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ゆりの暴露 第5話 「退店、そして再び」
泣きながら風俗行為をしてから、一ヶ月も経たずに、ゆりはその店を辞めた。
しかし、昼のまともな職をと探したが、やはり給料が安く感じる。
(9時間働いても1日1万円ももらえない。メンズエステだったら1本つけば1万円貰えるのに…)
メンズエステは神経をすり減らすが、働く時間が自由で、シフトも1週間ごとの提出でよく、嫌な客でもその時間を我慢して頑張るだけで普通の仕事の1日の給料が貰える。
嫌なことは嫌と言ってもいい。
嫌な客は帰らせてもいい。
帰らせてもその時間分のお給料はもらえる。
対してマッサージ技術もない自分でも、あそこまでひっきりなしに客が入るのだから、例え指名を貰えなくても稼げる業界なのだ。
風俗でもなく、お酒を飲む必要もなく、ノルマもない自由な出勤体制の緩い仕事。
どんなに探してもこれ以上の職は見つかりそうになかった。
そう自覚してからは、メンズエステの求人を探し、恵比寿にあるワンルームタイプの比較的新しめのメンズエステに面接に行き、働くこととなった。
新しい店は前の店比べて変わった点は、オプションであった。
恵比寿の店にはオプションがいくつもあり、オプション代は全てセラピストの取り分となるのだ。
オプションは、ホイップ、ディープリンパ、衣装チェンジの三つある。
ホイップは泡を紙パンツの中に入れて、直接触っているような感触にさせてマッサージをする。
ディープリンパは10分1000円で、いくらでもつけられるのだが、これを付けたからって、鼠蹊部の時間が伸びるだけで、特に何かが変わるわけではない。
まあ鼠蹊部の時間が伸びるのは客としてはいい話なのだろう。
多く付ければ付けるほど、多少ディープでバリエーションを増やした鼠蹊部の施術になる子もいるようだが、基本的にはセラピストへのチップだと思えばいいらしい。
衣装チェンジは、デフォルトのワンピースの衣装から、少し透け感のあるベビードールになるくらいだ。
最初の店よりもいやらしさの少ない、可愛い衣装でゆりは結構気に入っていた。
新しい店で働き始めて1週間後、最初に出会った変な客は、三十代後半の冴えない感じのサラリーマンであった。
着ているスーツはヨレヨレで、革靴は靴底がすり減っていて、だいぶ磨いていないのではないかと思えた。
髪ももっさりしていて、髭も中途半端に生えている。
メンズエステに来る金があるなら、まず身だしなみを整えたらどうだと言いたかった。
だが、そこは笑顔を繕って、代金の支払いを済まし、シャワーを浴びさせ、部屋に戻って施術を始めた。
客はディープリンパ10分と衣装チェンジを頼んだので、ゆりは透け感のあるベビードールに着替えていた。
客は途中何度も喋りかけてくるが、口ごもっているので、何と言っているのかがよく聞き取れない。
取り敢えずこちらから話題を振ろうと話し掛けてみた。
「お仕事で外回りをされているのですか」
ゆりがきくと、
「いや、別に」
客はぼそっと答えた。
それから、しばらく無言になる。
嫌な客にべらべらと喋りかけられるのも好きじゃないが、話が続かないのも時間が長く感じて辛い。
「よくメンズエステに来られるんですか」とか、「このお店は何度か来られたことあるのですか」など当たり障りのないことをきいても、短い返事しか返ってこない。
そのくせ、うつ伏せでカエル足になってもらい、きわどいところの施術になると、大したことしていないのに呻きだした。
四つん這いになると、さらに喘ぎ声は大きくなった。
気持ち悪くて、鼠径部付近のマッサージは控えめにした。
すると、客は四つん這いのまま、顔だけをゆりに向け、
「抜いて」
と、小さな声で言う。
ゆりは何も答えず、作り笑顔を向け、マッサージを続けた。
すると、客はむくっと起き上がり、カバンの中からコンドームと小型のバイブを取り出した。
「えっ?」
ゆりは怪訝な表情を向けると、
「やらせて」
客はゆりを横目で見ながら言った。
(うわっ気持ち悪い!)
「ダメですよー」
ゆりは内心を隠して、やんわり拒否をした。
すると、客の顔色は突然変わった。
「ふざけるな!」
と小型のバイブを床に投げつけた。
「えっ……」
ゆりが言葉を失っていると、客は黙り込み、オイルで濡れたままの体で着替え始めた。
客は再び清潔感のないヨレヨレのスーツを着込むと、
「もう二度と指名してやんないから」
ギロリとゆりを睨みつけるとそう言い放ち、ドカドカと大きな足音を立てて部屋を出て、乱暴に玄関の扉を開けて去った。
客が出て行って直ぐに、ゆりは急いでオーナーに電話をかけた。
「もしもし、いま来られたお客さんがやらせてくれって言うので断ったら、怒って帰っちゃいました」
ゆりは呆れた口調で告げた。
「えっ、怒らせた? 何やってんだよ」
オーナーが不機嫌そうに言う。
「えっ、だって、ここは風俗店じゃないので」
「うまい断り方があるだろうが。客を怒らせるなんて店の評判が下がるだろ。もうちょっと考ろ!」
オーナーの尖った声が耳を突く。
ゆりは何でオーナーがそんなことを言うのだろうと理解出来なかったが、まだ入店してまもなくでそこまでオーナーと揉めたくもなかった。
不本意だったが、うまくあしらえなかった自分がいけないと言い聞かせることにした。
それに、時計を見てみると残り45分もある。施術時間が短くできてラッキーだと思うようにしよう。
不思議なことにゆりはそういう考えにすぐに慣れていった。
続く......