できるようになれば、夫と離婚したいとも考えてます」
沙紀は嬉々として言った。
今までは専業主婦で、旦那から少ない小遣いを貰って生活をしておりとても窮屈だった。
今までは働きたいと言っても、女は家で旦那の帰りを待っているものだという封建的な考えを強要させられたので、働きに出られなかったのだ。
沙紀はマッサージの経験がなかったが、容姿はそこまで悪くないし、会話力も悪くなかったので、今井は採用することにしたのだった。
セラピストは訳ありが多いし、そう珍しい話でもない。
続く......